僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?

いちみやりょう

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大掛かりな治療を受けて目を覚ました和樹の目は、すっかり見えなくなっていた。
一緒にいた俺も、医者から説明を聞いたけど、体調の悪化も、目のことも原因不明だそうだ。

「最初に、風邪をひいた時は別にたいしたことなかったんだ」

落ち着きを取り戻した和樹が、病室のベットでポツリと呟いた。

「けど、風邪とかひいたら気が沈むっていうか、ネガティブになって、そしたら、僕の人生がこれからどんどん悪い方に向かう気がして……それで、実際そうなってった」

病は気からというけど、目の前の和樹もまた相当に心を病んでいるように見えた。

「周りで、何か分からない声が囁くんだ……。死ね、死ねって。僕は何も悪いことはしてないのに、こんなのっておかしいよね」
「……」

俺からしたら、和樹が何も悪いことをしていないと言える和樹の神経を、恐ろしく感じた。
けれど、和樹も自分がやっていることが悪いことなのは認識しているだろうとも思った。
そうでなければ、今の自分の状況が、千秋君の呪いだなんて考えないだろうから。

「ねぇ、笹原そこに居るんだよね?」
「……もう行くよ」
「待ってよ! 僕、話し相手もいなくて」

同情を誘うような話し方だけど、そんなの俺には関係ない。

「誰でも呼べば来るんじゃないの。ほら、和樹って、可愛くて美しいんだろ? そんな子のためなら話し相手になってくれる人いっぱいいるだろ?」
「……そんなの、みんな居なくなっちゃったよ」
「やっぱり、自業自得だな」

そう呟くと、ふと、もうすっかり目が見えなくなっているはずの和樹と目があった。
和樹も驚いて俺を見ていた。

「あれ、なんで僕」

そう呟いた和樹の顔は、みるみる恐怖に染まっていった。

「うわぁ!! なにこれ!! 笹原! 助けて!! ひっ、やだぁ!! 嫌だ!!」
「おい、どうしたんだよ」

目の前で突然怖がり暴れ始めた和樹に俺は動揺しながらも、ナースコールを押した。

「笹原っ、助けて! 黒い…あぁ!! 黒い手が僕をっ」
「おい、落ち着け。もうすぐ医者が来るから」

看護師が来て、医者が来ても和樹は泣いて暴れて、黒い手が黒い人が、とずっと叫んでいた。

和樹はその後、統合失調症だと診断された。
統合失調症の症状には妄想や幻覚などがある。
呪いだとか、死ね死ねと聞こえるとか、黒い手や黒い人などが見えると言っていたけれど、統合失調症なら納得だった。
和樹の実家が醜聞を恐れてほとんど窓のない精神病院へ入院させられたらしい。

だが、和樹は精神病院へ入院したその日突然亡くなった。

俺が何かしたんじゃないかと疑われて、少し面倒にも巻き込まれたけれど、結局和樹の死因は肺炎だった。和樹は最後まで手が、顔がと叫んでいたらしい。
和樹の葬儀に参列した際は、和樹の棺が開けられることはなかった。
参列者に見せられないほどのその死顔は凄まじいのだろうと、想像に容易かった。

葬式からの帰りに、ふと思った。
和樹は本当に統合失調症だったのだろうか。
あの怯え方は尋常じゃなかった。
まるで本当にそこに何かがあるかのような手の動きだった。

「まぁ、いいか」

和樹は、ひっそりと、誰からも悲しまれることなく死んでいった。
俺は特に和樹に何か嫌なことをされた訳じゃない。
だからかな。俺は和樹を好きでも嫌いでもなかったから、和樹の死は俺も特に悲しくはなかった。

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