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5 王国軍に入りたい
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第三王子との婚約破棄は、すぐに貴族に知れ渡り、もちろんルーナストの両親もそれを知ることになった。
「ふざけているのか……っ」
「死を持って償うべきよ」
ルーナストの前で怒りをあらわにしているのは、ルーナストの両親であるブラクルト辺境伯とブラクルト辺境伯夫人である。
「だいたい、あのお茶会を開いた伯爵夫人が敵を招き入れたそうじゃないですか!」
「そうだ! それをルーナが守っていなければ第三王子など死んでいたというのに!! 第三王子め! 恩を仇で返すとはこのことだな!!」
「父上、母上、落ち着いてください。私は、ホッとしているのです。好きでもないお方と結婚し王子妃になるよりも、前戦で活躍したいと願っているのですから」
「「ルーナスト……っ」」
ブラクルト夫妻は声を揃えルーナストの名を呼んだ。
2人とも涙目で、感動している様子だ。
ブラクルト辺境伯領は、国の最北端に位置し、さらに周辺には敵国が3カ国ある密集地帯のため隣国との小競り合いや攻めに耐えうるべく実力主義の世界だ。ブラクルト辺境伯領でならば、例え平民でも実力さえあれば上を目指せる。その中で、剣術・体術・魔術の全てが秀でているルーナストは、両親であるブラクルト夫妻でさえも一目置いていた。王家の婚約による圧力がなければ、ルーナストを後継にしたいと思っていたくらいなので、今回の婚約破棄の騒動にブラクルト夫妻は怒り狂っていた。
「王家が望んだ婚約だ。それなのに、ルーナが恥を掻かされたのだぞ……っ」
歯を食いしばり悔しさに声を震わせたブラクルト辺境伯の声に、夫人もうなずく。
「ルーナ。髪までこんな短くして守ったと言うのに……っ。それなのにこんな恥をかかされて、耐えなくても良かったのよ。第三王子など殺してしまっても、揉み消してしまえるだけの力はあるのだから」
ルーナストの中には両親のような怒りは少しもなかった。
ただ純粋に自由に生きられると思っただけだ。自由になったルーナストはそのままブラクルト辺境伯領の前戦で活躍しようと思っていた。
けれど、その考えはお茶会にいた紳士、スティールと話して変わっていた。
王都にある軍に入って鍛えたい。
実戦形式でしか学んだことのないルーナストにとって基礎も学べ、軍事演習にも参加でき、サバイバル訓練などもできるのは魅力的だった。
「父上、母上、婚約も破棄になりましたので私は王都にある軍に入りたいのですが」
「そんなっ。ずっと自領の前戦で戦いたいと言っていたじゃないのっ。どうして」
「実は以前から考えていたのです。ここで戦うのも魅力的ですが、王都の軍で働けばここでは学べぬことも多いと思っていました」
「でも、王都の軍には男性しか入れないのでしょう?」
夫人の心配そうな瞳に、ルーナストは微笑んで返す。
「もちろん、男装して参ります。ちょうど髪も短くなりましたし」
そもそも、普段のルーナストは軍服を着ていることが多い上に、女性の平均身長よりもかなり高いので、ブラクルト伯爵の屋敷で働く侍女たちに人気があるくらいだ。あえて男装をすれば、バレることもほぼないだろう。
「……ショーンも連れていくのだぞ」
辺境伯は唸るような声でそう告げた。
「あなたっ! どうして!」
「強くなりたいと願うのは、ブラクルトの血だ。どうすることも出来ないだろう。辛くなって帰ってくるなど情けない真似は見せるなよ」
「はい。ありがとうございます……母上も、よろしいですか?」
「……嫌ですっ……と言っても行ってしまうのでしょう? 私たちの勝手で婚約を結んでしまって貴女には余計な苦労をかけてしまいました。月に1度は手紙を送るのですよ」
「はい、母上。ありがとうございます」
両親に許しをもらえ、ルーナストはホクホク顔で辺境伯の書斎を後にした。
その後、ショーンに事の次第を話し荷物をまとめて伯爵領を旅立ったのは、婚約破棄を申し渡されてから1ヶ月後だった。王都で試験があるのがそのくらいの日程だったし、ブラクルト夫妻が送別会パーティーを連日開いたためだ。ルーナストとしては、基本的には放任主義である両親から別れを惜しまれて愛されている実感はあったものの、来年成人を迎える末っ子への対応としてはやや過保護気味に感じた。その上、そのパーティーの間、辺境伯領に住う多くの女性が、ルーナストにダンスの相手をしてほしいなどと頼んできてパーティーのほどんどを踊って過ごしたのだ。どうやら髪の毛を短く切りそろえた姿が女性達のお気に召したらしい。
「ふざけているのか……っ」
「死を持って償うべきよ」
ルーナストの前で怒りをあらわにしているのは、ルーナストの両親であるブラクルト辺境伯とブラクルト辺境伯夫人である。
「だいたい、あのお茶会を開いた伯爵夫人が敵を招き入れたそうじゃないですか!」
「そうだ! それをルーナが守っていなければ第三王子など死んでいたというのに!! 第三王子め! 恩を仇で返すとはこのことだな!!」
「父上、母上、落ち着いてください。私は、ホッとしているのです。好きでもないお方と結婚し王子妃になるよりも、前戦で活躍したいと願っているのですから」
「「ルーナスト……っ」」
ブラクルト夫妻は声を揃えルーナストの名を呼んだ。
2人とも涙目で、感動している様子だ。
ブラクルト辺境伯領は、国の最北端に位置し、さらに周辺には敵国が3カ国ある密集地帯のため隣国との小競り合いや攻めに耐えうるべく実力主義の世界だ。ブラクルト辺境伯領でならば、例え平民でも実力さえあれば上を目指せる。その中で、剣術・体術・魔術の全てが秀でているルーナストは、両親であるブラクルト夫妻でさえも一目置いていた。王家の婚約による圧力がなければ、ルーナストを後継にしたいと思っていたくらいなので、今回の婚約破棄の騒動にブラクルト夫妻は怒り狂っていた。
「王家が望んだ婚約だ。それなのに、ルーナが恥を掻かされたのだぞ……っ」
歯を食いしばり悔しさに声を震わせたブラクルト辺境伯の声に、夫人もうなずく。
「ルーナ。髪までこんな短くして守ったと言うのに……っ。それなのにこんな恥をかかされて、耐えなくても良かったのよ。第三王子など殺してしまっても、揉み消してしまえるだけの力はあるのだから」
ルーナストの中には両親のような怒りは少しもなかった。
ただ純粋に自由に生きられると思っただけだ。自由になったルーナストはそのままブラクルト辺境伯領の前戦で活躍しようと思っていた。
けれど、その考えはお茶会にいた紳士、スティールと話して変わっていた。
王都にある軍に入って鍛えたい。
実戦形式でしか学んだことのないルーナストにとって基礎も学べ、軍事演習にも参加でき、サバイバル訓練などもできるのは魅力的だった。
「父上、母上、婚約も破棄になりましたので私は王都にある軍に入りたいのですが」
「そんなっ。ずっと自領の前戦で戦いたいと言っていたじゃないのっ。どうして」
「実は以前から考えていたのです。ここで戦うのも魅力的ですが、王都の軍で働けばここでは学べぬことも多いと思っていました」
「でも、王都の軍には男性しか入れないのでしょう?」
夫人の心配そうな瞳に、ルーナストは微笑んで返す。
「もちろん、男装して参ります。ちょうど髪も短くなりましたし」
そもそも、普段のルーナストは軍服を着ていることが多い上に、女性の平均身長よりもかなり高いので、ブラクルト伯爵の屋敷で働く侍女たちに人気があるくらいだ。あえて男装をすれば、バレることもほぼないだろう。
「……ショーンも連れていくのだぞ」
辺境伯は唸るような声でそう告げた。
「あなたっ! どうして!」
「強くなりたいと願うのは、ブラクルトの血だ。どうすることも出来ないだろう。辛くなって帰ってくるなど情けない真似は見せるなよ」
「はい。ありがとうございます……母上も、よろしいですか?」
「……嫌ですっ……と言っても行ってしまうのでしょう? 私たちの勝手で婚約を結んでしまって貴女には余計な苦労をかけてしまいました。月に1度は手紙を送るのですよ」
「はい、母上。ありがとうございます」
両親に許しをもらえ、ルーナストはホクホク顔で辺境伯の書斎を後にした。
その後、ショーンに事の次第を話し荷物をまとめて伯爵領を旅立ったのは、婚約破棄を申し渡されてから1ヶ月後だった。王都で試験があるのがそのくらいの日程だったし、ブラクルト夫妻が送別会パーティーを連日開いたためだ。ルーナストとしては、基本的には放任主義である両親から別れを惜しまれて愛されている実感はあったものの、来年成人を迎える末っ子への対応としてはやや過保護気味に感じた。その上、そのパーティーの間、辺境伯領に住う多くの女性が、ルーナストにダンスの相手をしてほしいなどと頼んできてパーティーのほどんどを踊って過ごしたのだ。どうやら髪の毛を短く切りそろえた姿が女性達のお気に召したらしい。
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