チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

文字の大きさ
12 / 49

12 嬉しくない1位

しおりを挟む
その後、ルーナストは何試合かした。結果的に言えば、ルーナストはトーナメント1位になることができた。

(あんまり嬉しくない1位だけどね……)

数名、ロイと同じようにわざと手を抜いている試験生がいたのだ。
この1位は本当の1位ではない。
ルーナストは最後まで釈然としない思いで戦った。
最後の1人にも難なく勝つと、椅子に座って鋭い目で見ていたベルガリュードはゆっくりと立ち上がり、ルーナストに向かって歩いてきた。
目の前で立ち止まったベルガリュードはやはり背が高い。
ルーナストは170センチほどだが、そのルーナストよりも頭ひとつ分はでかそうに見えた。

「優勝おめでとう」

低い声が上から降ってくる。

「ありがとうございます」
「さて、約束だ。私に叶えられる願いなら聞き入れてやろう。何か望みはあるか」
「はい、閣下。私の望みはドラスティール元帥閣下との一戦です」
「私と戦いたいと?」
「はい」
「……いいだろう。だが、今のお前の力ではさすがに私も楽しめまい。お前が無事、試験に受かりその後新兵の訓練に絶え抜いた暁にはその願いを叶えてやろう」

口の端をわずかに上げ、ルーナストを静かに見下ろすベルガリュードは楽しそうにも見える。

(それでは話が違う)

けれど、ルーナストはうなずくしかった。



「ルート! どうだった?」

別の試験場に行っていた訓練生が戻ってくる中、ダダダと走り寄ってきたのはショーンだ。

「ショーン! ショーンこそどうだったの?」
「僕はまぁ、手応えありかな! 多分受かると思う」

ショーンはニコニコ顔だ。

「本当? 私も受かるとは思うけど、ちょっと自信はない」

トーナメント1位とはいえ、中には本気じゃない試験生もいた。
その人たちにルーナストは勝てる気がしなかったのだ。

「え~。あのルートが!」
「なにその言い方」
「だって、ルートってばいっつも余裕綽綽みたいな感じだったじゃん。僕、ルートに勝ったことないし」
「上には上がいるんだよ」
「へ~。あ、ところで横にいるでっかい人は誰?」

ショーンが少し警戒したようにルイを見た。

「ああ、友達になってくれたロイ・アスランだよ。剣がとっても強い。で、ロイ、この子はショーン・ウィリー。私の友人だからショーンとも仲良くしてくれると嬉しい」
「ロイ・アスランです。ロイと呼んでくれ。よろしく」
「……ショーン・ウィリー。ショーンでいいよ」

2人の自己紹介が終わって、ルーナスト達3人は試験結果を待つ間少し話しながら待った。
話すうちにショーンは、ロイがその見た目とは裏腹に、無骨だけれどもいい人間であると判断したのか警戒を解いてそれなりに仲良くなったようだ。

「そういえば、こっちの試験会場にはあの、ドラスティールの鬼神がいたんだよ!」

嬉しそうに報告するショーンにルーナストは首を傾げた。

「ドラスティールの鬼神って、ベルガリュード・リック・ドラスティール第二皇子殿下?」
「そうそう! とっても大きくてかっこよかった! ルートはファンだったよね? ルートも見られる機会があるといいけど」
「見たよ。私たちのところにもずっといらっしゃったし」
「え……。嘘。じゃあまさか、分身?」
「そうかも。本当、すごい方だね」

分身はかなり高度な魔術の上に、うまく魔力をコントロールしなければ多くの魔力を消費する。
常人にはとても真似できるような魔術じゃないのだ。

「ねぇ、ロイもドラスティールの鬼神のファンでしょ? この帝国領の軍人を目指す人はみんなファンだよね」

ショーンはそれはもう嬉しそうにロイに尋ねた。

「まぁ、すごいお方だと俺も思うが、ファン……ではないな」
「ええーー!? そんな」

ロイの返事が想定外の返事すぎたのか、ショーンは信じられないものを見る目でロイを見て固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...