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20 ルートの正体

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ベルガリュード視点

ドラスティール帝国で働く密偵からの情報によると、帝国の属国であるカンドルニア王国に不穏な動きがあるそうだ。国家転覆を狙う組織がありそれがかなり活発に行動しているらしい。
小国ではあるが、帝国の属国の中でも端に存在し、3つの敵国に面しているカンドルニア王国で大きなトラブルが起こることは避けたい。今年の王国軍への入隊試験にその組織の下っ端を紛れ込ませようとしている可能性を考え、ドラスティール帝国ではカンドルニア王国の入隊試験を帝国軍と合同で行い、その後の訓練まで監視することが決定した。
偶数の班と奇数の班に別れてもらい、奇数班のトーナメント戦で1位になったルートという少年をベルガリュードはかなり怪しく思った。

平民の出立でいて、どこか気品を匂わせる仕草。
今までただの平民だったにすれば高すぎる戦闘能力。
その上、見たところかなり高い魔力があるくせに隠している様子。
試験生側に潜り込んでいる者たちを集めても、ルートの怪しさはピカイチだった。

「ルートは何か怪しい行動をしているか」
「いえ、話を聞く限りでは閣下に心酔しているようです。俺には何がいいのか分かりませんが」

本人を前にしてこのようなことを言う男は、ベルガリュードの側近であるロイだ。ロイ・アスランと名乗らせ、ルートとショーンを監視させている。

「まぁ、心酔かどうかは分からないが、頑張っているようだな。努力をする若者は見ていて気持ちがいい」

ベルガリュードの言葉に、ロイは無言であった。
1ヶ月その人となりを見て、ベルガリュードはすっかりルートを可愛い部下に思えてしまっていた。その可愛い部下が、ベルガリュードに憧れ心酔し努力しているのは悪い気はしない。
けれどその次の日、ベルガリュードはルートの正体を知ることになった。
ロイとルートが休憩室で会話をしているのを遠くから見ていると、ショーンがそこに加わり、今度はルートが休憩室を出て行った。
方向的にトイレに向かったのだろう。
ベルガリュードが一応後をつけて見るとトイレ脇の奥の柵から訓練所を覗き込んでいる女性に近づいて行った。いつも訓練を見に来ている女性だ。
ルートが国家転覆を狙うグループの仲間だとすれば、情報を渡している場面にも見えなくは無い。
もしくはただの恋人との逢瀬か。
けれど、風魔術で2人の会話を聞く限り、恋人との逢瀬でも情報提供でもなく、ただ、護衛をつけていないことへの心配をしているだけなようだ。

だが忠告も虚しくすぐにゴロツキが現れ、女性がさらわれそうになった時、ルートは魔術を使った。
強い光を出した後、風魔術で女性の元に降り立ち、その上光の矢を敵に降り注いだ。

(ブラクルトの女神……?)

ベルガリュードは元帥になる前には各地いろいろな戦場へ赴いた。
その中で、ブラクルトの地でド派手に戦う白髪の少年を見たことがある。
長髪を後ろに束ねて魔術に剣術に体術に、荒々しく戦っていた。
敵に降り注ぐ光の矢もその時に見た。
あれは間違いなく少年だった。
それなのに、武功をあげるのはブラクルト辺境伯のルーナスト・メディスタム・ブラクルト辺境伯令嬢であるのを不思議に思っていた。
けれど、目の前で見てやはりブラクルトの女神と呼ばれる人物は、ルートで間違い無いと確信した。
ブラクルト辺境伯令嬢はルートの手柄を横取りしていたのだろうか。
ルートが平民の出立で貴族のような立ち振る舞いなのも、魔力を隠したがるのも、ブラクルト辺境伯令嬢が関係しているのだろうか。
手柄を誰かに横取りされる生活が嫌で、こっそりと王国軍の試験を受けに来たという可能性もある。
その日の夜、ベルガリュードはルートを呼び出した。
サボったことを咎められるのだろうと思っているのか、ルートは気まずそうな顔をしてやってきた。
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