チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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23 帝国側

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ベルガリュード視点

ルートと話をしている最中に、ベルガリュードの元に帝国の皇帝である父から使者が来た。
内容は機密情報ということで、ルートを下がらせ話を聞くと父の退位とベルガリュードの婚約が決まったという内容だった。
どちらも寝耳に水な話で、ベルガリュードは困惑しながらもロイを引き連れ城に戻った。

「父上、どういうことですか」
「ああ、戻ったか。どういうことも何もない。私の愛するクリスティを見つけてしまった」
「母上が見つかったんですかっ」

父は嬉しそうにうなずいた。
ベルガリュードの母であるクリスティは、父であるローランと喧嘩して5年も前から家出中だ。
どこを探しても見つからず、ローランは暇さえあればクリスティを探す旅に出た。
幸い、仕事のできる人なので、公務は城にいる間にこなしていたようだが、必死に探した甲斐があってやっと見つかったらしい。

「ですが、それがなぜ退位に?」
「私は妻と仲を深めるため旅に出る。後のことはお前たちに任せようと思ってな」
「そんな勝手な。それに突然の私の婚約の話は何ですか」
「皇太子のグレンツェには婚約者がいるが、ベルガリュードにはいないだろう? お前の婚約者を決めることは父として、皇帝として最後の仕事だ」

満足そうにうなずきながら話すローランの姿にベルガリュードはこめかみを抑えた。
いつもはもう少し落ち着きもあるし、威厳もある皇帝と呼ぶにふさわしい貫禄の持ち主のローランではあるが、クリスティのこととなると思考が停止する。

「善は急げだ。では私は旅に出てくる!」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」

ローランは静止の声も振り切って、軽い足取りで去っていってしまった。
残されたのは、困惑したままのベルガリュードと、終始無言で渋い顔をしていたベルガリュードの兄グランツェの2人だけだ。

「兄上、どうなさるのですか」
「……はぁ。こうなった父上は周りも見えぬ。急ぎ戴冠式を行わねばならない。それと……お前の婚約の儀……」
「私の婚約者とはどなたになったんですか」
「ああ……。今お前が居る国の令嬢だ」
「カンドルニアの?」
「ああ。その辺境伯のルーナスト・メディスタム・ブラクルト辺境伯令嬢だそうだ」
「……ブラクルトの女神……」

ベルガリュードは一気に思考が停止した。

「なぜ……ブラクルト辺境伯令嬢なのですか」
「俺に聞かれても知らん。だが、父上はちゃんと御令嬢と話をして決めたそうだ」
「私は、婚約するつもりはありません」
「もう決まったことだ」
「破棄してください」
「それはダメだ。正直、今はそれどころではない。戴冠式の他にもやらねばならぬことが山ほどある。せめて相手を見てから決めてくれ」
「……見なくても分かります。私はブラクルト辺境伯令嬢とは良い関係が築けそうにありません」
「はぁ……。お前がそこまで拒否するのは珍しい。だから、兄として意に添うようにしてやりたい。だが、悪いが、今は無理だ。とにかく来週には戴冠式、来月頭に婚約の儀は決定してしまっている」

(ああ……。母上が見つかって浮かれ切った父上のせいで、私は)

せめて、ブラクルトの女神の正体がルートだと知る前ならば。
ブラクルトの女神であるブラクルト辺境伯令嬢が、ルートの功績を自分のものにしている可能性を考えると、憂鬱になった。
この婚約を知るのがあと1日でも早ければ、特に嫌だと思う感情もなく婚約を受け入れることもできたのにと、ベルガリュードは肩を落とした。
部屋に戻りながら頭を抱える。
自室に戻りソファにどかりと座った。

「はぁ……。結婚相手など誰でも良いと思っていたが」

ベルガリュードは人を愛したことはない。
もちろん、家族に対する愛情や、同僚や部下や国民に対する愛はある。
だが、1人の女性に対して特別な感情を抱いたことはなかった。

(だがまぁ、悩んだところで仕方がないな)

ベルガリュードは断腸の思いで早々に諦めルーナストを妻と迎えることを決心した。

(どうしようもないクズな女性だったら、その時にまた対処を考えればいい)

ブラクルトの女神の件も、ルーナストの意見を聞く前から決めつけるのは良くないと思い直し、翌日予定している鬼のような量の公務に備え眠りについた。
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