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27 自覚
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(暑い……熱い……)
ルーナストは、だんだんと熱くなる体に耐えきれず着ていたドレスを脱ぎとった。
ベッドのひんやりした箇所を探して動き、また温くなったら他のところに移動する。
そうしているうちに、部屋の外からベルガリュードの声がした。
トントントンとノックする音が聞こえ、ガチャリと開いた。
『入るぞ』
(そんな……殺生な)
今のルーナストは、熱に浮かされ体に力が入りづらいものの、目の前に現れた人を襲ってしまいそうな、淑女にあるまじき状態なのだ。
「入ら……ないで……ぁ」
霞む視界で捉えたベルガリュードは、ドア付近からベットに少し近づいた場所にいたが、ルーナストを見て一瞬目を見開いた。
けれど、それは本当に一瞬のことで、すぐにベットの脇まで寄ってきた。
「飲め」
水を差し出されたが、ルーナストはとても素直に飲めるような状況じゃなく、やんわりと首を振りベルガリュードがまた部屋から出て行ってくれることを願った。
「仕方がないな」
フッと笑ったベルガリュードは魔術で水をまとめてコップから出した。
ベルガリュードの魔術によって水がふわふわと宙に浮いている。
その水はルーナストが荒い息を吐いている口の中に勝手に入り込んだ。
「んん……」
巧みに入り込んだ水はルーナストの喉を潤すだけで、決してむせるような事にはならなかった。
「辛いだろう。口から毒物が出るイメージで魔力を体に巡らせてみろ」
「ぅ……ぁ……」
「私が補助をする。大丈夫だ、お前ならできる」
(そんな、何を根拠に)
そう思ったものの、ベルガリュードに右手を取られ、そこから魔力を流し込まれ始めたことで、言われた通りにやるしかなくなりルーナストは必死に体に魔力を巡らせた。
自分の魔力と、流し込まれたベルガリュードの魔力が混ざり、媚薬が体から抜けていく。
時間はかかったものの、体から熱が引き始めルーナストは落ち着きを取り戻してきた。
「あり、がとうございます。かっか」
「ああ。上手く行ってよかった。とりあえず落ち着いたなら服を着た方がいいな」
「っ!?」
(そういえば暑いと思って脱いだんだった……っ)
下着は着ているものの、ほとんど裸も同然の格好でいた事に気がつきルーナストは顔に一気に熱が集まった。
「すみません! お見苦しいところを」
慌てて掛け布団を手繰り寄せ身に纏ったが、ベルガリュードは何も気にした様子はない。
「気にするな、大したことではない。私はもう行く。着替えは侍女に用意させるし、夕食はこの部屋に届けさせるので、今日はここに泊まって行け」
「……はい。すみません、何から何まで」
1人になった部屋の中で、ルーナストは呆然と息を吐いた。
ハプニングとはいえ、肌を見せても何も反応を示さなかったベルガリュードに、ルーナストは胸がズキっと痛んだ。
「好き……なのかもしれない」
言葉にしたら、しっくりきた。
「そっか。私は、閣下のことが好きなのか」
ずっと尊敬はしていた。
けれど、それが恋愛的な意味での好きだとは今まで気がついていなかった。
今まで、高い魔力量と戦闘能力のおかげで、人に助けてもらうと言うよりは、人を助けることが多かったルーナストは、自分より強く、そして困ったときに助けてくれる存在というのはベルガリュードが初めてだった。
「でも、まぁ、閣下が私を好きになることはないし」
ルーナストは自分に対して、諦めろと何度も心の中で言い聞かせた。
(着替えをして、食事をもらって、寝て、それで明日になったらちゃんと閣下に全てを話さないと)
明日になれば少しは2人で話す時間ももらえるだろう。
一応、侍女がくるということで、もともと着ていたドレスに袖を通して、ベットに転がってうたた寝をしているとノックの音が聞こえた。
『失礼します。夕飯をお持ちいたしました』
「あ、はい! どうぞ」
慌てて起き上がって返事をして、ベットから立ち上がる。
その拍子にベッドの脇に落ちてしまっていたらしいカツラを踏みつけたのに気がついて、慌てて被り直した。
(わ、いつから取れてたんだろ。閣下は何も言ってなかったから、うたた寝している間かな)
ドアが開き、夕食が運ばれてきた。
机に綺麗に並べてくれて、美味しそうな匂いに腹の虫がなる。
「わあ美味しそう、ありがとう」
「いえ。それと、こちらはベルガリュード殿下からの贈り物です」
「贈り物? あ、着替えかな。届けてくれてありがとう」
「いえ、それでは失礼いたします。召し上がり終わった頃食器を下げに参ります。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
侍女が頭を下げ、部屋から出て行ったあと、ルーナストはすぐに食事に手をつけた。
どれもこれも美味しくてあっという間に食べ終わった。
「あ、そういえば贈り物……。着替えの服を届けてくれるって言ってたからそれだと思うけど」
届けてもらった箱を開けると案の定中には服が入っていた。
ルーナストは、だんだんと熱くなる体に耐えきれず着ていたドレスを脱ぎとった。
ベッドのひんやりした箇所を探して動き、また温くなったら他のところに移動する。
そうしているうちに、部屋の外からベルガリュードの声がした。
トントントンとノックする音が聞こえ、ガチャリと開いた。
『入るぞ』
(そんな……殺生な)
今のルーナストは、熱に浮かされ体に力が入りづらいものの、目の前に現れた人を襲ってしまいそうな、淑女にあるまじき状態なのだ。
「入ら……ないで……ぁ」
霞む視界で捉えたベルガリュードは、ドア付近からベットに少し近づいた場所にいたが、ルーナストを見て一瞬目を見開いた。
けれど、それは本当に一瞬のことで、すぐにベットの脇まで寄ってきた。
「飲め」
水を差し出されたが、ルーナストはとても素直に飲めるような状況じゃなく、やんわりと首を振りベルガリュードがまた部屋から出て行ってくれることを願った。
「仕方がないな」
フッと笑ったベルガリュードは魔術で水をまとめてコップから出した。
ベルガリュードの魔術によって水がふわふわと宙に浮いている。
その水はルーナストが荒い息を吐いている口の中に勝手に入り込んだ。
「んん……」
巧みに入り込んだ水はルーナストの喉を潤すだけで、決してむせるような事にはならなかった。
「辛いだろう。口から毒物が出るイメージで魔力を体に巡らせてみろ」
「ぅ……ぁ……」
「私が補助をする。大丈夫だ、お前ならできる」
(そんな、何を根拠に)
そう思ったものの、ベルガリュードに右手を取られ、そこから魔力を流し込まれ始めたことで、言われた通りにやるしかなくなりルーナストは必死に体に魔力を巡らせた。
自分の魔力と、流し込まれたベルガリュードの魔力が混ざり、媚薬が体から抜けていく。
時間はかかったものの、体から熱が引き始めルーナストは落ち着きを取り戻してきた。
「あり、がとうございます。かっか」
「ああ。上手く行ってよかった。とりあえず落ち着いたなら服を着た方がいいな」
「っ!?」
(そういえば暑いと思って脱いだんだった……っ)
下着は着ているものの、ほとんど裸も同然の格好でいた事に気がつきルーナストは顔に一気に熱が集まった。
「すみません! お見苦しいところを」
慌てて掛け布団を手繰り寄せ身に纏ったが、ベルガリュードは何も気にした様子はない。
「気にするな、大したことではない。私はもう行く。着替えは侍女に用意させるし、夕食はこの部屋に届けさせるので、今日はここに泊まって行け」
「……はい。すみません、何から何まで」
1人になった部屋の中で、ルーナストは呆然と息を吐いた。
ハプニングとはいえ、肌を見せても何も反応を示さなかったベルガリュードに、ルーナストは胸がズキっと痛んだ。
「好き……なのかもしれない」
言葉にしたら、しっくりきた。
「そっか。私は、閣下のことが好きなのか」
ずっと尊敬はしていた。
けれど、それが恋愛的な意味での好きだとは今まで気がついていなかった。
今まで、高い魔力量と戦闘能力のおかげで、人に助けてもらうと言うよりは、人を助けることが多かったルーナストは、自分より強く、そして困ったときに助けてくれる存在というのはベルガリュードが初めてだった。
「でも、まぁ、閣下が私を好きになることはないし」
ルーナストは自分に対して、諦めろと何度も心の中で言い聞かせた。
(着替えをして、食事をもらって、寝て、それで明日になったらちゃんと閣下に全てを話さないと)
明日になれば少しは2人で話す時間ももらえるだろう。
一応、侍女がくるということで、もともと着ていたドレスに袖を通して、ベットに転がってうたた寝をしているとノックの音が聞こえた。
『失礼します。夕飯をお持ちいたしました』
「あ、はい! どうぞ」
慌てて起き上がって返事をして、ベットから立ち上がる。
その拍子にベッドの脇に落ちてしまっていたらしいカツラを踏みつけたのに気がついて、慌てて被り直した。
(わ、いつから取れてたんだろ。閣下は何も言ってなかったから、うたた寝している間かな)
ドアが開き、夕食が運ばれてきた。
机に綺麗に並べてくれて、美味しそうな匂いに腹の虫がなる。
「わあ美味しそう、ありがとう」
「いえ。それと、こちらはベルガリュード殿下からの贈り物です」
「贈り物? あ、着替えかな。届けてくれてありがとう」
「いえ、それでは失礼いたします。召し上がり終わった頃食器を下げに参ります。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
侍女が頭を下げ、部屋から出て行ったあと、ルーナストはすぐに食事に手をつけた。
どれもこれも美味しくてあっという間に食べ終わった。
「あ、そういえば贈り物……。着替えの服を届けてくれるって言ってたからそれだと思うけど」
届けてもらった箱を開けると案の定中には服が入っていた。
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