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31 モルガンの企み
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2日後、約束の日になってしまいルーナストは朝から気が重かった。
けれど仕方なく着替えを済ませ門へと向かった。
「待て」
「……何かようですか」
後ろから呼び止められ振り向くとモルガンが立っていた。
「お前、リンローズに会うんだろう」
「そうですが、別にあなたから取ろうとしているわけではないです」
「そんなことは、もうどうでもいい。もう俺たちは別れたんだ。あいつとお前が付き合うことになってもどうでもいい」
わずかに俯いたモルガンは、何日か寝ていないのか青い顔をしていた。
「はぁ……、そうなんですか。では何の御用でしょう」
「いくらで今日行くのをやめる」
「は?」
「平民のお前が喉から手が出るほど欲しいくらいの金をくれてやるから、今日リンローズに会いに行くのをやめろ」
随分と不躾な態度にルーナストは苛つきを覚えた。
「それが人に物を頼む態度ですか。それに私は別にお金には困っていません」
「俺は王族だぞ。俺が大人しく頼んでいるうちに命令を聞け」
「それはできません。正直、今日行くのは憂鬱で、何か理由ができれば行きたくないとすら思っていましたが、今はどうしても行きたい気分になりました」
「ふざけるな!」
癇癪を起こしたように突然叫んだ、どこか必死な様子のモルガンにルーナストは違和感を感じていた。
今までもリンローズがらみで絡まれることはあったが、ここまでひどくはなかったような気がした。
「どうしてそんなに必死に止めるんですか?」
「お前には関係ない」
「そうですか。では御前を失礼いたします」
「ダメだ! 待て!!」
立ち去ろうとしたルーナストの右手を掴まれ引き止められた。
その上、その手に結構な金を押し付けられた。
「言うことを聞いておいた方が身のためだ。お前らは俺が第三王子で、王位を継ぐことはないと俺の存在を軽視しているんだろう! だがそれを今に後悔することになるぞ! いいか、俺はお前みたいな平民に蔑ろにされていい人間じゃないんだ!」
「別に王位を継ぐかどうかで軽視しているわけじゃないです。その子供のような癇癪を起こす態度を軽蔑しているだけです」
「なっ……お前……お前……。っ、死刑にしてやる。絶対に」
「理由のない行動の制限に対する拒否は、王族といえども罪に問うことはできません。私を行かせたくないのなら、例えそれが嘘だとしても理由を言うべきだと思いませんか」
「っ」
言葉につまり、それでも理由を言おうとしないモルガンに、ルーナストは畳みかけた。
「まして、リンローズ様とはお別れになって、私がリンローズ様と交際することになったとしてもモルガン殿下は構わないとおっしゃいましたよね。会わないことには交際もできませんから、私たちが愛を育むのを邪魔しないでいただけますか」
ギュッと拳を握ったモルガンは押し黙ったままだ。
「……俺は、やがて王になる」
ポツリとつぶやいた声は、かなり小さくてルーナストは聞き取るのがやっとだった。
「王?」
「……そうだ。俺の言うことを聞くのならば、俺が王になった暁にはお前には軍でそれなりの地位を与えると約束しよう」
モルガンが王位に就くことはまずない。
王太子や第二王子は優秀だともっぱらの噂なのでモルガンの出る幕はないのだ。
だからそれはクーデターを起こそうとしていることを示唆しているように聞こえた。
「それなりの地位、とは」
ルーナストが食いついたと思ったのか、モルガンは口の端を上げた。
「もちろん、平民からの兵の叩き上げではどれだけ頑張っても少尉どまりだろう。お前が俺の手先になると言うのなら、今日リンローズに会いに行ってもいいし、大尉……いや、少佐にしてやってもいい。そこから先は、お前の頑張り次第だな」
「なるほど……。分かりました。それではモルガン殿下に従います」
ルーナストの言葉に、モルガンはホッとしたように体の力を抜いた。
「ふんっ。金よりも地位が欲しいということか。まぁ、これでお前の扱いも分かった。行っていいぞ。これからは俺が呼び出せばすぐに来い」
「はい」
(地位にも興味はないけど……。国家転覆を狙う組織に、殿下は関係しているのかもしれない)
モルガンと交際していた相手であるリンローズもそれに関わっていたから、ルーナストをリンローズに会わせたくなかったのだろうか。交際を止め、ルーナストと関わるリンローズが、ルーナスト相手に何を話すか分からないから。
とりあえずこの報告は夜にするとして、ルーナストは出発しなければならない時間を大幅に遅れていることに気がついた。誰が見ているか分からない場所で、瞬間移動はできないので、できるだけ急いでリンローズの屋敷に向かった。
けれど仕方なく着替えを済ませ門へと向かった。
「待て」
「……何かようですか」
後ろから呼び止められ振り向くとモルガンが立っていた。
「お前、リンローズに会うんだろう」
「そうですが、別にあなたから取ろうとしているわけではないです」
「そんなことは、もうどうでもいい。もう俺たちは別れたんだ。あいつとお前が付き合うことになってもどうでもいい」
わずかに俯いたモルガンは、何日か寝ていないのか青い顔をしていた。
「はぁ……、そうなんですか。では何の御用でしょう」
「いくらで今日行くのをやめる」
「は?」
「平民のお前が喉から手が出るほど欲しいくらいの金をくれてやるから、今日リンローズに会いに行くのをやめろ」
随分と不躾な態度にルーナストは苛つきを覚えた。
「それが人に物を頼む態度ですか。それに私は別にお金には困っていません」
「俺は王族だぞ。俺が大人しく頼んでいるうちに命令を聞け」
「それはできません。正直、今日行くのは憂鬱で、何か理由ができれば行きたくないとすら思っていましたが、今はどうしても行きたい気分になりました」
「ふざけるな!」
癇癪を起こしたように突然叫んだ、どこか必死な様子のモルガンにルーナストは違和感を感じていた。
今までもリンローズがらみで絡まれることはあったが、ここまでひどくはなかったような気がした。
「どうしてそんなに必死に止めるんですか?」
「お前には関係ない」
「そうですか。では御前を失礼いたします」
「ダメだ! 待て!!」
立ち去ろうとしたルーナストの右手を掴まれ引き止められた。
その上、その手に結構な金を押し付けられた。
「言うことを聞いておいた方が身のためだ。お前らは俺が第三王子で、王位を継ぐことはないと俺の存在を軽視しているんだろう! だがそれを今に後悔することになるぞ! いいか、俺はお前みたいな平民に蔑ろにされていい人間じゃないんだ!」
「別に王位を継ぐかどうかで軽視しているわけじゃないです。その子供のような癇癪を起こす態度を軽蔑しているだけです」
「なっ……お前……お前……。っ、死刑にしてやる。絶対に」
「理由のない行動の制限に対する拒否は、王族といえども罪に問うことはできません。私を行かせたくないのなら、例えそれが嘘だとしても理由を言うべきだと思いませんか」
「っ」
言葉につまり、それでも理由を言おうとしないモルガンに、ルーナストは畳みかけた。
「まして、リンローズ様とはお別れになって、私がリンローズ様と交際することになったとしてもモルガン殿下は構わないとおっしゃいましたよね。会わないことには交際もできませんから、私たちが愛を育むのを邪魔しないでいただけますか」
ギュッと拳を握ったモルガンは押し黙ったままだ。
「……俺は、やがて王になる」
ポツリとつぶやいた声は、かなり小さくてルーナストは聞き取るのがやっとだった。
「王?」
「……そうだ。俺の言うことを聞くのならば、俺が王になった暁にはお前には軍でそれなりの地位を与えると約束しよう」
モルガンが王位に就くことはまずない。
王太子や第二王子は優秀だともっぱらの噂なのでモルガンの出る幕はないのだ。
だからそれはクーデターを起こそうとしていることを示唆しているように聞こえた。
「それなりの地位、とは」
ルーナストが食いついたと思ったのか、モルガンは口の端を上げた。
「もちろん、平民からの兵の叩き上げではどれだけ頑張っても少尉どまりだろう。お前が俺の手先になると言うのなら、今日リンローズに会いに行ってもいいし、大尉……いや、少佐にしてやってもいい。そこから先は、お前の頑張り次第だな」
「なるほど……。分かりました。それではモルガン殿下に従います」
ルーナストの言葉に、モルガンはホッとしたように体の力を抜いた。
「ふんっ。金よりも地位が欲しいということか。まぁ、これでお前の扱いも分かった。行っていいぞ。これからは俺が呼び出せばすぐに来い」
「はい」
(地位にも興味はないけど……。国家転覆を狙う組織に、殿下は関係しているのかもしれない)
モルガンと交際していた相手であるリンローズもそれに関わっていたから、ルーナストをリンローズに会わせたくなかったのだろうか。交際を止め、ルーナストと関わるリンローズが、ルーナスト相手に何を話すか分からないから。
とりあえずこの報告は夜にするとして、ルーナストは出発しなければならない時間を大幅に遅れていることに気がついた。誰が見ているか分からない場所で、瞬間移動はできないので、できるだけ急いでリンローズの屋敷に向かった。
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