チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

文字の大きさ
43 / 49

43 衣装

しおりを挟む
「仮面舞踏会に行くんでしょう?」
「ん? うん。どうして知ってるの?」

基本的に同じ任務に就くことは多いが、違う任務の時もある。
そういう時はお互いの任務について知ることはない。
特殊部隊にとって、情報は時として命よりも大事なものになるからだ。
だからルーナストはショーンから突然仮面舞踏会について尋ねられ、動揺した。

「陛下から手紙が届いたんだよ。ルーナストはあんまりドレスとか着ないでしょう? だから僕が着付けてあげるよ」
「ああ、確かに。ありがとう」

ショーンも最初は女装する事を嫌がっていたが、今では“僕は女装の方が仕事がうまくいくみたい”と言って自ら女装をしていることが多い。
逆にルーナストは男装のままでいた方が仕事がうまく行くことが多かったので、久々のドレスだ。
前回着た時も実家の侍女に着せてもらったので、ショーンの申し出はありがたかった。

「この箱もう開けたの?」
「いや、陛下から送られてきたままだよ。ドレスと仮面が入ってるって」
「じゃあ、開けても良い? どんなのか見たい」
「もちろん、いいよ」

ルーナストの言葉にショーンは頷いて、グランツェから支給された箱を開封した。

「わぁ。すごい」

ショーンが箱の中身を見て感嘆の声を上げた。
ルーナストからすれば婚約者もいなくなった今わざわざドレスを着ることに意味を見出せないばかりか、ドレスは全て同じに見えるので、正直、グランツェから送られてきた支給品のドレスに興味はなかった。

「ルーナストも見てみなよ」
「んー、うん」

気は乗らないもののショーンに促されるまま箱に近づき中を覗いた。

「わぁ……え……?」

箱の中にはドレスはなかった。
みたところ黒を基調とした男性用の夜会着だったが、質は一級品という感じで金の飾りがついておりデザインも洗練されていた。帝国でも王国でも男性用の夜会着は大体が軍服のような形状をしているが、目の前のそれも例に漏れず軍服を模していた。

「かっこいい……。あ、だけど陛下はドレスと仮面を送るとおっしゃっていたからこれは間違って送ってしまったみたいだね。ショーンの言う通り、前もって見ておいてよかった」
「え、それはきっとドレスと軍服とかスーツを言い間違えたんじゃない? だって、見て。ルーナストの大きさに作られている見たいだよ」

ショーンは服を広げながら、ルーナストに当てて見せそう言った。
確かに当ててみた感じはルーナストの体にぴったりだ。

「とりあえず陛下に確認の手紙を送るよ。諜報用にしても明らかに質がいいし」

早速確認の手紙を認めて、陛下のもとへ転送魔術で送ると、すぐに返事が届いた。

「なんて書いてあった?」
「……送ったもので間違いないって。それに使い終わった後はくれるって」
「え? すごいじゃん。良かったね」
「まぁ」

答えると、ショーンは困ったような顔で笑ってルーナストを見た。

「ルーナスト、最近笑ってないでしょ? 楽しいこともないでしょう? 仮面舞踏会は身分も何もかも忘れて楽しめる場所だよ。だからこそ口が軽くなって諜報しやすいけど、そればっかりじゃなくて……ルーナストも楽しんできたら良いと思う。ルーナストが最近任務ばかりしていて心配なんだ」
「ショーン、私は笑ってるし楽しいこともあるよ。戦ったり鍛えたりすることは私の一番の趣味だしね。でも、心配してくれてありがとう」
「侍従として、友達として、心配するのは当たり前だよ」
「うん……。あぁ、えっと。せっかくだし着てみようかな」
「うん。そうだね。サイズが微妙なら少し手直ししてもらわないとだしね」

夜会着を服を身につけると、サイズはぴったりだった。

「サイズも着心地もバッチリ」
「さすが閣……陛下だね」

ショーンはなんだか嬉しそうだ。

「だね」

(陛下ともなれば見ただけで服のサイズが分かるようになるのかな。そうだとしたら世の女性たちからすれば陛下は敵なのかもしれない)

ジャストサイズで着心地がいい服を脱ぎながらそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...