お試し交際終了

いちみやりょう

文字の大きさ
3 / 3

しおりを挟む
「あー。終わったなぁ。でもこれが生きてきた中で1番の善行だったかもな……」

俺の座ったところのちょうど真正面の公園から出たすぐのところに、今は珍しいお酒の自販機が見えた。
俺はそこまで歩いて行って2本ビールを買った。
2本とも開けて1本はベンチに置いてそこにもう1本をぶつける。

我ながらキザだなと思った。

「俺と付き合ってくれていた神宮寺さんは死んだ」

だから明日から会社で会う神宮寺さんは全く別の人だ。

「勝手に殺してんじゃねーよ。全く」

後ろから呆れ声で言われた。

「神宮寺さん……どうしてここに……?」
「恋人が変な様子で変なこと行って、急に帰ったら追いかけんのは普通だろ」
「恋人って……だから俺は」
「別れねぇよ」
「え」
「お前が俺と別れたい理由が、白木なんだったら……お前が俺のことを嫌いになったんじゃなかったら、俺はお前と別れる気はねぇ」
「嫌いになんてなるはずないです」
「なら別れねぇ」
「なんで……」
「なんでって。そりゃ中野のことが好きだからだろ」
「だって、今までそんなこと一度も」
「あー。まぁ口にしたことねぇかもな。悪かった。態度で分かってると思ってたんだ。実際会社の奴らには俺が中野のこと好きなのバレてるし」
「え!?」
「知らなかったか? 営業課の神宮寺と中野はできてるって噂になってんぞ。俺のせいだが……嫌だったか?」
「嫌というか……今まで知らなかったので」
「そうか」
「でも、白木は最近別れたって噂だから……弱ってるところにつけ込むなんてことしたくないかもしれないですけど、白木もいい人だから、きっとすぐに相手を見つけちゃいますよ。早くしないと」
「はぁ……。なぁ、中野。俺はお前が好きだよ。そりゃあ、白木が好きだったことがあるのは認める。だが、今俺が好きだと思ってるのも、愛してると思ってるのも、付き合ってんのも全部お前だ。不安にさせて悪かった。別れるなんて言わねぇで」
「神宮寺さん……。でも」
「俺に不満があるなら言ってくれ。治すようにするから」
「不満なんて俺には。むしろ神宮寺さんの方があるんじゃないですか。最近はスマホばっかり見てるし、話しかけても挙動不審だし、部屋掃除した時に俺の知らないうちに買った服とかパンツとかあったし」
「それは」

青い顔になってるかと思って盗み見た神宮寺さんの顔は真逆で。
首まで真っ赤な顔をしていた。

「その……よ。俺は最初の頃は、男同士のやり方も知らなかったし触り合いとかだけで満足してたんだけどよ。さすがにそれだけじゃ無理っていうか。俺が我慢できなくなったっていうか。でも、やったことないことでお前を傷つけんのも嫌だし。最近はずっとそればっか調べてた。それに、2年も触り合いだけだったのに急に俺がガッツいたらお前、怖がると思って。旅行とか、何か環境を変えてから……と思ってよ」
「聞いてくれたら良かったのに。そんなこと俺が知ってたのに」
「それじゃかっこつかねぇだろ……お前の前でそんな情けねぇとこ見せたくなかったんだよ」
「情けないなんて思わないですよ」
「ああ。お前はそう言うと思ったよ。中野は自分のこと、優しくないって言うけどよ、俺なんかよりよっぽど周り見てるし、優しいやつだと思うよ」
「そんなこと……ないです。俺は道に迷ったおばあさんを助けたりしないし、荷物持ってあげたりしないし、人の落とし物走って追いかけて渡したりしない」
「でも、お前はそれをする俺を嬉しそうに見てるだろ。自分とのデートの時間邪魔されたって怒る人間もいる。だけどお前は俺がそういうことをした後、いつも俺を褒めるだろ」
「それは、神宮寺さんが俺にはできないことするのがかっこいいなって思うから」
「中野は人と話すのが苦手だろ。だから人を助けたくても出来ないだけだろ。でも、お前が道端のゴミ拾ってんのも、白状持った人が階段登ってる後ろ、落ちないように歩いてるのも、痴漢に合ってる女の子の間に入って阻止すんのもお前が誠実なやつだからだと俺は思う。お前のそういう所が好きになった。ずっと一緒にいたいと思った」
「神宮寺さん」
「お前がいまだに白木のこと気にしてるの、気がつかなくてごめん。だが、俺はもう本当にお前しか見てないんだよ」
「俺……、俺、まだ神宮寺さんと居てもいいんですか」
「まだ、じゃない。ずっと一緒に居てくれ」

「はい……ありがとうございます」
「それと……、あれは始まりのせいだけどよ、『付き合ってもらってる』なんて思わねぇで。俺たちは両思いで付き合ってんだ」
「っ、はい……へへ。じゃあお試し交際終了ですね」
「おう。まぁ結構前から俺は本気になってたから、今終了なのは不本意だけどな」
「神宮寺さん、俺、めっちゃ幸せです」
「俺もだよ」







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

長年の恋に終止符を

mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。 そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。 男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。 それがあの人のモットーというやつでしょう。 どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。 これで終らせることが出来る、そう思っていました。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

処理中です...