僕はナイチンゲール

いちみやりょう

文字の大きさ
1 / 56

始まりは

しおりを挟む
「ん……ふ、ぁ、ん……」

僕を抱く彼の手はいつも優しい。
だけどその瞳は僕のことなど映していない。
だから僕はいつもなるべく声を出さないように努力する。

僕の声は、彼を不快にするだろう。

僕は、あの人じゃないから……。

「ふ……ん、ん……」
「どうした、考え事か」

彼の質問にも僕は何も答えない。
だって、声を出したりして、僕の中を出入りする彼のそれが萎えたりしたら立ち直れそうもないから。

彼は何も答えない僕に舌打ちして抽挿を再開した。



僕と、咲夜様と、美香様は幼い頃からずっと一緒にいた幼馴染みだった。
咲夜様と美香様は旧家の御子息と御令嬢で隣同士の家だった。
僕は咲夜様のお世話をするために咲夜様の家に引き取られた孤児たけど。
でも咲夜様も美香様も僕に対していつも優しくしてくれた。
使用人扱いじゃなくて、ただの友達みたいに接してくれてた。
多分、咲夜様は美香様のことが好きで、美香様は僕たち2人のことはただの兄弟のように思っていたんだと思う。
その関係はずっと。大学を卒業したばかりの今までずっと変わらなかった。
だけどただ漠然と僕も、咲夜様も、美香様と咲夜様のご両親も全員、思っていたはずだ。
咲夜様と美香様がいつかは結婚するのだと。

美香様だけはそうは思っていなかったらしい。

だから、それは突然だった。
美香様は大好きな人と結婚するからと置き手紙を置いて突然家を出て行ってしまった。

美香様にとって兄弟だと思っている咲夜様と結婚することは、どうしても耐えがたいことだったらしい。そして、美香様のいなくなってしまった咲夜様は落ち込んでしまった。

咲夜様の部屋は離れにあって、僕はおば様に変わって食事を届けた。

そんな日が何日も続いて、ある日僕は咲夜様に部屋に引っ張り込まれて無理やり体を開かされた。

咲夜様の熱い息が首筋にかかりぞわりとした。雑に慣らされたそこにローションを纏った咲夜様のそれが押し入ってくる感覚は説明のしようもない感覚だった。

そして残酷にも僕はその時になって気がついてしまった。

僕は咲夜様のことがずっと好きだったんだ。

気がついて、だけど咲夜様は僕のことなんて好きじゃないから咲夜様の背中に手を回したくなるのを必死に抑えて、気持ち良さはないけれど、この時間が永遠に続けばいいと思った。
咲夜様が僕のことを、たとえ美香様の代わりだとしても求めてくれるこの時間が。

それから僕は毎日抱かれた。
咲夜様の気が晴れるなら僕はそれで良かった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

処理中です...