僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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旦那様

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ナイチンゲール症候群。よく知らなけれど看護師が患者に恋することを言うらしい。
きっと、僕の思いはそれなんだと思った。
咲夜様が僕を必要としなくなれば僕もこの気持ちがなくなってきっと元の関係に戻れるんだ。

だからそれまでは。
咲夜様の心が癒えて僕を必要としなくなる日が来るまでは咲夜様の心は僕が支えたい。

「ん……はぁ、ぁ……」
「……イク」

そう言って動きを早くした咲夜様は僕の中で吐精する。

僕はいつも通り乱れた服を着直して無言で咲夜様の部屋を出た。

「伊月。旦那様が呼んでいますよ。すぐに来なさい」
「は、はい」

部屋を出るとすぐにおばさまに命令された。
僕の前をおばさまが歩く。
おばさまは咲夜様のお母様で、旦那様というのは咲夜様のお父様のことだ。

部屋に着くと旦那様が重々しい口調で口を開いた。

「伊月」
「はい」
「お前、咲夜と……しているそうだな」

心臓がどきりと跳ねた。
バレていた? いつから?
僕は追い出される? 
そしたら咲夜様の心は誰が守るの?

一瞬で頭の中を色々な考えが駆け巡った。

「伊月。黙ってないで答えなさい」

おばさまに叱責されて僕は慌てた。

「あ……えっと」
「誤魔化す必要はない。正直に言いなさい」
「……はい。旦那様のおっしゃったとおりです」

僕は観念してそう返事をした。

「そうか。美香さんが居なくなってから縁談をいくつも持ち込んだと言うのに、咲夜が尽く断るのはそういう訳があったのだな」
「……申し訳ありません」
「お前をここまで育ててやったのに、こんな風に恩を仇で返されるとはな」
「……申し訳ありませんでした」
「お前はそれしか言うことがないのか?」
「……」

僕は謝罪の言葉を取られてしまえばもう何も言うことが無くなってしまった。
そして旦那様は僕のそんな態度にうんざりしたようにため息をついた。

「まぁいい。今は遊んでいても時間が経てばちゃんとした女性を選ぶだろう。だが、それまで何もしないと言うのも時間の無駄だろう」

コトリと目の前に瓶が置かれた。

「これは何でしょうか」

僕が恐る恐る尋ねると旦那様は深々とため息をついた。

「これは、お前みたいな人間でも役に立つことができるようにするための薬だ」
「僕でも……役に?」
「ああ。これを半年ほど飲んでいれば男の体でも妊娠することができる体になるそうだ。お前がこの家に役に立つためにはこれを飲み続けて咲夜の子をなすことくらいだろう」
「咲夜様の子を、僕が」

そんな夢見たいなことが?

そう思っていると旦那様はニヤリと笑った。

「もちろん、お前を咲夜の妻にするわけではない。子ができたとしても咲夜の心が癒え、しかるべき女性と結婚することができたときは、お前にも、子にもこの家から出て行ってもらう……いわば保険だよ。咲夜がこの先、結婚しないなどと言った時のためのな」

無言でいると分かったなと確認された。

「……はい」


「それから、このことは咲夜には言うなよ」

部屋を後にしようとした僕にそう吐き捨てた旦那様の声は僕を心底憎んでいるような酷く冷たい声だった。
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