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怒り
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「伊月くんの部屋で一緒に寝てもいい?」
「えっ? 僕とですか」
僕が驚いて聞き返すと銀次さんは苦笑いをした。
気に触る対応をしてしまったのだろうかと不安に思っていると、銀次さんは僕を抱き寄せてくれた。
「俺たちは恋人でしょう? ずっと伊月くんの体調が悪かったみたいだから心配していたんだけど、一時期からしてだいぶ顔色も良くなっているし、ただ一緒に寝るだけ。何にもしないから、お願い」
そう言って子犬のような目で見つめてくる銀次さんに僕は思わずうなずいてしまった。
ほどよくエアコンが効かせてある室内は、薄手のタオルケットをかぶるくらいがちょうどいい。
一緒に僕のベットに入って銀次さんがくっついてくると、今は夏真っ只中なのにその暑さが妙に心地よく感じた。
僕の頭の下に腕を入れて、僕の頭を抱き込むように包まれると、銀次さんの優しい石鹸の匂いがして安心できた。
優しくて暖かくて、僕よりも大きな体。
やがて銀次さんの手は僕の胸を弄り始めた。
「んっ」
「胸、感じるの? かわいいね伊月くん」
「ゃ……」
その卑猥な手つきに、まさかまた僕としてくれるのだろうかと期待した。
だけど、僕の体を触る銀次さんの手が、僕のお腹の上でピタリと止まった。
その後、確認するようにさわさわと触られた。
その時にはもう卑猥な手つきではなくなっていた。
僕は触って気づかれるほどまだ出ていないと思っていた。
「伊月くん、お腹が少し張ってるね。これいつからか分かるかな」
「……分かりません」
嘘をついた。
だけど、銀次さんは真剣な顔でまだお腹を触っていた。
「食欲、は、最近なかったよね。血痰が出たりは? 体が疲れやすかったり、むくんだり、何かいつもと違うなって感じることはなかったかな」
「……いえ」
そう言うと、銀次さんは考え込んでしまった。
少し顔色が悪いような気がした。
「銀次さん……?」
心配になって呼びかけると、銀次さんはハッとしたような顔をして、すぐにいつもの柔和な表情に戻った。
銀次さんは寝転がっている僕を自分に引き寄せて腕の中に抱え込んだ。
「明日……、明日、俺の病院で検査をしよう。大丈夫だよ、大丈夫……伊月くんは大丈夫」
銀次さんはそう繰り返した。
その声は震えているように感じた。
銀次さんは僕のお腹のことを何か病気だと思って不安になってるの?
もしも僕が病気ならと考えると声が震えるほど心配してくれているの?
胸がツキリといたんだ。
そして罪悪感が浮かんだ。
僕はやっぱり自分のことしか考えていなかった。
銀次さんが司さんのことしか考えられないなら、只野さんと友人関係が続いているわけはないし、僕が黒崎の家にいた時に気にかけてもくれるはずなかったのに。
銀次さんは知り合いが病気になれば悲しいと思える。
そんなこと今の今まで思いもしなかった僕はやっぱり司さんみたいな人間にはなれない。
銀次さんに気にしてもらえるような人間じゃないのに、僕を心配する銀次さんを見て僕の心は浅ましく喜んでいた。
いまだに僕の体を抱きしめながら「大丈夫、大丈夫だ」と繰り返す銀次さんを抱きしめ返して背中をポンポンと優しくたたいた。
「銀次さん……、僕、銀次さんに言わなければいけないことがあります」
「……どうしたの?」
「でも、先に宣言しておきたいんです」
「うん」
「僕は、銀次さんが好きです。誰よりも好き。だから、銀次さんの迷惑になることはしないと約束します。銀次さんは今まで通りの生活を続けてくれれば大丈夫です」
「……うん……?」
銀次さんは訳のわからないと言う顔で僕の話の続きを促した。
「僕は、妊娠しています」
「……? 妊娠? だって、伊月くんにはついて……」
「はい。僕はれっきとした男です。でも、黒崎家で妊娠できる体にする開発途中の薬を飲まされたんです」
「そんな、」
「すみません、騙し討ちみたいに勝手に妊娠してしまって。もちろん銀次さんに迷惑をかけないとお約束します」
「迷惑……?」
銀次さんは困惑した顔をした。
「大丈夫、分かってます。銀次さんの時間を邪魔したりしません。ただ、この子を産むことだけは許していただければそれ以上は望みません」
「……さっきから、何を言ってるの?」
銀次さんは珍しく怒った顔をしていた。
いつも穏やかな顔をしている銀次さんの怒った顔はこんな感じだったんだ。
綺麗な顔に睨まれて少し、怖いと思った。
だけど銀次さんが怒るのは当然なので僕は真正面から向きあった。
「えっ? 僕とですか」
僕が驚いて聞き返すと銀次さんは苦笑いをした。
気に触る対応をしてしまったのだろうかと不安に思っていると、銀次さんは僕を抱き寄せてくれた。
「俺たちは恋人でしょう? ずっと伊月くんの体調が悪かったみたいだから心配していたんだけど、一時期からしてだいぶ顔色も良くなっているし、ただ一緒に寝るだけ。何にもしないから、お願い」
そう言って子犬のような目で見つめてくる銀次さんに僕は思わずうなずいてしまった。
ほどよくエアコンが効かせてある室内は、薄手のタオルケットをかぶるくらいがちょうどいい。
一緒に僕のベットに入って銀次さんがくっついてくると、今は夏真っ只中なのにその暑さが妙に心地よく感じた。
僕の頭の下に腕を入れて、僕の頭を抱き込むように包まれると、銀次さんの優しい石鹸の匂いがして安心できた。
優しくて暖かくて、僕よりも大きな体。
やがて銀次さんの手は僕の胸を弄り始めた。
「んっ」
「胸、感じるの? かわいいね伊月くん」
「ゃ……」
その卑猥な手つきに、まさかまた僕としてくれるのだろうかと期待した。
だけど、僕の体を触る銀次さんの手が、僕のお腹の上でピタリと止まった。
その後、確認するようにさわさわと触られた。
その時にはもう卑猥な手つきではなくなっていた。
僕は触って気づかれるほどまだ出ていないと思っていた。
「伊月くん、お腹が少し張ってるね。これいつからか分かるかな」
「……分かりません」
嘘をついた。
だけど、銀次さんは真剣な顔でまだお腹を触っていた。
「食欲、は、最近なかったよね。血痰が出たりは? 体が疲れやすかったり、むくんだり、何かいつもと違うなって感じることはなかったかな」
「……いえ」
そう言うと、銀次さんは考え込んでしまった。
少し顔色が悪いような気がした。
「銀次さん……?」
心配になって呼びかけると、銀次さんはハッとしたような顔をして、すぐにいつもの柔和な表情に戻った。
銀次さんは寝転がっている僕を自分に引き寄せて腕の中に抱え込んだ。
「明日……、明日、俺の病院で検査をしよう。大丈夫だよ、大丈夫……伊月くんは大丈夫」
銀次さんはそう繰り返した。
その声は震えているように感じた。
銀次さんは僕のお腹のことを何か病気だと思って不安になってるの?
もしも僕が病気ならと考えると声が震えるほど心配してくれているの?
胸がツキリといたんだ。
そして罪悪感が浮かんだ。
僕はやっぱり自分のことしか考えていなかった。
銀次さんが司さんのことしか考えられないなら、只野さんと友人関係が続いているわけはないし、僕が黒崎の家にいた時に気にかけてもくれるはずなかったのに。
銀次さんは知り合いが病気になれば悲しいと思える。
そんなこと今の今まで思いもしなかった僕はやっぱり司さんみたいな人間にはなれない。
銀次さんに気にしてもらえるような人間じゃないのに、僕を心配する銀次さんを見て僕の心は浅ましく喜んでいた。
いまだに僕の体を抱きしめながら「大丈夫、大丈夫だ」と繰り返す銀次さんを抱きしめ返して背中をポンポンと優しくたたいた。
「銀次さん……、僕、銀次さんに言わなければいけないことがあります」
「……どうしたの?」
「でも、先に宣言しておきたいんです」
「うん」
「僕は、銀次さんが好きです。誰よりも好き。だから、銀次さんの迷惑になることはしないと約束します。銀次さんは今まで通りの生活を続けてくれれば大丈夫です」
「……うん……?」
銀次さんは訳のわからないと言う顔で僕の話の続きを促した。
「僕は、妊娠しています」
「……? 妊娠? だって、伊月くんにはついて……」
「はい。僕はれっきとした男です。でも、黒崎家で妊娠できる体にする開発途中の薬を飲まされたんです」
「そんな、」
「すみません、騙し討ちみたいに勝手に妊娠してしまって。もちろん銀次さんに迷惑をかけないとお約束します」
「迷惑……?」
銀次さんは困惑した顔をした。
「大丈夫、分かってます。銀次さんの時間を邪魔したりしません。ただ、この子を産むことだけは許していただければそれ以上は望みません」
「……さっきから、何を言ってるの?」
銀次さんは珍しく怒った顔をしていた。
いつも穏やかな顔をしている銀次さんの怒った顔はこんな感じだったんだ。
綺麗な顔に睨まれて少し、怖いと思った。
だけど銀次さんが怒るのは当然なので僕は真正面から向きあった。
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