僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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話し合い

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銀次さんはしばらく怒った顔で無言だったけど、少しして僕のお腹を触った。

「ここに……俺の……俺と、伊月くんの子が……?」
「……はい」
「ごめん、伊月くん」

銀次さんは僕の体を抱きしめて震える声でそう言った。

「謝らないでください。僕が勝手に」
「いや……俺は嬉しいんだよ。その開発途中の薬はきっと伊月くんの体に負担をかけてる。それなのに、俺は伊月くんとの子が伊月くんのお腹にいるんだって思ったら今嬉しくて仕方がないんだ」
「嬉しい……?」
「ごめんね。伊月くんが大変な思いをしているのに気がつかなくて」
「そんな」
「お願いだから、一人で育てるなんて言わないで」
「で、でも」
「でもなに?」

銀次さんは優しい口調で聞き返した。
僕は銀次さんに負担に思われたくない。
だけど、目の前の銀次さんは本当に子供ができたことを喜んでいるように見えた。

「でも……、銀次さんは自分の子は要らないって言ってました」

ましてや、司さんではなく僕との子なんてもっと要らないだろう。

「ごめん、伊月くん。あれ嘘」
「え」
「だって、俺が自分の子供欲しいって言ったら伊月くん勝手に身を引いて勝手にいなくなっちゃいそうでしょ」

そんなことを言われたら、僕が勝手にいなくなったら嫌みたいに聞こえる。

「入院するなら、俺の病院にして……って言いたいところだけど、俺の病院には産婦人科はないし、伊月くんに余計な負担はかけたくないから、君の主治医のいる総合病院でいいよ。だけど毎日顔を出すから」
「ぼ、僕の行ってる病院がどこだか知っているんですか」
「只野に聞いた。気をつけて、あいつは口が軽い。でも只野は、君が何の病気であの病院に行ったのかまでは教えてくれなかった。命に別状があるものじゃないから、ってね」
「そうだったんですか……」
「伊月くんが病気じゃなくて安心した。さっきは妊娠だなんて考えもしなかったから、取り乱してしまってごめんね」
「ぁ、いえ」
「入院して、無事に産んでここにちゃんと戻って来てくれると嬉しい」

銀次さんは本当に思っていることを口に出すような顔をしてそう言ってくれた。

「嬉しい、です。僕、本当は一人で不安だったから。もしかしたら出産で耐えきれずに僕だけ死んでしまうかもしれない。そうなったらこの子には両親のいない人生を歩ませてしまうんじゃないかって。でも、銀次さんがいてくれたら安心です」

銀次さんは僕をギュッと強く抱いた。

「伊月くんも、ちゃんと元気で帰って来てね」

銀次さんはそれから2ヶ月の間、僕の体をすごく労ってくれて、家事もしなくていいとまで言われた時には僕は、それじゃあ何もすることが無くなってしまうと慌てて断った。
夜も、休みの日もずっと僕の隣に張り付いて、僕の身の安全を守ってくれた。
階段なんて危ないと、僕の部屋は1階の奥の一室になって、銀次さんもそこに一緒に寝てくれた。
大切な人が、僕のことを大切にしてくれる。
間違いなく今まで生きて来た中で最高に幸せな時間で、幸せすぎて怖いくらいだ。

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