僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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繋心

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只野さんにも妊娠を報告した。
只野さんはその場ではそうか、と言っただけだったけど実際はとても喜んでいてくれたらしくて連日赤ちゃん関係のグッズを持って来てくれて、銀次さんもそれに対抗して色々買ってくるので、部屋はもう子供が小学校を卒業するまで何も買わなくても良いんじゃないかと思うくらい色々なものが揃っていた。

入院の日は銀次さんはお休みを取ってくれて、車で僕を病院に連れて行ってくれた。
看護師さんと一緒に僕を担当してくれている先生が出迎えてくれた。

「ようこそ伊月さん、と、先輩? え? 伊月さんのお腹の子の父親って、佐渡先輩なんですか?」
「松岡、久しぶりだね。そうだよ。俺が伊月くんの旦那さん」

銀次さんはニコニコと答えた。
銀次さんと先生は知り合いだったらしい。先輩と呼ばれているから大学とかが一緒だったのかな。でもそんなことよりも、銀次さんの『俺が伊月くんの旦那さん』という言葉に顔に熱が集まるのを感じた。

「伊月くん? 赤くなっちゃって……可愛い。松岡、俺これからここに顔出せる時間があれば逐一来るから」

銀次さんは僕を見てポンポンと頭を撫でてくれた。

「これから先輩のイチャイチャ間近で見なきゃいけないと思うと気が重いですが。まぁ、伊月さんの赤ちゃんのお父さんがいることは良いことですね」
「ああ」

銀次さんは先生と親しげに話して、先生に案内されるまま僕の手を取って歩き始めた。

「伊月さんの旦那さんから電話があったときは佐渡先輩だって気がつきませんでしたよ。金は払うから一番いい個室にしろとかって顔も見せたことないのに急に言ってくるし」

先生が困り顔で銀次さんに訴えた。

「銀次さん、そんな電話したんですか?」
「だって俺の大切な伊月くんにもしもがあったら困るでしょう? 個室だったらその点安心だし。俺も泊まりやすい」
「え、銀次さんここに泊まる気なんですか?」

驚いてそう聞き返すと、銀次さんはあからさまに肩を落とした。

「なに? だめなの? 俺は片時も伊月くんと離れたくないっていうのに」
「えっ、そうなんですか!? ぼ、僕も、銀次さんと片時も離れたくないです」

そう言うと銀次さんは、ならやっぱり個室の方がいいねと笑った。
銀次さんが僕と片時も離れたくないなんて言ってくれるのが嬉しくて僕は顔がにやけるのを抑えられなかった。

銀次さんはそれから本当に毎日病院に来てくれた。
妊婦でも食べられるものを調べて差し入れもしてくれた。

「銀次さん、赤ちゃんの性別どっちだと思いますか?」
「んー? その様子だと伊月くんは先に聞いちゃったの?」

銀次さんは少し不満そうな顔をしながらそう聞いてきた。

「はい、すみません……。実は最初の頃に聞いてしまっていたんです。それでどっちだと思いますか?」
「んー。どっちだったとしても伊月くんに似て可愛いんだろうなぁ。でもどっちだろう……? よく伊月くんのお腹を蹴って元気いっぱいだから男の子かな? それともおてんばさんな女の子かな?」
「ふふ、男の子ですよ」
「男の子かぁ。楽しみだね」
「はい。それで、銀次さんに名前を決めて欲しいんです。僕もずっと考えていたんですけど、僕が考えると銀とか次とか、とにかく銀次さんに因んだ名前ばっかり考えてしまって。親の名前の字を付けると親を越せないとかいう迷信を信じている訳じゃないんですが、この子にはちゃんとこの子だけの名前をつけてあげたいから」
「じゃあ、一緒に考えよう?」

銀次さんが優しく微笑んでそう言った。

「はい!」
「どんな子に育ってほしい?」
「僕はこの子に、たくさんの人から愛される子に育ってほしい、です」

司さんのように。

「そうだね。伊月くんも愛さずにはいられない子だからこの子もきっとそんな子に育ってくれるよ」
「あ、愛さずにはいられない? 僕が……?」
「そうだよ。俺の態度はそう見えなかった?」

銀次さんが心外だと言うように目を見開いた。

「ぁ、えと。そう思っていただいてるとは、思いませんでした……でも嬉しいです。あ、えっと、銀次さんはこの子にどんな風に育ってほしいですか?」
「ふふ。そうだね。俺は、たくさんの人に愛されなくてもいいと思うんだ。心が繋がっている人が数人いればいい。俺と、伊月くんみたいにね」
「たくさんの人に愛されなくてもいい……?」
「うん。たとえ数人だったとしても、この子を大事に思ってくれる人がいればいいな」

銀次さんのその言葉は僕の中にストンと落ちた気がした。
確かに銀次さんの言うとおりに思えた。

僕は司さんのようにたくさんの人に愛される人間じゃなかったけど、それでも銀次さんに出会えて幸せだし、只野さんとも友達みたいになれた。

「そっか……。じゃあ、繋がる心って書いて繋心けいしんって名前はどうでしょうか」

銀次さんを見るとニッコリと笑って僕のお腹に手を当てた。

「繋心。お前は繋心だぞ。俺が繋心も伊月くんも幸せにしてみせるよ。だから安心して出ておいでね」

優しい声でお腹の中の繋心に語りかける銀次さんはもう、父親の顔をしていて、僕は心の底の方からこみ上げる嬉しさと幸せでいっぱいになった。
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