僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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出産

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お腹の子を大切には思っていたけど、不安だった。
つわりも経験してだんだんお腹が大きくなって、日に日にお腹の中で存在感を増していくお腹の子を、生まれてきてからもちゃんと愛せるのか。
1人でちゃんと育てられるのか、寂しい思いをさせないか、悲しい思いをさせないか、色々考えた。だけど銀次さんが認めてくれた。
銀次さんも一緒に育ててくれると言ってくれた。
銀次さんが居てくれたらきっと僕もこの子も大丈夫だ。

出産の日は突然やってきた。

その日も銀次さんが来てくれていて、談笑しているとお腹が痛くなり出した。
銀次さんは慌ててナースコールを押してくれて、僕の手を握ってくれた。
痛みの波を繰り返し、どんどん強く辛くなっていく。

「う゛ぁっ……、ん゛ん」
「伊月くん、ああ、頑張って」

銀次さんはオロオロしながらも、声をかけ僕の背中を摩ってくれた。

だけどしっかりと記憶があるのはそこまでで、後はもう激痛との戦いでほとんど覚えていない。

次に記憶があるのは赤ちゃんの泣き声が聞こえたときだった。

「ほぎゃぁあ、ほぎゃあ」

元気な産声でほっとした。
ちゃんと産まれてきてくれた。

先生が僕の胸元に産まれたばかりの繋心けいしんを乗せてくれて初めて顔を合わせた。
小さくて、軽くて、なのに力強く泣く繋心に自然と笑顔になった。
顔つきは銀次さんに似ているように見えた。

銀次さんは僕の横で号泣しながら僕の胸に乗せられた繋心の写真を撮っていた。

「お疲れ様、よくがんばったね。ありがとう……、伊月くん、ありがとう」

お父さんがこんなに泣いて喜んでくれるなら、安心だね繋心。

僕は安心してそのまま気絶するように眠った。

目が覚めると、病室にいて銀次さんは僕のベットに一緒に寝ていた。
こういう時って、椅子に座ってベットに伏せて寝ているものだと思ってた。
僕をまるで大切な人を抱くようにギュッと抱きしめてくれている銀次さんの体が暖かくて、安心して、僕はまた眠りについた。

次の日起きると、繋心を連れてきてもらえた。
ぎこちない動きで繋心を抱いてほとんど出っ張りのない胸に近づけると、繋心はすぐに乳首を探し当てて、飲み始めた。
看護師さんが言うには、最初は赤ちゃんの胃が小さいのであまり量は飲めないということらしい。だから僕のおっぱいでも足りたらしく、繋心はしばらくすると満足そうに口を離してニマァっと笑った。

「……かわいい」

愛おしさが込み上げた。
絶対にこの子を世界一幸せな子にしよう。

産まれてくるまでは不安だったのに、不思議とそう思えた。

それから僕の場合は体のあちこちを検査されて、1週間後に退院になった。

銀次さんの車に乗って、繋心をチャイルドシートに乗せて家に帰ると、銀次さんはすっかり僕の部屋になった1階の奥の部屋に繋心を抱いて歩いて行ったので、僕もその後について行った。

だけど、入院する前とは内装がだいぶ変わっていた。

繋心用のベビーベットの他、にもともとあった大きなベットがなくなっていて、それ以上の大きさのベットになっていた。

その後、銀次さんは寝ている繋心をベビーベットに寝かせてから、僕を横抱きにした。

「えっ、な、何ですか」
「まぁまぁ」

ニコニコと笑う銀次さんに不安になりながら、落とされまいと首に手を回すと、銀次さんは部屋を出て階段をトントンと軽快に上がって行って、一番奥の銀次さんの部屋の扉を開けた。
僕は中を見たくなくて目をギュッと閉じた。
銀次さんはそんな僕に構わずに部屋の中に入ったようだった。
恐る恐る目を開けると、そこはガランとした空き部屋になっていた。

「え……」

思わず声が漏れてしまった。

「俺の部屋はね、もうない。というか、伊月くんと1階の部屋に住むことにした。ちゃんと言っておかないと伊月くんはいつまでも俺を信じてくれないと思ってね。ちゃんと言っておくことにした。俺は、伊月くんを愛してる。もう誰も愛すことなんてできないと思っていたけど、伊月くんのことは多分、あの日、小さな商店で花の種をあげた日からきっとずっと好きだったんだ」

そして銀次さんは僕を抱きしめてくれた。

「ずっと司を思って一人で腐っていた。だけど今は違う。伊月くんのおかげでまた人を好きになることができた。今は伊月くんを愛しているんだ」

涙が胸の奥から迫り上がってくるように感じた。

でも。

「捨ててしまったんですか……? 司さんの思い出のもの」
「……捨ててない。全部、只野の家の倉庫にしまった」

申し訳なさそうに答える銀次さんに、だけど僕は安心した。

「僕が司さんだったら絶対捨てないでほしいから、捨ててなくて良かったです。正直、僕は司さんみたいになれないから、銀次さんにも、誰にも愛されることなんてないって思っていました。だけど、銀次さんが僕を愛してると言ってくれたから、僕は幸せです」
「伊月くん……」
「好きです。ずっと一緒にいてくれますか」
「それは俺が言いたかったな」

銀次さんは少し不服そうな声を出しながら、声は笑っていた。
僕の左手をとって、薬指にスルスルと何かをはめられた。
銀色のシンプルな指輪。

「順番とか色々おかしくて申し訳ないんだけど、俺と結婚してくれる? 伊月くん」
「はいっ!」

『ほぎゃあ! ほぎゃあ』

下の階から繋心の泣き声が聞こえて2人して慌てて降りた。
お腹が空いて目覚めたらしい繋心を抱いておっぱいを飲ませていると銀次さんと目があった。

なんだかプロポーズされたばかりなのに、この状況がおかしくて笑うと、銀次さんも同じ考えだったのか笑った。

2人して笑っていると、繋心も楽しそうな笑顔になった。

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