僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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仲直り

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玄関の扉を閉めて、鍵をかけると涙が出てきた。
でも、銀次さんが大切な人と再会できて良かった。
捨てられることを怖がっていたくせに、いざ2人が会った今は不思議と晴々とした気持ちになっていた。
そうだよ。銀次さんは子供の頃から何年も、それこそ僕と出会うまでずっと好きだった人と再会できてきっと幸せなはずだ。

流れていた涙を拭って僕は歩き出した。
繋心が帰ってくるまではどこで時間を潰そう。
今は2人が再会して、話せなかったことを話すのに時間が必要なはずだ。
夕方になったら、バスで帰ってくる繋心を連れてどこかお泊まりに連れて行こう。
今日は特別だと言って、繋心の好きなクレープを食べて、それからホテルに泊まって、明日は幼稚園を休ませて遊園地に連れて行こう。

ーーパシッ

「わっ」

いきなり後ろから腕を掴まれて振り向くと銀次さんが息を切らして立っていた。

「え、ど、どうしたんですか銀次さん。司さんは……?」
「司はうちで待ってもらってるよ。でも伊月くんの友達として呼んだんでしょう? どうして出て行くの?」

笑って首を傾げる銀次さんの目は、全然笑っていなくて怒っているのだろうということが分かった。

「どうしてって……。司さんとは積もる話もあるでしょう。僕がいると邪魔になると思って」
「そりゃあ、めちゃくちゃ驚いたけどね。それよりも君が玄関から出て鍵まで閉めて出て行ってしまったことに驚いてる」
「も、もちろん、僕たちもいろいろ話し合わなければいけないことがありますけど、繋心を連れてどこか泊まってきますから、今日は司さんと」
「司と……なに?」

銀次さんの声がさらに低くなった。

「いえ、その。司さんと積もる話もあるでしょうから」
「それさっきも聞いたなあ。伊月くんはいいの? 旦那様を他の男と2人きりにさせて」
「だ、旦那様って。それに良いも悪いも、僕は」
「俺たちは結婚してるんだよ? 俺は伊月くんの旦那様でしょう? 違うの?」
「ち、違いませんけど」
「けど、なに?」

優しい声で、顔で、だけど有無を言わさない雰囲気で僕を問い詰める銀次さんを怖く感じた。

「けど……、それは司さんが生きてるって知らなかった時の話です。知ってしまった今は銀次さんは僕なんかを選ばない……でしょう?」

自分で言っていて悲しくなった。
決して銀次さんが僕を選ばないと知っているのに、やっぱり言葉には出したくなかった。
それにめんどくさい奴だと思われるんじゃないかと不安になった。

「選ぶ選ばないじゃないよ。伊月くんは俺のものなんだから、勝手に離れるのは許さない」
「僕はものじゃ……」
「いや、伊月くんは俺のものだよ。そして、俺も伊月くんのものでしょう? 昔の恋人が出てきたくらいで俺のこと簡単に手放そうとしないでくれないかな」

僕をギュッと抱きしめて銀次さんは苦しそうにそう言った。

「ぁ、で、でも。僕と出会うまで銀次さんはずっと、ずっと司さんを想っていたから。司さんが生きてるって知らないときは、生きてる人間の中では僕と繋心が一番銀次さんに愛されてるって思ってた。だけど、銀次さんは司さんが生きてるって知ったら僕なんか」
「はぁ……」

ため息をつかれて僕はさらに居心地が悪くなった。

「確かに俺は司のことが好きだったよ。生きていてくれたのを知って心底嬉しく思ってる。だけど、今の感情はそれだけだ。今の俺の心には伊月くんしかいないよ。伊月くんだけを愛してるんだよ」
「……そんな」
「嬉しくないの?」
「嬉しい、です」
「俺をちゃんと信じてくれる? ちゃんと今から家に戻る?」
「はい、銀次さんが許してくれるなら」
「もちろん……簡単には許さないよ。俺の愛を疑って簡単に俺を手放そうとしたお仕置きをしないと」
「お、お仕置き?」
「俺は伊月くんと休日が過ごせると思っていたのに、こんなことになって残念な気持ちでいっぱいだ。埋め合わせをしてもらわないと気が済まない」

僕の手を引いて歩き始めた銀次さんは本気の顔をしていた。
家に帰ると司さんが僕たち2人を見て苦笑して迎えてくれた。

「遅かったですね。仲直りはできましたか?」
「は、はい。すみません、呼んでおいてこんな……」
「いいんですよ。私は幸せそうな銀次様を見られて良かったです」

「こいつらはいつでもイチャイチャするからな」
「只野さん……」

キッチンの方からコーヒーを持って只野さんまで現れた。
どうやら銀次さんが僕を追って家を飛び出した時に、只野さんがちょうど家から出てきたらしく、そのまま家で待っててくれと言われたらしい。

司さんは昔のことを銀次さんと只野さんに話して謝った。
今までどんなふうに生きてきたのか、お互いに聞きあったりして和やかな雰囲気だった。

それからバスで幼稚園から帰ってきた繋心と5人で一緒にご飯を食べて僕と繋心以外はお酒を飲んで3人は昔から今まで交流が続いていたかのように仲良く笑い合っていた。
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