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31:一緒に食事

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ずっと1人だったあの頃、春海のことを誰か1人でも気にかけてくれていたらきっととても嬉しかっただろう。きっともっと強くあれただろう。自分1人だけが異物に感じるような空間は、嫌になる程知っていたから、春海は返事のないミヒャエルの部屋のドアを、また、数回叩いた。

「ミヒャエル様。僕は、ハルミといいます。ミヒャエル様とお友達になりたいんです。だから、どうか、一緒にご飯を食べませんか」
『……やだ』

扉のすぐ向こうから、くぐもった声が聞こえた。

「どうしてですか?」
『……どうしても。僕は君とは会いたくないの』

頑なな反応に、少しだけ怯んだ。

(もしかして、押し付けがましいかな。どうしよう)

今まで友人がいなかった上に、この世界に来てから年上ばかりに囲まれて、さらに同年代との接し方が分からなくなっていた。クリストフにしろユリウスにしろ、春海を自然に甘やかすがうまいのだ。

「ミヒャエル」
『っ』

春海の後ろから、ユリウスがミヒャエルの名前を呼ぶと、扉の奥で息を飲んだ気配がした。

「私も、ミヒャエルと共に食事をしたい。両親のことで恨まれるのも仕方がないが、食事だけでも一緒に」
『う、恨んでなんか、ないです。でも』
「私が怖いか」
『怖くなんか……ないです。子供の頃は怖かったけど、でも今は大好きなお兄様です』
「なら、出てきて一緒に食事を摂ろう」

そして、少しの沈黙の後、扉がガチャリとわずかに開いた。
そこに、ユリウスが手をかけて扉を開くと、ミヒャエルがおずおずとユリウスを見上げていた。

「さあ。お腹が空いただろう。食堂に行こう」
「はい」
「あの、ミヒャル様。僕はハルミです。よろしくお願いします」
「……うん」

ミヒャエルは困ったような顔で頷いた。
嫌われているわけではなさそうだけど、当然ウェルカムな雰囲気ではなく、かといって、それを打開できるほどの話力がない春海は、押し黙ってしまった。

ユリウスに頭を撫でくられて、食堂の方に背中を押されてやっと、春海は動き出した。

「おはよう。ハルミ、ユリウス。それと、君がミヒャエル君かな?」

食堂に着くと、クリストフは優雅にコーヒーを飲みながら新聞を読んでいて、そこから目を離して春海たちを見て目元を緩ませた。ミヒャエルは人見知りをしているのかユリウスの横でガチっと固まっている。

「はい、あの。ミヒャエル・ディクソンです。よろしくお願いいたします」
「クリストフ・ジーケルトだよ。長いから気軽にクリスと呼んでね。僕もここで暮らすことになったんだ。こちらこそ、お邪魔かもしれないけどよろしくね」

ミヒャエルは食事の途中でトイレに行くほどに緊張が体調に現れてしまっていた。それは少し可哀想に思ったけれど、食事を一緒に食べる間、和やかな雰囲気が流れていて、春海はなんだか嬉しかった。

食事が終わってしばらくすると、ユリウスは仕事に行ってしまい、クリストフも作業があるとかで部屋に戻ってしまい、当然ミヒャエルも部屋に戻ってしまったので、春海はその後、ユリウスとの思い出の中庭に行って本を読んで時間を潰した。とは言っても、心配症なクリストフに護衛を付けられたので、中庭には1人ではなく、あまりゆっくりした気持ちにはなれなかった。護衛は一切話さないし、気配も消して後ろに控えているけれど、護衛されることに慣れていない春海は、その存在だけで気になってしまうのだ。

昼食にはクリストフから直接手渡されたランチボックスを食べて、夕食の時間までそこで過ごし、夕食はまた4人で食べて、ユリウスと共に春海の部屋に戻った。

「……今日は私の部屋で一緒に眠ろうか」
「え?」

ユリウスは部屋に入るなりそう言って、今入ったばかりの春海の部屋を出て、隣のユリウスの部屋に入った。

「昨日はハルミの部屋だったから、今日は私のベッドだ。ほら、2人で寝たら暖かいだろう」
「はい」

春海は今朝の幸せな暖かさを思い出して、即座に頷いた。
2人で入った布団の中は、最初はひんやりしていても、2人の熱ですぐにぬくぬくになった。

「もっとこっちへおいで」
「……ん」

抱き寄せられて、ユリウスの筋肉質な体に包まれると、安心感が増して、すぐに眠気に襲われ、スーッと意識を手放した。

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