彼は俺を好きにならない (旧題 彼の左手薬指には)

いちみやりょう

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付き合っても

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目が覚めたら白い天井に点滴の袋が目に入った。
ああ、俺生きてたか。
ふふ。しぶといなぁ、俺。
右手を誰かが握っている。

「せん、ごくさん……?」
「西!!」
「すみません。俺、しぶとくて、へへ」
「お前っ。よかった……。本当に」
「仙石さんがあんな死ぬに死ねないこと言うから」
「西。約束だ、付き合おう」
「ふふ。仙石さん、それは優しさじゃないですよ。奥さんのことを悲しませる気ですか。俺は大丈夫ですから。あんなことを言ってくれただけで俺は満足ですから」
「……ぃ」
「え?」
「俺に妻はいない」
「はい?」
「いや、正確には今はいない。俺の妻は死んだんだ」
「そんな……、すみません。俺。何も考えずに脳天気に」
「西。付き合おう」
「ぅ、だけど」

本当は今すぐにでも”はい”と言いたい。

「西、正直俺は今、西に恋愛感情を抱いているわけじゃない。だが、付き合ってみないと分からないだろ。好きになるかもしれないだろ?」
「努力してもいいんですか俺。仙石さんに好きになってもらえるように」
「ああ。存分に努力しろ」
「へへ。ありがとうございます」

仙石さんは付き合うとなってからものすごく優しくなった。
仙石さんと付き合った人はこんな優しくされるんだ。俺、めっちゃ嬉しい。
前に同僚と見た、仙石さんと一緒にいた女性は仙石さんのお姉さんだったらしい。

俺は仙石さんに好きになってもらえるように、宣言した通り努力した。
苦手だったけど料理も作ったりして、全然美味しくはできなかったけど仙石さんは美味しいと言って食べてくれた。
仙石さんの部屋に行って掃除とかもしてみた。
もしかしたらこれは迷惑に思ってるかも。
とにかく仙石さんに好きになってもらえるように、俺はあの手この手を使って努力したんだ。

だけどまだ、キス一つできてない。
もうすぐ付き合って一年になる。
一年記念日になら、キスをしてもらえるだろうか。ひょっとしてセックスまで……。
きゃ~。俺ってばエッチぃ。

そんな中、俺にも後輩ができた。
厳つい警察の中では少し浮くような華奢な感じの後輩、池田 京は、とにかく素直で明るい快活なやつなのだが、俺以上にミスが多い。だが憎めないし可愛い後輩だ。

俺も仙石さんも可愛がって、よく飲みにも連れていった。

俺はふと考えた。
もしも池田が俺に告白してきたとしたら俺は付き合えるだろうか。
無理だと思った。いや、池田はそんなことはしてこないと思うが。

なぜ、仙石さんは俺と付き合えるのだろう。

その答えがわかったのは、割とすぐだった。

その日、俺は池田を連れて聞き込みに行くために池田と二人でパトカーに向かった。
だが俺は忘れ物をしたので池田には車に先に行ってもらって俺だけ課に引き返した。

ドアの前に立つと話し声が聞こえた。
一人は仙石さん。もう一人は仙石さんと同期の市原さんだった。

「お前、また繰り返すつもりか?」
「何の話だ」
「付き合ってんだろ? 西と」

ドキッとした。
俺の話してる。

「ああ」

仙石さんは短く答えた。

「また、前の奥さんの時みたいに好きでもない相手と罪滅ぼしのために付き合うつもりか」
「あいつが飽きるまでの話だ」

はぁ、はぁ、はぁ

俺は息が上がるのを止められなかった。
一年記念日ならキスしてもらえるかも? もしかしたらセックスまで?
そんなわけあるか。
俺ってば気持ちわりぃな。
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
好きになんてなってくれるわけないだろ。
一年だぞ。一年頑張って、頑張って。変わらなかった人の心が俺に向くわけねぇし。
仙石さんはただ待っていたんだ。俺が飽きるのを。


『じゃあ、俺が飽きたって言うまではこの茶番に付き合ってくれるの?』

俺の中の悪魔はそう呟く。

『だったら飽きたなんて言わなければ、俺が別れると言わなければ仙石さんはずっと俺のものじゃん』

なんて。仙石さんには幼い頃に命を助けてもらったんだ。
ずっと俺の憧れで居続けた仙石さんに俺はそんな不義理な真似はできない。

だけど1年記念日までは。あと1ヶ月間。あと1ヶ月間だけ、お願いします。
そしたらすぐに別れますから。
あと1ヶ月だけ。

そう決めて俺は忘れ物は諦めておとなしく池田が待つパトカーまで向かった。
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