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墓場までは持っていけない

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「西ィ、聞き込み行くぞー」
「はい!」

聞き込みの時、仙石さんは普段の粗暴さが嘘のように爽やか好青年みたいになる。
にこやかに笑って世の奥様方やサラリーマン、スーパーの定員、浮浪者のみなさん、あらゆる人、全てから情報を引き出すんだ。
仙石さんのあれは、技術云々というよりも持って生まれた人たらしなところが、聞き込みにおいて遺憾無く才能を発揮していると思う。
普段の仙石さんを知っていてもやっぱかっこいいって思っちゃうもんなぁ。

その日の夜、俺はまた仙石さんに誘われてあの居酒屋に行った。
そして俺は人生最大と思われる大失態を犯すことになった。

仙石さんが呆れ顔で止めてくるのを気にせずに調子に乗って飲みまくった俺は、最高に酔っ払ってしまって、墓場まで持っていくと誓った俺の恋心を、あっさりとあろうことか本人である仙石さんに告げてしまったのだ。

「仙石さーん」
「はいはい。なんだ?」

優しい話し方で、そう問いかける仙石さん。

「好きです」
「俺も好きだぞー」
「違いますよーだ。仙石さんの好きと俺の好きじゃ全然違う」
「お前、飲み過ぎだぞ。ほらもう立て、帰るぞ」
「……仙石さん、俺」
「西、帰るぞ」

俺がその先を言うのを咎めるように仙石さんが真っ直ぐに俺を見た。
言っちゃダメだって分かっていたのに、俺はその時、我慢できなかった。

「仙石さんのこと、恋愛的な意味で好きなんです」

そう呟いた時の仙石さんの顔が忘れられない。
どうしようもなく面倒くさいことを言われたような、そしてあまり関心も無いような。

「ごめんな、西。お前の気持ちには答えられない」
「ですよね。分かってました、すみません。俺、本当は墓場まで持っていくつもりだったのに」

それから仙石さんは無言だった。
俺も無言だった。

仙石さんは、家に帰ったらあの綺麗な奥さんが待っている。
俺は忘れられるだろうか。仙石さんへの思いを。
仙石さんは忘れてくれるだろうか、俺の今夜の戯言を。

「仙石ーーーーー!!!! お前のせいで俺は!! 俺はーーー!!!」

突然後ろから怒鳴り声が上がった。
パーカーのフードを深くかぶった男がナイフを持って仙石さんに迫っていた。
警察官は恨まれる。はっきり言って逆恨みだ。

俺はとっさに仙石さんの前に飛び出た。

ーーザクっ

腹部に熱い感覚が走った。
痛いよりも熱い。
そして、じわじわと血が流れていく。

「西!!!! お前っ、何で!!」

俺を刺した犯人は俺を指したことで動揺して逃げていった。
ああ、俺、死ぬのか……?

よかった。死ぬのが仙石さんじゃなくて、俺で。

よかった。
意識が朦朧とする中、俺は思い残すことのないようにもう一度伝えておくことにした。
最後にもう一度。だってもう二度と言えない。


「せん、ごく……さ」
「おい! 話すな!」
「せ、ん、さん……おれ、うらやま、し、いとおも、ったんだ……。せん、ご、さんのおくさん。へへ。だけ、ど。おれむりだ、ったから、うまれ、かわ、たら、せんご、さんの、むす、こに、うまれ、たいなぁ…・」

お腹の痛みはもう引いた。
何も痛く無い。
意識が遠のいていく。
仙石さん、好きになってすみません。
こんなタイミングで好きだなんて、性格悪くてすみません。
俺のこと、忘れないで。

「西! 生きろ!! お前が生きてたら、付き合ってやるから!! 死なないでくれ!!」

仙石さんは優しいなぁ。
そんなことを言ってまで俺に生きることを望んでくれるんですか。

「ずるい……なぁ」

だって、そんなこと言われたら、死ぬに死ねないでしょう。
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