お前しかいない

菫川ヒイロ

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「居った居った。ちょっと来てくれるか? 
 一応、それっぽいのを見つけたから、見てくれるか? 」
 
 
 三田村は突然やって来てそんな事を言うので、
 一瞬、何の話をしているのか分からなかったが、
 どうやらもう役者を見つけて来てくれたようだ。
 
 
 さすが三田村、仕事が早い。
 俺は三田村の後について行くとそこにはとっぽい感じの奴が居た。
 
 
「ええっと、元演劇部の小暮君です」


「どうも、小暮です」


「そいで、こっちが映像部の塚田君」


「どうも、塚田です」


 三田村は名前だけ言ってその後はだんまりで、ずっと携帯をいじっていた。
 どうやらここからは俺が話をするらしい。


「ええと、小暮君は演技はどれくらいやってますか? 」


「中学からやってるんで3、4年ぐらいかな」
 
 
 流石に高校からだったらちょっと困ったが、
 中学からやっているんだったら素人という訳ではないだろう、
 基礎とかも分かってるだろうから、ひとまずはOKだろう。
 
 
「映像部にはどうして? 」


「この前の見させてもらったんすけど、すごくよくって
 演劇部よりはこっちかなって思って、そんな感じです」
 
 
 理由は何かゆるいけど、まあ大丈夫かな。
 三田村の紹介だし、悪い事にはならないだろう。
 それに時間の余裕がない訳だし、すぐにでも取りかかりたい。
 
 
「そうですか、じゃあ放課後、部室の方に来てもらっていいですか? 」


「はい、大丈夫です! 」


 元気に返事をして去って行く小暮君。
 
 
「ちょっとええか? 」


 三田村が気まずそうに声をかけてきた。
 
 
「どうした? 」


「あのとっぽい兄ちゃんな、調べてみたんやけど。
 一応は、演劇部で主役をやってたみたいなんやが、どうもそんなにやったぽいわ」
 
 
 三田村はどうやらずっと調べていてくれたようだった。
 
 
「でも、主役やってたんだろ? 」


「そやねんけどな、うーん。見た人からの評価は良くないねんな
 だからあんまり期待せんほうがいいかもな。
 すまんな、俺ももうちょい調べてみるわ」
 
 
 その話はもう少し早く聞きたかったが、
 今更それを気にしている時間はもう無い訳だし、
 きっとどうにかなるだろうとその時の俺は考えていた。


 今までがうまく行き過ぎていた事に気づきもしないで。
 
 






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