セフレのこいつは俺のことが好きらしい

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心の場所

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 「あー腹減った」

 ベッドに仰向けに寝転びながら俺は言った。まだ弾む息を整えようと俺は深呼吸を繰り返す。

 「いや、さっき食べたばっかだろ」


 「まあ、そうなんだけどセックスの後って腹減るんだよ」


 「相変わらず欲望に忠実だなお前は」

 
 ひかるの少し汗ばんだ上半身の背中を見る。その背中はしっかりと筋肉がついていて、俺のとは全く違う。ベッドに腰掛けるひかるの背中には所々に引っ掻いたような赤い痕がある。俺が最中にひかるの背中に爪を立ててしまったのだ。もう少し爪を切っておこうと俺は心の中で決めながら、ひかるを見上げる。


 「ひかるの家に行く前にみたラーメンの屋台、まだやってるかな?」


 「あーまだやってると思うぞ。あそこ、深夜3時ぐらいまでやってるし」


 
 「じゃあ、行こう」



 「外寒いぞ」



 「平気だよ、ちょっとぐらい」


 
 こういう時、ひかるは呆れながらも仕方ないと言いながら俺に付き合ってくれる。それを知っているから俺はこいつにだけはわがままが言えるのだ。



 「分かったよ。じゃあ早く服着て支度しよ」



 下に脱ぎ散らかした服を拾い、適当に身につける。ハンガーにかけてあったコートを羽織った。


 「それじゃあ寒いだろ」


 
 ひかるはコートを羽織った俺を見て手に持っていたブルーのマフラーを俺の首に巻きつけた。



 「別にいいよ。それにそのマフラー、お前のだろ。お前が寒いじゃん」



 「俺は平気だから、あったかくしてろ」



 ひかるの手が丁寧にマフラーを巻く。時々触れる手が冷たくて本当は寒いのに俺にマフラーを真剣な顔で巻くこの男に胸が苦しくなった。



 「じゃあ、行くか」



 「……うん」




 外に出た途端、頬を差す冷たい風に俺はマフラーに顔を埋めた。
 寒い。寒すぎる。想像以上だ。吐く息が白い。夜の闇に白は溶けて、また生まれる。俺の息と隣のひかるの息が混ざり合い、溶けていく。
 隣の男は表情が読めないが、きっと寒いはずだ。
 ひかるの指先は赤く、部屋の中でも冷たかったのだから今はもっと冷たいだろう。

 俺はひかるの指先に自分の指を絡めた。何も考えず、ただひかるの手に触れた。
 さっきまで俺を抱いていた手。そういえばひかるの手はいつだって綺麗だ。爪は短く整えられている。俺を絶対傷つけない手だ。この手に触れると無条件に安心して身を委ねたくなる。最近はそんな自分を抑えることに苦労している。そんなに踏み込むなと分かっているのにひかるのことばかり考えて、とっくにセフレの領域からははみ出している。



 「あったかいな」


 ひかるが前を見たまま呟く。それは小さくて優しい響きをしていた。



 「うん、あったかい」



 俺の呟きは自分でも驚くほど甘い響きをしていた。目的地までの道のりは静かだった。お互い何も話さず、ただ手を繋いで歩いた。
 その間に熱が生まれる。言葉にできないような甘くて苦しい熱が確かに俺とひかるの間にある。その熱もいつかこの夜の闇に消えてしまうのだろうか。
 嫌だと思った。消えてほしくない。この時間もこの気持ちもひかるとのことは全て大切にしたい。
 ひかるの手を強く握りしめた。今、この瞬間に生まれたこの気持ちが溶けてしまわないように、ただひかるの手を握りしめた。
 ひかるも俺の手を握り返してくれた、そんな気がした。

 

 


 
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