10 / 13
特別な心
8
しおりを挟むひかるへの気持ちを自覚してから2週間。ひかるにどう告白しようかと考えて何も出来ずに2週間も経ってしまった。仕事もお互いに忙しく、全然会えていない。
ただのセフレじゃなくて恋人になりたい。ひかるが自分の中でどんどん大きな存在になっている。この気持ちをどう言葉にしていいかわからない。
社内でひかるとたまにすれ違うだけで心臓の動きが不規則になってまともにひかるの顔が見られない。
まるで初恋みたいだ。いや俺、まともに恋をしたことがあっただろうか。このひかるへの気持ちが恋ならこれは俺にとって初恋かもしれない。
早く伝えよう。ひかるに俺の恋を。うまく伝えられなくてもきっとひかるには伝わる気がする。ひかるなら受け止めてくれる。
そう思っていた。
「深海さん、聞きました?あの噂」
「噂?」
午後12時。お昼の休憩室でコンビニのおにぎりのセロハンを剥がしているときに同じ経理部の後輩、長谷川が声をかけてきた。長谷川は2個下の後輩でロングヘアをくるりと内巻きにしているのが可愛らしい女性社員だ。
「企画営業部の冴島さんが近々結婚するんじゃないかっていう噂があるんですよ」
「え?冴島ってひかるが?」
「ひかる?あー深海さんって冴島さんと同期ですもんね」
ひかるが結婚?そんなわけがないと自分に言い聞かせながらも指先から熱が引いていく。
前の席に座った長谷川が続ける。
「そうなんですよ。企画営業部に友達がいるんですけど、その友達が会社近くにあるジュエリーショップで冴島さんが綺麗な女性と指輪を選んでたらしいんです。しかも結構、親密そうに」
「えー、それって本当にひかるだったの?人違いとかじゃない」
人違いであってほしい。ひかるに限ってそんなわけがない。
「いや、冴島さんってすごく背が高いし、かっこいいし、目立つんですよ。それに私の友達、前から冴島さんのこと気になってたらしくて、すごくショックを受けちゃって。確かに冴島さんだったみたいですよ」
頭が真っ白になるという表現は比喩かと思っていたが、どうやら本当にあるらしい。何も考えたくない。なのに頭が勝手に思考を始める。
ひかるには恋人がいたのだろうか。俺とはただのセフレで、ひかるには心に決めた人がいて結婚を考えるくらい好きなのだろうか。
あの夜、酔って俺が潰れた日。ひかるは俺に好きだと言った。あれはなんだったんだ。俺のただの幻想か?
気持ちを自覚した途端こうだ。やっぱり人は離れていく。大切な人ほどあっけなくいなくなってしまう。
苦しい。こんな思いをしたくないから割り切った関係を望んだのに。
ひかるが好きで大好きで苦しい。そばにいたい。でも俺以外のことを思っているひかるのそばにいるのはつらい。
「深海さん?大丈夫ですか?顔色が悪いです」
「うん、大丈夫だよ。全然大丈夫、うん大丈夫」
大丈夫を繰り返す。俺は今、うまく笑えているだろうか。自分の声が自分のじゃないみたいだ。もうどうしたらいいかわからない。
もう引き返せないところまで来てしまったのだ。ひかるを好きなのを止められない。
後輩からひかるの話を聞いてからますますひかると話せなくなった。違う意味で社内ですれ違っても目を合わせられなくなって連絡もできない。
ひかるから何度かご飯に誘われたがどれも断った。今、ひかるの顔を見たら自分がどうなるかわからない。考えるだけで苦しいのにあの男を目の前にしたらもっとつらくなる。
急用な仕事はないのに余計なことを考えたくなくて仕事を詰め込んだ。
そのうち未読のメールが溜まって、連絡が途絶えてひかるとの繋がりも消えてしまうのかもしれない。それが一番良いと思う。ひかるから直接、「俺結婚する」なんて聞きたくない。今度こそ俺はダメになる。
人づてにあいつ結婚したんだと聞く方がマシだ。
夜も朝も静かだ。隣には誰もいない。それが普通だった。
煙草の煙がゆるゆると天井に昇っていく。最近は煙草を吸う回数が増えた気がする。口元が寂しい。これまではそんなことなかったのにその寂しさを誤魔化すみたいに大きく煙を吸い込んでむせた。
灰皿には不恰好に曲げられた煙草の山と
灰が無意味に溜まっていく。ただ夜がふけていった。
12
あなたにおすすめの小説
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
パブリック・スクール─薔薇の階級と精の儀式─
不来方しい
BL
教団が営むパブリックスクール・シンヴォーレ学園。孤島にある学園は白い塀で囲まれ、外部からは一切の情報が遮断された世界となっていた。
親元から離された子供は強制的に宗教団の一員とされ、それ相応の教育が施される。
十八歳になる頃、学園では神のお告げを聞く役割である神の御子を決める儀式が行われる。必ずなれるわけでもなく、適正のある生徒が選ばれると予備生として特別な授業と儀式を受けることになり、残念ながらクリスも選ばれてしまった。
神を崇める教団というのは真っ赤な嘘で、予備生に選ばれてしまったクリスは毎月淫猥な儀式に参加しなければならず、すべてを知ったクリスは裏切られた気持ちで絶望の淵に立たされた。
今年から新しく学園へ配属されたリチャードは、クリスの学年の監督官となる。横暴で無愛想、教団の犬かと思いきや、教団の魔の手からなにかとクリスを守ろうする。教団に対する裏切り行為は極刑に値するが、なぜかリチャードは協定を組もうと話を持ちかけてきた。疑問に思うクリスだが、どうしても味方が必要性あるクリスとしては、どんな見返りを求められても承諾するしかなかった。
ナイトとなったリチャードに、クリスは次第に惹かれていき……。
記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる