セフレのこいつは俺のことが好きらしい

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特別な心

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 ひかるへの気持ちを自覚してから2週間。ひかるにどう告白しようかと考えて何も出来ずに2週間も経ってしまった。仕事もお互いに忙しく、全然会えていない。 

 
 ただのセフレじゃなくて恋人になりたい。ひかるが自分の中でどんどん大きな存在になっている。この気持ちをどう言葉にしていいかわからない。
 社内でひかるとたまにすれ違うだけで心臓の動きが不規則になってまともにひかるの顔が見られない。

 まるで初恋みたいだ。いや俺、まともに恋をしたことがあっただろうか。このひかるへの気持ちが恋ならこれは俺にとって初恋かもしれない。


 早く伝えよう。ひかるに俺の恋を。うまく伝えられなくてもきっとひかるには伝わる気がする。ひかるなら受け止めてくれる。


 そう思っていた。





 「深海さん、聞きました?あの噂」



 「噂?」



 午後12時。お昼の休憩室でコンビニのおにぎりのセロハンを剥がしているときに同じ経理部の後輩、長谷川が声をかけてきた。長谷川は2個下の後輩でロングヘアをくるりと内巻きにしているのが可愛らしい女性社員だ。



 「企画営業部の冴島さんが近々結婚するんじゃないかっていう噂があるんですよ」




 「え?冴島ってひかるが?」




 「ひかる?あー深海さんって冴島さんと同期ですもんね」



 ひかるが結婚?そんなわけがないと自分に言い聞かせながらも指先から熱が引いていく。
 前の席に座った長谷川が続ける。



 「そうなんですよ。企画営業部に友達がいるんですけど、その友達が会社近くにあるジュエリーショップで冴島さんが綺麗な女性と指輪を選んでたらしいんです。しかも結構、親密そうに」



 「えー、それって本当にひかるだったの?人違いとかじゃない」



 人違いであってほしい。ひかるに限ってそんなわけがない。



 「いや、冴島さんってすごく背が高いし、かっこいいし、目立つんですよ。それに私の友達、前から冴島さんのこと気になってたらしくて、すごくショックを受けちゃって。確かに冴島さんだったみたいですよ」



 頭が真っ白になるという表現は比喩かと思っていたが、どうやら本当にあるらしい。何も考えたくない。なのに頭が勝手に思考を始める。
 ひかるには恋人がいたのだろうか。俺とはただのセフレで、ひかるには心に決めた人がいて結婚を考えるくらい好きなのだろうか。
 あの夜、酔って俺が潰れた日。ひかるは俺に好きだと言った。あれはなんだったんだ。俺のただの幻想か?


 気持ちを自覚した途端こうだ。やっぱり人は離れていく。大切な人ほどあっけなくいなくなってしまう。
 苦しい。こんな思いをしたくないから割り切った関係を望んだのに。
 ひかるが好きで大好きで苦しい。そばにいたい。でも俺以外のことを思っているひかるのそばにいるのはつらい。



 「深海さん?大丈夫ですか?顔色が悪いです」



 「うん、大丈夫だよ。全然大丈夫、うん大丈夫」



 大丈夫を繰り返す。俺は今、うまく笑えているだろうか。自分の声が自分のじゃないみたいだ。もうどうしたらいいかわからない。
 もう引き返せないところまで来てしまったのだ。ひかるを好きなのを止められない。





 後輩からひかるの話を聞いてからますますひかると話せなくなった。違う意味で社内ですれ違っても目を合わせられなくなって連絡もできない。
 ひかるから何度かご飯に誘われたがどれも断った。今、ひかるの顔を見たら自分がどうなるかわからない。考えるだけで苦しいのにあの男を目の前にしたらもっとつらくなる。
 急用な仕事はないのに余計なことを考えたくなくて仕事を詰め込んだ。

 そのうち未読のメールが溜まって、連絡が途絶えてひかるとの繋がりも消えてしまうのかもしれない。それが一番良いと思う。ひかるから直接、「俺結婚する」なんて聞きたくない。今度こそ俺はダメになる。
 人づてにあいつ結婚したんだと聞く方がマシだ。


 夜も朝も静かだ。隣には誰もいない。それが普通だった。
 煙草の煙がゆるゆると天井に昇っていく。最近は煙草を吸う回数が増えた気がする。口元が寂しい。これまではそんなことなかったのにその寂しさを誤魔化すみたいに大きく煙を吸い込んでむせた。


 灰皿には不恰好に曲げられた煙草の山と
灰が無意味に溜まっていく。ただ夜がふけていった。 









 
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