ヒロインは他に任せて

オウラ

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出発前

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「こ、これは違うんです。ディルク様」

 目の前の男の顔を見るなり、懸命に弁解しようとする侍女。先ほどまでの威勢はいったいどこに行ったのかと問いただしたくなる程、その顔は恐怖に満ちあふれている。

「良いわけなど効きたくありません。貴方たち、今日この部屋で誰をお迎えするかわかっているのですか? そしてこの扉の向こうには誰が居るのかご存じ何のですか? 勇者殿をお迎えするというのに、こんな場所ではしたなく声を荒げるなんてみっともない。こんなところ勇者殿にみられたらと思うと、頭が痛くてたまりませんよ」

 はぁ、と一つため息を吐く、目の前の美青年、ことディルク・ブロテンガ。彼は王家に代々仕えるブロテンガ家の嫡男。性格は、まぁ、お察しの通り。規則や仕来りに厳しく、それが誰であっても守らない奴には容赦しないそんなタイプ。実際、ゲームでもヒロインがやらかしたとき、彼だけがいつまで経ってもグチグチと説教をしていた。……悪い奴ってわけではないが、まぁ、誤解されやすい性格ではある。


「まぁ、ここで貴方たちに説教をしているところを勇者殿にみられても分が悪いですしささっとこの場から立ち去りなさい」

 と言われても、私がその勇者殿なんだよなぁ。まぁ、まだ認知されていないようだから、彼が知らなくても仕方ないと言えば仕方ないのだけれど………
 侍女も、侍女だよな。私が勇者という事を早く説明すれば言えば良いのに。と思ったが

「し、失礼しました。わ、私はこれにて失礼いたします」

 侍女は自分の保身に走った。逃げるようにこの場を去って行った。嘘だろ!?責任を持って最後まで仕事をしろよ。と思ったがもう遅い、気づけば廊下の向こう側。逃げ足が速すぎないでしょうか。




「貴女も、ですよ。聞こえなかったのですか?早くこの場から立ち去りなさい。早くしないと勇者殿が来てしまうではないですか」
「はぁ、立ち去っても良いんですけど。私がその勇者殿なんですよね」

 ほら、と勇者の証である聖剣を掲げれば、そこに沈黙が流れる。


 うん、仕方ないよね。しょうがないよね。まさかと思うよね。でも私が勇者という事実は変わらない。そしてその勇者に対して、世にも恥ずかしい勘違い行動をしたと言う事実も変わらない。
 目の前の彼は、どうやら思考回路が停止しているようだ。いやぁ、その反応になるのも仕方ないよ。それが、ディルクみたいなまじめな奴なら、そんな反応になっても仕方ない、うん。


「……そうですか。貴女が、勇者殿でしたか。」
「えぇ、そうですね……」
「お待ちしておりました。どうぞ、お部屋にお入り下さい」


 一瞬で理解した。あ、こいつさっきのこと無かったことにしたな。確かにそれが一番いい選択しかもしれないが、せめて一言何か言えよ。謝れとは言わないからさー。

 ディルクの顔を見ても、彼はいっこうに視線を合わせようとしない。完全に視線をそらしている。
 むかつくが、これ以上何かを望んでも仕方ないのは事実。許してやろう、私の心は寛大なのだ。感謝しとけ!!










 重い扉を開け、部屋に入るとそこには案の定攻略キャラ達が居た。ゲームの中では何度もみたことがあると言っても、これが初めての対面(一人アネルは除くが)
 別に彼らと恋愛するわけでは無いが、これから旅をする仲間なので、(既に遅い人も居るけど)第一印象は大事にしたい
 何でも、人間の印象は一番最初で決まるのだ。ここで失敗したら……と思うと気が気では無い。




「初めまして、勇者に選ばれたルーナ・アゲットです。国を救うべく、力を尽くし頑張ります。これよりどうぞよろしくお願いします」

 にこやかな、100点満点の笑顔。いかにも勇者といった正義感に溢れるセリフ。これで第一印象は完璧だろう。流石私、やればできる子、この調子で死亡ルートも回避したい。


「ルーナ、何それきもい。お前、いつからそんなさわやかキャラになったの?変人の馬鹿のくせに、なに取り繕ってるの」
「…………」





 完璧な自己紹介は、アネルのその一言のせいで台無しとなった。私もそう思ったけど、お前それは無いだろ。

 ぱっと周りを見渡せば、他の攻略キャラ達が苦笑いを浮かべている。多分私の第一印象は最悪。
 変人馬鹿って…お前それは言い過ぎだ!!









 私にとって散々な自己紹介をした後、彼ら攻略キャラ達もまた自己紹介をすることになった。自己紹介が住めば、ある種今回ここに集められた最大の理由である親睦会なるものが開かれる。まぁ、親睦会といってもただ単にお互いのことを、簡単に知る為、お茶を飲みながらあれこれと雑談をするだけであるが……
 しかも、我が愛しのセシルちゃんは、ここには何故か居ない。居るのは私を含めて5人だけ。どこに居るのかと聞きたいところだが、聞いたら不審がられるのがオチ。なんで、紹介していない旅のメンバーをお前が知っているんだと疑問に思われる。知らないふりをした方が、賢明な判断…なのだ。気になるけど


「ところで、勇者殿はアネルと幼馴染みなんだっけ?」
「えぇ、そうですね。殿下」

 にこにこ目の前で笑う青年は、このゲームで最も人気の高い攻略キャラ。第三王子アーサー・リュミエール様。プラチナブロンドの髪、碧色の瞳とその容姿はまるで絵に書いた王子様そのもの。いや、実際に王子様なわけだけど


「違います、殿下。僕とこいつは幼馴染みでは無く腐れ縁なだけですよ。ルーナも何肯定しているの?やめてよね」
「あぁ、ごめん。私たちは腐れ縁ですね、はい。殿下、違っていました。私たちは幼馴染みじゃ無いそうです」

 お前の過去の失態をここで言ってもいいんだぞ!と思ったがそれはブーメランになりかねないので、ここはアネルの言った通りに事を進めておこう。

「あはははは、そうか。腐れ縁なのか。そういうことにしとくよ。……でもアネル、例え腐れ縁だとしても、彼女に冷たすぎないかい。女性には優しくすべきだろ?」

 そんなことを言って優雅にお茶を飲むアーサー殿下。さすがイケメン、何をしても様になる。
 ゲームでもそうだったが、アーサー殿下はとても優しい性格の持ち主だ。流石、絵に描いたような王子様。と言ったところ。まぁ、優しい性格ってのみが、彼の人気の秘訣というわけでは無いのだが……
 美しいバラにはトゲがあるように、優しさには裏があるように、完璧な王子様にも人には見せない裏の部分があるのだ。優しい奴ほど、やばい。まさしくその言葉が当てはまる。ゲームをしていたときは凄く好きなキャラクターだったけれど、いざ関わるとなるとはっきり言って怖いんだよな。いつどこで地雷を踏むかわからないから。下手をしたら、死ぬんだよな。



「殿下、いいんですよ、別に。腐れ縁であるアネルは昔からあんな風なんでもう慣れてます。腐れ縁なんで」

 別に幼馴染みじゃ無いと言われたことにショックを受けたわけじゃ無いが、むかついたので腐れ縁って事を強調していこうと思う。

「はぁ?何その態度。馬鹿ルーナ、あほルーナ、変人ルーナ。なんでそこまで腐れ縁を強調するの!?馬鹿、馬鹿、馬鹿」
「はい、はい。馬鹿です。アホです。でも変人じゃ無いから。腐れ縁のアネルさん」
「ば、馬鹿!!お前なんて嫌いだ」

 顔を真っ赤にさせて怒るアネル。もしかして、腐れ縁を強調させすぎたせい?幼馴染みだって、ちゃんと言って欲しかったのかな?……いや、アネルに限ってそれは無いか。なんせ十数年間一緒に時を過ごしてきて、こいつが私にデレた事など一度もないのだから。ツンデレの醍醐味が無いのによくやってきたと思うよ、本当に。

「仲がいいんだね。君たちは」
「そうですかね?」

 うーん、果たして仲がいいのだろうか。私個人としては、アネルと仲良くしてきたつもりなのだが、彼はどうも私と仲良くするって事をしたくないようだしな。

「うん、仲がいいよ。俺にも幼馴染みが居るけど、俺の場合幼馴染みって言うよりはお目付役って感じだからなぁ。だろ?ルイ」
「えー、そんなこと無いよ。俺たち超仲のいい幼馴染みじゃん。まぁ、命令されて仲良くしてるんだけどね」

 さらっと、そんな発言をするのは、ルイ・ヨハネイル。神官服に身を包む、この国のれっきとした神官だ。まぁ、神官と言っても彼ほど、神官らしくない神官は居ないだろうけど。性格はみての通り。基本やる気が無く、常にだらだらとしている。そのくせあっち方面でのヤル気は全開。ゲームでは、必ずと言っていいほど色町へと出かけては、朝帰りを繰り返していた。「かわいい女の子は大好き。食べちゃいたいよね!!」がおきまりのセリフ。聖職者ならぬ、性食者。



「ヨハネイル殿、殿下にその態度は失礼では無いですか?」
「うるさいな。ディー君は黙ってそこに突っ立てなよ。」
「その呼び方やめていただけませんかね?ヨハネイル殿」
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし。ディー君、かわいい呼び方じゃん」

 そして、正反対の性格であるディルクとは、すこぶる仲が悪い。何かがあるにつけてこうして喧嘩をしている。

「私はやめろ。と言っているんです。それが理解できないのですか?」
「理解はしてるよ。でも、なんで僕がディー君の言うことを聞かなくちゃいけにわけ?」
「馬鹿にしているのですか?いい加減にして下さい」

 んー、私もさっきアネルと似たようなことをしていたからとやかく言える立場では無いんだけど。そろそろ、喧嘩をやめて欲しい。が、どうやらそう言う訳にもいかない。この2人を止められる人物は今この場には居ないから。例え、アーサー殿下でもこの2人を止めることは難しい。ゲームでもそうだったし、現に今彼の表情をみるとそのことがうかがえる。それほどまでに、2人は仲が悪いのだ

 ゲームでは、2人の好感度がある程度上がって居ればヒロインである私が止めに入ることが可能なんだけど。まださっき2人に会ったばかりの私には無理な芸当。というか今後も好感度を上げる予定は無いので、2人を止めることは一生かかっても私にはできないだろう。

 さて、どうなることやら?と他人事のようにそのまま2人の喧嘩を殿下とアネルとで遠目から眺めていれば、案外早くこの喧嘩は終止符を打つことになる。





「ごめんなさい!!遅れました。えっと、貴女が勇者様ですか?私、この旅に勇者様と同行させていただく。ランベル家の次女。セシル・ランベルです。よろしくお願いします」

 私が待ちに待ったセシル代行ヒロインが部屋に入ってくるなり、2人の喧嘩はぴたりとやんだのだった。
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