ヒロインは他に任せて

オウラ

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出発前

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 馬という生き物は、基本庶民にとっては馴染みの無い生き物だ。貴族が趣味として嗜んだり、騎士が修行のために乗ったり、逆に人里離れた場所に住んでいるもの達の足となる事はあれど、私みたいな庶民。しかも城下に住む者にとっては縁もゆかりもない。故に乗れるどころか、乗った事すらない




「うーん、でも、困ったな。俺は移動手段は基本馬にしようかと考えていたからな。まさか乗れないとなると……」
「あはははは、すみません。足を引っ張る形となって」
「あぁ、いや、君は気にしなくていいよ。乗れないのは仕方の無いことだ。それにある程度の事を想定して動かなくてはいけないのに。それができなかった俺にも落ち度があるんだ。」

 こちらこそ悪かったねと、何も悪くないのに謝罪するアーサー殿下。
 流石としかいいようがない。なんて優しいのだろうか。私を責めるのではなく、自分の落ち度だと、お考えになる素晴らしさ。普通の人なら中々できる事ではない。例えば、すぐそこで
「早速、馬鹿ルーナが足を引っ張ってるよ。最悪」
 と嫌味を言ってくるアネルとは大違いだ。うっかり惚れそうになる優しさ。まぁ、惚れたら最後待つのは死だけど。

「……でもどうしようか。馬が使えない、となるとやっぱり歩きか。それは、少しキツイよな」

 確かにこのメンバーで、2、3日歩くというのは辛いだろう。私やアネルは置いておくとして、ここにいるメンバーは皆、貴族やら王族。つまるところ良いところ育ちの坊ちゃんや、お嬢様だ。何日も歩くなんて事は、どう考えてもできそうにない。特にセシルちゃんなんかは、キツイだろう。さてはて、どうしたものか。と殿下や他のメンバー達が頭を悩ませる。



 あぁ、そう言えば確か、ゲームでも、私、こと勇者が馬に乗れないことが、問題になっていたなぁ。だが、そこは流石乙女ゲームということで、恋愛イベント。アーサー殿下と共に馬に乗るというイベント(スチルあり)になっていた。まさに、王子たれ!といったアーサー殿下がうかがえるそんなイベント。うっかり惚れそうになる、と言うか完全に私が惚れた瞬間だった。(その後彼のルートに入って後悔したけど)

 しかしなぁ、ゲームの時は好感度が上がるイベントだったけど、今の私には、そんなイベント必要し。そもそも現在のヒロインは私ではなく、セシルちゃん。むしろセシルちゃんがヒロインでなければ、私は死んでしまうのだ。私の好感度を上げるよりも、セシルちゃんの好感度を上げなくてはいけない。






「……あの、この空気で物凄く言いづらいんだけど」
「どうしたんだい?セシル」

 誰もが、どうするかと考える中、沈黙を破ったのはセシルちゃん。一体どうしたのだろうか。

「あの、私、馬に乗れるは乗れるんだけど。やっぱり女だから、他のみんなみたいに上手く乗れる自信ないし、それにスピードを出して乗るのはちょっと、怖いかなぁ。」

 あはははと苦笑いをするセシルちゃん。うむ、可愛らしい姿だ。
 しかし、これは好都合かもしれない。セシルちゃんも、馬に乗れないとなると、私の代わりに2人乗りイベントが起きる。そうすればセシルちゃんの好感度が上がる。よって私の死亡率が低くなる。………なんて、好都合な展開。神は私に味方した!
 ただ、1つだけ問題があるとすれば、それは、このメンバーの中で2人乗りが出来るのがアーサー殿下しかいないという事。




「そうか。そうだよな。普通、女の子は馬になんて乗らないもんな。………勇者殿だけなら、俺と一緒に馬に乗って貰おうかと思ったんだが、乗れないのが2人となるとなぁ」
「そうですね。私も馬に乗れますが2人乗りとなると話は別になりますからね。どうせ、ヨハネイル殿も2人乗りは無理でしょう?」
「いやぁ、ディー君。君だって乗れないなに、その事を嫌味ったらしく言うのは、どうかと思うよ。それ、自分に帰ってきてるから。」
「別に嫌味ではありませんよ。で?乗れるのですか、乗れないのですか?はっきり言っていただけません?」
「……ご想像の通り、俺も2人乗りはできないかな。……アネル君は?出来る?2人乗り」
「そうですね。俺自体、馬に乗れる様になったのは、ここ1年の間なので、難しいですね。」


 でも、大丈夫。例え、アーサー殿下しか、二人乗りができなくても、私には死角は無い!
 さて、私も、セシルちゃんも馬に乗れない。2人乗りで行けるのは1人だけ。もともと2人乗りをする気が無かった私。対して、代替ヒロインのセシルちゃん。となると答えは自然と決まってくる。


「だったら、殿下はランベル様と共に馬に乗っならどうでしょうか。……私は、後からゆっくり歩いて村まで向かいますので」

 こうすれば、代替ヒロインである彼女の好感度が上がり、逆に関わらない事で、私の好感度を上げない。むしろ下げる形になる。さすれば、自然とセシルちゃんは私の代わりにヒロインとなり、私は死ぬ事を免れる。流石、私!考えに死角はない!!


「馬鹿じゃないの?ルーナ。僕達はルーナの付き添いとして、共に旅に出るんだよ。なのにそのお前が、別行動?笑わせないでよ」

 …………残念。どうやら死角だらけだったよう。そもそも、がなっていなかった。

「そうだね。俺たちから勇者殿が離れてしまっては意味がないから、それはちょっとダメかな」
「すみません」
「いや、謝る必要は無いよ。」

 折角の提案が却下されてしまえば、なす術もない。さてはて、どうするべきか。……ていうか、ゲームではどうだったけ? セシルちゃん、確かゲームでは馬に乗れてたよな。じゃないと、今と同じ状況に陥ってたし……やっぱり彼女は転生者? いや、前にもそう思ったけど、それはどうでもいい事か。だいたい、私という存在が居るだけで、すでにイレギュラー。彼女が転生者だとしても、特に問題はない。むしろ、その方が自然なのかもしれない。彼女が転生者だとして、仮に逆ハーレムを狙っていたとしても……それはそれでこちらとしては好都合。私が手を加えなくても、彼女からヒロインになってくれるなら……最高じゃないか!そりゃあ、前みたいに眼の前でいちゃつかれるのは、はっきり言ってウザいけど!でも、死を免れる為には致し方ない。取りあえず、目の前でリア充がいちゃつき初めても、耐えられるメンタルを鍛えておこう。うん。


 ……と、いけないいけない。今はそんなどうでもいい事だった。今は、考えなくてはいけない事は、どうやって村まで行くかだ。
 馬は使えない。歩くのは無理……となると

「……馬車とかですかね?」

 歩きよりは、ずっと早く、しかも馬に乗れなくても特に問題ない。まぁ、馬車の操縦手がいなければ、馬同様、意味はないが……


「成る程、馬車か。確かに、それなら歩くよりは速く村に着くことができるし、乗馬よりも、楽に移動ができるな。問題は操縦手だが………」
「それなら、僕がやりますよ。物資とか運ぶときに、何度か操縦したことありますし。」

 幸運にもアネルが操縦出来るようだ。よっ!流石、騎士団に所属しているだけはある。












 その後、明日の事について色々と話し合い、ある程度のことが決まると、明日に備えて解散という形になった。

「あ、待って勇者様」

 さぁ、明日に備えて自屋に戻ろうとした時、後ろからそう私を呼び止めたのは、セシルちゃん。一体どうしたのだろうか

「えっと、何かご用ですか? ランベル様」
「うん、そう。それだよ、それ!」
「それ?」

 それとは一体どれだろうか。

「あのね。勇者様、私の事をランベルって、ファミリーネームで呼ぶよね。しかも様付けで」

 まぁ、そりゃあ、貴方は目上のお方、しかも侯爵家のご令嬢ですから。例え、心の中では、セシルちゃん呼びでも、ランベル様と呼ばなければ、失礼どころの話ではない。

「あのね。折角、旅を共にする仲間だから、私、勇者様と仲良くしたいの。だから、私のことはランベル様じゃなくて、セシルって呼んでくれないかな?……私もルーナって呼びたいし。ダメ?」

 首を傾げ、そうたずねるセシルちゃん。はっきり言って可愛らし。あざといとも取れる行動だが、それでも、それがわかっていても可愛い!!と思う気持ちが勝る程に可愛らしい。だから、そんな可愛らしい姿で「ダメ?」とか言われたら。頷くしかないじゃないか!


「えっと、じゃあ。セシルちゃんで。いいですか?」
「んー、敬語も気になるけれど。ちゃんと名前を呼んでくれたから良しとしよう。じゃあ、改めてよろしくね!ルーナ」

 にこりとそう笑うセシルちゃんは、可愛いなんてもんじゃ無かった。天使、天使そのもの。成る程、天使はここにいたのか!!
 やっぱり、私の目に狂いはなかった!! 私が見込んだ子だけある。可愛いすぎる。
 もう、たとえ転生者でも、男を狙う逆ハー狙いだとしても、そんなのは関係ない。こんなに可愛い、彼女なら、どんな男でも落とせるだろう。むしろ、落とせない奴は、落ちない奴は男じゃない!!

「こちらこそ、よろしくお願いします。セシルちゃん」


  それこそ私の死亡ルート回避のため、色々とよろしくして頂きたいものだ。

 そんな事を思いながら、彼女の手をぎゅと握った。
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