ヒロインは他に任せて

オウラ

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1つ目の宝玉と

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 ひんやりとした空気がどこか肌寒い。カツカツと足音が、ポツリポツリとしたり落ちる雫の音が、そこら中に響く。
 現在、私達は、凶暴化した精霊たちがいるとされる洞窟に足を踏み入れている。村の東方に位置するこの洞窟は、村人の話を聞くに深く複雑な構造になっているらしい。奥に進めば進むほど道は狭く、そして暗くなっていく。魔法で、なるべく辺りを明るくはしているが、それでも限界というものはある。薄暗い洞窟の元、いったいいつ凶暴化した精霊に襲われるのかわからない緊張感も相まっている為か、どこかこのパーティーには重い空気が流れている……………様な気がする





「ルーナ、大丈夫?体痛まない?」
「あぁ、うん。大丈夫ですよ」

 先ほどから、15分おきぐらいに心配してくれるセシルちゃん。心配してくれるのはありがたいが、流石に心配しすぎではないだろうか。

「もし、何かあったらすぐに言うんだよ!」

 暗くて、はっきりとその表情はわからないが、にこりとセシルちゃんがわらう。天使のようなその微笑みは、まるで背景にお花でも咲いているんじゃないかと錯覚させるレベル。……まぁ、暗くて見えないけれど!!多分そんぐらい可愛い。









「にしても、いつまでつっくんだろうねぇ、この道。それに、噂の精霊もまったくいないし、そろそろ奇襲でもかけてきそうなのにねぇ」
「不謹慎ですよ。ヨハイネル殿!大体、奇襲をかけられたら困るのは我らですよ」
「冗談じゃん。本当にディー君って硬いよねぇ。」

 まったくと怒るディルクと、相変わらずのルイ。確かに、ルイの気持ちは分からなくもないが、不謹慎そのもの。
 だいたい、今襲われたら大変だ。一応、動けない私を守るような陣形(私を中心に、前にアネル、右にセシルちゃん、左にアーサー。そして後ろにルイとディルクという形)で、道を進んでいるが、いきなり後ろから襲われたら絶対に勝てると言うわけでもない。本来なら、ゲームだったら万全の状態でこの洞窟に挑んでいたが、それも今では叶わぬこと。あー、仕方ないとはいえ、怪我なんてするもんじゃなかった。本当に失敗した。


 因みに、この洞窟にいる例の精霊の正体は、たまたま手にした宝玉に願ってしまったが為、本来の姿とはかけ離れてしまった可哀想な生き物。ぶっちゃけ言うと、実は精霊ではない。精霊になりたいと願ったが、なれなかった。宝玉の暴走の末、まったく別のものに変わり果てた小動物、確か本来の姿は、うさぎのように白くうわうわした生き物だった。ゲームではこのウサギもどきが、凶暴化し我ら襲ってきた。しかも、中々強く序盤なのに倒すのに手こずった記憶がある。しかも、負けると普通にゲームオーバーだし、死ぬし!本当このゲーム死にすぎだよ。













「え、まじで………」

 とうっかり思わず、声が出てしまったのも仕方ない。
 目の前の道が3つに分かれているのだ。残念ながら分かれ道の奥はさらに暗く、どこに進めば良いのかすらもわからない。うっかりしていた。そうだった、思い出した。確かこの洞窟分かれ道があったんだった。しかも、どの道の先にウサギもどきがいるか、ぶっちゃけ言って忘れてしまった。やばい、どれが正解なのか、わからない。 あー、まじかよ。選択肢に迷う。普通に攻略サイト見ながらゲームやったのが完全に裏目に出た。だから、私はヒロインに向いていないんだよ!!










「分かれ道か。入り組んでいると聞いたから、その可能性は考えていたが、これは困ったな」
「どうするの?アーサー、この先?」
「そうだな。……効率は悪いが1つ1つ回る。もしくは危険性は高まるが3手に別れる……のどちらかになるな」

 果たしてどうするべきかと悩む旅の仲間達。
 ぶっちゃけ言って、いつウサギもどきが襲ってくるのか変わらないから、少人数になるのは望ましくない。しかし、逆にみんなで行動したら、時間がかかってしまう。引きが悪かったら、最後に選んだ道の先に、ウサギもどきがいることになる。その頃には体力の限界がきているのかもしれない。果たして、どっちの選択が懸命なのか………間違えたら、相変わらず死ぬし。ここは迷いどころだ。
















 結論さえ言ってしまえば、私たちは3つに分かれて洞窟を探索することになった。因みに組み合わせは、私とアネル、セシルちゃんとディルク、ルイと殿下というもの。若干心配であるが、何かったらすぐに仲間を呼ぶという約束をして、私たちはそれぞれの道に足そえを踏み入れることにした。







「……それで?馬鹿ルーナ、怪我は?どうなの」

 皆と別れしばらくしたそのとき、ぼそりとそんなことをアネルが漏らした。

「え?あぁ、本当に大丈夫だよ。さっきセシルちゃんにも言ったけど、今は結構調子が良いから」
「別に、それなら良いけど…」

 まさか、アネルがここまで心配してくれるなんて思わなかった。嫌われているとばかり思っていたせいか、こんな風に心配される事なんてないと思っていたから、若干私は驚いているんだ。思えば、昨日アネルが帰ってきたときに、洞窟に向かう趣旨を伝えたら、なんだか怒っていたような気もする。
 ふと、夢で見た記憶を思い出す。あの約束のせいで、今まであんな風だったなら、アネルってそんな性格をしていると思う。約束の仕方を間違える私も私だが、それを実行するアネルもアネルだ。一体どんだけ不器用なんだろうか。でも、それを実行したと言う事は、なんだかんだ言ってアネルは私のことを信じているのかもしれない。改めて思えば、私はずっと昔から嫌われてはいなかったのだろう。それを今になって知るなんて本当にどんだけ不器用なのだろうか。アネルも、私も。あー、馬鹿みたいだ。
 まぁ、でもこれからは、少しでも歩み寄れるようにしていくか。


「アネル、あのさ。もしこの旅が終わったら一緒に家に帰ろう。」
「は?いきなりどうしたの、馬鹿ルーナ」
「いや、騎士になってから中々帰ってこないから。だから、たまには帰っておいでって事を良いたくて。アネルの帰る場所は、うちだから」

 なんだ、これ。改めて言うと恥ずかしいな

「………別に、一緒に帰ってやらなくもない」

 ぷいっとそっぽを向いたため、その表情は見えなかったがアネルの耳は真っ赤に染まっていたのは、はっきりわかった。なんだ、こいつかわいいな。やっぱツンデレってデレた時の破壊力がヤバいな!!萌えるよ。

「そっか。うん、一緒に…」
 と、その瞬間。ボンっと何かにぶつかる感覚がした。果たして何がぶつかったのか、数歩離れて顔を上げた先にあったのは、大きな黒い物体

「ゔ………ゔぅ………ゔぐぅ」

 地を這うような呻き声が目の前から聞こえる。自分よりも何十倍もでかい真っ黒の物体が、目の前で動く。そして、ギロリと見開いた真っ赤な瞳が私たちを見据えた。
 あ、これだ、これが噂の凶暴化した精霊。もといウサギもどきだ。なんで運が悪いのだろうか、当たり引いちゃうなんて。




「やば」
「っ!馬鹿ルーナ、そんなこと言っている場合じゃないでしょ!!お前は足手まといだから下がってろ」



 そのまま、ぐっと左腕を引かれる。そして、ばっと私の目の前で、剣を構えるアネル。目の前に見えるのは彼の大きな背中。昔はあんなに小さかったのに、いつの間にこんなに大きく育ったのだろうか。

「馬鹿ルーナはそのまま、何もしないで僕に守られていれば良いんだ」

 絶対にもう2度と傷つけないから。そう言って無謀にも、アネルは目の前の黒い物体に向かって剣を下ろした。
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