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1章 訣別
06-2. 魔法結晶の正体
「セザール、クロヴィス、お帰りなさい」
他領に出かけていたフォートレル辺境伯家の兄弟たちが揃って帰ってきて、竜舎で私とお兄様に合流した。
「一緒だったの?」
「途中で合流した」
クロヴィスが良い笑顔で返す。
「既にお父様たちが待ってるみたい、急ぎましょう」
到着したばかりだけど、いつでも家族会議が始められる。「家族会議」と称しているのにオリオール伯爵家とフォートレル辺境伯家が揃うのは、両家は一心同体であり一つの家門だとお互いが思っているから。我が家からは私、お父様、お兄様、叔父様の四人、フォートレル辺境伯家からは叔父様、イレネー、クロヴィスの三人。きっとイレネーの結婚後はフェリシテも参加することになると思う。当主夫人や当主代理夫人がいないのは、どちらも妻に先立たれているからだ。
叔母様は政治的な話が苦手なため以前から参加していない。薬師としての実力が高く、そちら方面の仕事を一手に引き受けてもらっている。
「中央に出す魔法結晶はどうするの?」
「攻撃に使えそうなものは避けたい」
私の問いにお兄様が即答する。
天然物だと思われている魔法結晶だけど実は人工物だから、大きさも純度もある程度は意図して変えられるのだ。作っているのは当代聖女たる私。大量に魔力を使うので、直系でもお兄様や叔父様では無理なのだ。
聖女が聖女たる所以は、その類まれなる膨大な魔力と、他の追随を許さない魔力操作による。かつて魔獣のスタンピードから人々を守った魔法による結界は、この国では聖女と呼ばれたただ一人の女性しか展開できなかった。隣国ではキエザ辺境伯の祖先となった聖人と呼ばれる一人の男性だけ。
もしほかに国が残っているとしたら、同じように聖女や聖人と呼ばれるような人が、スタンピード時に存在したところだけだろう。
「純度を下げようか?」
攻撃に使えそうなものを避ける意味を理解して、再び尋ねる。
「それが良いな。あと火の結晶は無しの方向でどうだろう?」
お兄様の言葉を引き継ぐように、お父様が発言した。
我が家が王都の屋敷を引き払ってから、中央との関係は急速に冷え込んでいる。今まで契約より多い数の魔法結晶を献上していたけど、次からは契約通りの数になる。大きさも契約の最低限に。魔法結晶の種類は問われないから、こちらの都合の良いものだけに。
すでに辺境は中央との決別の方向に舵を切ってもいる。魔獣素材や魔法結晶といった辺境からの資源に頼っている中央は、辺境が離れることを決して許さないだろう。
でも契約にない資源を出す気は全くない。たとえどれほど責められても。
だからきっと戦争が起きる。
兵器として流用可能な魔法結晶は戦争に投入されるだろう。戦になった場合、辺境と中央を隔てている森を焼かれるのは悪手だ。いくら辺境の兵士が強いといっても、中央とは絶対的な兵士の数が違う。森を有効に使わなくては勝ち目がない。
お父様が火の結晶を出したくないというのはよく理解できる。多分、私だけでなく会議の参加者全員が、同じように思っているだろう。
「出すのは聖魔法と水魔法、土魔法の三種類だけ、中でも水魔法は少な目で。純度は下げられるだけ下げるのはどうでしょうか?」
「それで良いんじゃないかな」
満場一致で方針が決まった。
今までも天然物を装うために純度にバラツキを持たせていた。かつては献上の際に「今年の分は全体的に純度が悪くて」なんて会話があったらしいから、全体的に純度が低くても問題なさそうだ。
もっとも純度が低いといっても魔石とは比べ物にならない魔力量と威力を誇るのだけど。
「オリオール家から出す分は、規定値ギリギリの大きさで良いかしら?」
「そうだね、去年よりも小さめで行こうか」
方針が決まれば後は早かった。「他領に撒く分は――」「大きさは――」
次々と出てくる言葉は質問というより、参加者の認識が同じなのを確認するだけだった。
他領に出かけていたフォートレル辺境伯家の兄弟たちが揃って帰ってきて、竜舎で私とお兄様に合流した。
「一緒だったの?」
「途中で合流した」
クロヴィスが良い笑顔で返す。
「既にお父様たちが待ってるみたい、急ぎましょう」
到着したばかりだけど、いつでも家族会議が始められる。「家族会議」と称しているのにオリオール伯爵家とフォートレル辺境伯家が揃うのは、両家は一心同体であり一つの家門だとお互いが思っているから。我が家からは私、お父様、お兄様、叔父様の四人、フォートレル辺境伯家からは叔父様、イレネー、クロヴィスの三人。きっとイレネーの結婚後はフェリシテも参加することになると思う。当主夫人や当主代理夫人がいないのは、どちらも妻に先立たれているからだ。
叔母様は政治的な話が苦手なため以前から参加していない。薬師としての実力が高く、そちら方面の仕事を一手に引き受けてもらっている。
「中央に出す魔法結晶はどうするの?」
「攻撃に使えそうなものは避けたい」
私の問いにお兄様が即答する。
天然物だと思われている魔法結晶だけど実は人工物だから、大きさも純度もある程度は意図して変えられるのだ。作っているのは当代聖女たる私。大量に魔力を使うので、直系でもお兄様や叔父様では無理なのだ。
聖女が聖女たる所以は、その類まれなる膨大な魔力と、他の追随を許さない魔力操作による。かつて魔獣のスタンピードから人々を守った魔法による結界は、この国では聖女と呼ばれたただ一人の女性しか展開できなかった。隣国ではキエザ辺境伯の祖先となった聖人と呼ばれる一人の男性だけ。
もしほかに国が残っているとしたら、同じように聖女や聖人と呼ばれるような人が、スタンピード時に存在したところだけだろう。
「純度を下げようか?」
攻撃に使えそうなものを避ける意味を理解して、再び尋ねる。
「それが良いな。あと火の結晶は無しの方向でどうだろう?」
お兄様の言葉を引き継ぐように、お父様が発言した。
我が家が王都の屋敷を引き払ってから、中央との関係は急速に冷え込んでいる。今まで契約より多い数の魔法結晶を献上していたけど、次からは契約通りの数になる。大きさも契約の最低限に。魔法結晶の種類は問われないから、こちらの都合の良いものだけに。
すでに辺境は中央との決別の方向に舵を切ってもいる。魔獣素材や魔法結晶といった辺境からの資源に頼っている中央は、辺境が離れることを決して許さないだろう。
でも契約にない資源を出す気は全くない。たとえどれほど責められても。
だからきっと戦争が起きる。
兵器として流用可能な魔法結晶は戦争に投入されるだろう。戦になった場合、辺境と中央を隔てている森を焼かれるのは悪手だ。いくら辺境の兵士が強いといっても、中央とは絶対的な兵士の数が違う。森を有効に使わなくては勝ち目がない。
お父様が火の結晶を出したくないというのはよく理解できる。多分、私だけでなく会議の参加者全員が、同じように思っているだろう。
「出すのは聖魔法と水魔法、土魔法の三種類だけ、中でも水魔法は少な目で。純度は下げられるだけ下げるのはどうでしょうか?」
「それで良いんじゃないかな」
満場一致で方針が決まった。
今までも天然物を装うために純度にバラツキを持たせていた。かつては献上の際に「今年の分は全体的に純度が悪くて」なんて会話があったらしいから、全体的に純度が低くても問題なさそうだ。
もっとも純度が低いといっても魔石とは比べ物にならない魔力量と威力を誇るのだけど。
「オリオール家から出す分は、規定値ギリギリの大きさで良いかしら?」
「そうだね、去年よりも小さめで行こうか」
方針が決まれば後は早かった。「他領に撒く分は――」「大きさは――」
次々と出てくる言葉は質問というより、参加者の認識が同じなのを確認するだけだった。
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