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07-1. 7年後 1

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 キャスリンが帰国した七年後――

 魔力風邪の流行が始まる季節だった。レストヴァ王国とレイエ王国が手を組んでガスティエン王国に侵攻したのは。
 二つの国とレイエ王国はいずれも国境を接する隣国であり両国ともに大国だ。少し前までは国力が拮抗しており、戦争になれば疲弊して第三国から侵攻されるとばかりに、お互い不干渉を貫いていた。

 しかしレイエ王国との関係が破綻したガスティエン王国にだけ魔力風邪が猛威を奮い、特効薬が潤沢にあるレストヴァ王国では感染が抑え込まれていた。国力に差ができるのは当然の状況だった。

「これから、激動の時代が来るわね……」
「ほんの数年で落ち着くさ」
 生後数か月の子供を腕に抱いたキャスリンは小さく溜息をつく。夫であるフェリクスの膝には四歳になる娘が座っている。

 予想通りガスティエン王国では貴族の子供たちの殆どが、平民並みの魔力量になった。男子よりも女子の魔力風邪の罹患者の方が魔力の減少幅が小さいとはいえ、何度も感染し、その度に魔力減少していれば、碌に魔法を使えない成人になるのは誰の目にも明らかだった。

 更に悪いことに子の魔力量は親と同程度になる。後天的に減少した魔力量が子にも引き継がれる。形質が変わるからだ。第二子、第三子と子を何度も生む間に、両親が魔力風邪に感染すると、下の子はより少ない魔力量になる。

 状況は悪いままだったが、大国の傲慢さのまま突き進んだ結果が今回の戦争だ。レイエ王国との国交が断絶した結果、ガスティエン王国を経由しなければ行けない国にまで、魔力風邪の特効薬が届かない結果になり恨みも買っている。

「でも……レイエ人の統治をあの国の民が受け入れるとは思えないわ」
 貴族の令嬢であるキャスリンにさえ、王都の民は上から目線で対応したのだ。

「受け入れられなくても、数を減らした彼らが反抗するのは難しいだろうね」
「そう、……かもしれないわ」
 夫の言葉は円満的な解決とは程遠いものだった。

 栄養状態が良くなく、治癒魔法師に罹ることのできない平民の場合、魔力風邪の高熱で命を落とすのは珍しくない。そもそも体内魔力に影響が出る病気は治癒魔法が効きにくい。対するレイエ王国はレストヴァ王国から潤沢に麦やほかの作物が輸入され、順調に人を増やしている。土地を耕す農民が減り放棄された畑も、年々増え続けていたらしい。
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