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へっぽこ召喚士、躾を試みる①

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 いつも通りの変わらぬ朝を迎え、魔獣達の世話が一通り終わったミアは、フェンリルの檻の前で仁王立ちしていた。

 そんな彼女に全く反応しないフェンリルは、大きな欠伸をして、背を向けるように体勢を変えた。



「ねえ。昨日みたいにちょっとお喋りしない?私、あなたのことを、もっと色々知りたいの」


『……』


「ねえってばあ……」



 昨日の出来事を語れる相手は、目の前にいるフェンリルしかいないというのに、向こうにはその気はないらしい。

 親子コカトリスの騒動に一人で首を突っ込んだ件に加え、街での多数のフェンリルを目撃情報とくれば、当然リヒトからの長い説教を受ける羽目になった。

 魔獣騎士の相棒にもなっていない、全く人馴れしていない魔獣を外に出したのだ。怒られるのも無理はない。

 街の民を守る魔獣騎士団が、民を傷つけていたかもしれないと言うリヒトの気持ちも良く分かるのだが、その言葉には少し胸が傷んだ。



「私を守ってくれたあなたが、街の人を襲うなんてことありえないのに……。こんなにも賢い子なのに。ね?あなたもそう思わない?」



 自分が来る前の魔物達の様子は分からないが、少なからず現状はとにかく穏やかで危険行動を取ったことはない魔獣達に、ミアはこの子達はいい子だと胸を張って言えるつもりだ。

 確かに絶対に安全という言葉は使える自信は今のところはない。

 ただ、ここにいる魔獣達を信頼しているミアには、その絶対を約束したい気持ちが溢れる。

 裏切られた挙句捨てられ、日々怯えながら生きてきた魔獣達に、危険な生き物というレッテルを貼られたくなかった。

 召喚士として、魔獣達を騎士達の良き相棒にすれば、魔獣達に向ける視線は変わってくるはずだ。



(今の私に出来ること……それは、躾をしてあげる事)



 本来魔獣と心を通わせることの出来る騎士がやるべき事だが、騎士達に心を閉ざしている以上ミアしかやれる人材はいないのだ。

 こうして檻の中にずっと居続ける彼らに、本来召喚された目的である役目を果たさせるのも自分の仕事だと、ミアは意気込んでいた。

 コカトリスから貰った羽をお守り代わりに常に持ち歩くことにした彼女は、制服の上からお守りをそっと撫でて、もう一度フェンリルを見つめる。

 躾をするにあたって、昨日会話をすることが出来たフェンリルから試そうと思ってはいたものの、中々反応を示してはくれない。

 だからと言って、ミアは挑戦を諦めるようなことはしない。



「まずは、散歩にでも行こっか!」



 好きなものから誘導していって、まずは檻の外に出して距離を縮めることから始めた。





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