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2話

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俺と謎のマントの男は薄暗い森の中を歩いていた。
日はもう落ちかけ、辺りが段々と見えなくなっていく。
俺は暗闇への恐怖と、今日起きた数々の事、それになによりスカーレットへの不安で頭がいっぱいで、マントの男にひっつくようにしてついていくことしかできなかった。
この男は何故俺達の借金を支払う約束をしたのだろう。
ふと先程の事を思い返してみる。
目の前にいるこの不思議な男が、次々と俺達の問題を解決していった事を。

この男はスカーレットの代わりに、8000万という莫大な額の借用書にサインをし、連帯保証人となりその場を丸く収めた。

借金取りが「信用が足りない」などとゴネると、俺の側にいたスカーレットを立ち上がらせて借金取り達の元へと突き出す。

「スカーレット!?保証なら俺でいいだろ!?」

「黙れ、お前に決定権はない。そもそもお前はもう私の資産だ。明日の昼、ここで全額払うからそれまではその女を監禁でもなんでもしておけ、私はコイツを貰っていく」

そういって俺の肩を抱き寄せると中々派手に壊れた大穴から俺を連れ出そうとする。

「アルク……!アルク!」

「スカーレット……!」

彼女の声が背中から聞こえる、しかし俺はその声の元には行く事ができない。悔しくて唇を噛み締める。
男は不意に立ち止まると、借金取りの方を振り向き鋭い眼光で睨みつける。

「あぁそうだ、くれぐれもその女に手を出してくれるなよ。私のの方まで傷がつくかもしれんからな」

そう言うとおもむろに男は右手をかざす
家がガタガタと揺れ、床や壁が軋む音に包まれる。

「わ、わかってるって、金さえくれればなんでもいい!!」

借金取りは椅子にされていた事を思い出したのかへこへこと頭を下げる。
それを見てマントの男は鼻で笑うと手を下げ、俺の腰へと手を回す。
揺れは収まり、男達はふらふらと椅子に座り込んだ。

「あ、ありゃあ一体なんだったんだ?」

「噂でしか聞いたことなかったが、ヤツが黒の魔術師というやつかもしれん」


思い返してみても、この男が俺を買う理由は全く検討がつかなかった。
俺は確実に初対面であるし、スカーレットや、スカーレットの父と何か関連があるのだろうか。
どう考えても俺の価値をそこまで高く見積もる理由がわからなかった。

「……目を瞑れ」

少し森の中を歩いた後、不意に男が口を開く、そして何をするのかと思いきや軽々と俺を持ち上げた。

「うわぁっ!?」

「目を瞑れと言っているだろう」

男に言われるがまま俺は目を瞑る。
すると段々と落ちていく様な、そんな感覚を感じる。
身体の下の方から水のような冷たさを感じ、それが身体全体を包む。
本当に水の中に入っている?
そんな錯覚を受けるが息はできる。
寒い、とても冷たい。
俺は少しでも温もりを得ようと男にしがみつく。
どれくらい時間が経っただろう。
俺は体温を逃すまいと縮こまっていると男の声が聞こえてきた。

「………いつまでしがみついてる気だ」

恐る恐る目を開くと、俺は巨大な屋敷の敷地内にいるようだった。
男の身体から手を離すと、ゆっくりと男に降ろされる。

「こ、ここは?」

「私の家だ、ついて来い」

そういうと男は屋敷の扉を開け、ズカズカと中へと入っていく。

「あ、ちょっと待ってくれ!」

俺は慌ててその後追った。
扉の向こうはまるで自分の住んでいた世界とは真逆の光景が広がっていた。

「うわぁ……」

外からでもなんとなく予想はついたが、屋敷の中はとんでもなく広い。
天井には豪華なシャンデリア、壁には巨大な絵画が目に入る。
しかし辺りを森に囲まれていたからなのかなんとも薄暗い。
そんな薄闇の向こうから何やらおかしなモノが現れる。

「カタカタカタカタ」

顔のない、人形のようなものが不自然な動きでこちらへと向かって来る。その様子はあまりにも不気味で、お化けや幽霊といったものが苦手な俺は慌てて男の後ろへと隠れる。

「う、うぅ……」

「何をしている」

「いや、だってお化けが……」

俺の言葉に対し男は鼻で笑うと、その人形にマントを預ける。
男曰くこれは自動で動く人形らしい。
どういう仕組みで動いているのかはわからないが、確かに男のマントを受け取るとまたも不思議な動きでこの場から離れていった。

「ふむ、しかしその反応はなかなかそそるモノがあるな」

怯えている俺の顔を見て、不敵に笑いながら意味深な言葉を投げかけてくる。
ジッとこちらを見ている男の瞳を見返すと。
なんだか段々と吸い込まれそうになるような感覚を覚え、それが無性に怖くなり俺は慌てて顔を逸らす。

「さてまずはその薄汚い格好をなんとかしろ、ついて来い」

男はそう言うと、屋敷の奥へと進んでいく。
ここはなんとも不気味な屋敷で、俺はまだあの人形が何なのかもよくわかっていない。
ひょっとしたら自分はアレに変えられてしまうのではないかという不安に駆られ、警戒心200%の状態で男の後ろをついていった。
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