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23.一緒に考える

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 今日も今日とてリアムの制服姿で妄想を重ねる私だったが、密かな日課が終わりを告げたのはその日の夜だった。


「何か、私に伝えたいことがあるのではないですか?」

「へ?」


 愛ちゃんが夢の世界へ旅立った後、自室に流れるゆったりした大人の時間。
 ここ最近の私の不思議な視線を受け、流石に気づいたもののその意味までは読みとれなかったのだと正直に告げるリアムに、真面目に悩んでもらってた内容がただ結婚式を妄想してただけという事実に申し訳なく思う。


「ごめん、まさかそんなに悩ませてるとは思わず……そんな大したこと考えてなかった……って、大したことじゃないこともないんだけど……なんだかぐちゃぐちゃね。えっと、とりあえず……リアムのこと見てたのは、その白い制服姿を目に焼き付けてたの」

「どうしてまたそんなことを?」

「日本での婚礼衣装のひとつに似てたからつい……ミレーヌ様の『結婚式』って言葉がずっと頭に残ってて、リアムの制服がそれっぽく見えちゃって……私、向こうで式を挙げたことなかったから余計に想像が捗っちゃって……」


 毎日妄想してました……なんてどんなカミングアウトだと、聞かされたリアムの反応が気になってじっと言葉を待つ。


「そう、なんですね…………なんというか、メグミが過去に結婚していたことは聞いていましたが、式を挙げてないと聞いて……私とが初めてになると知って、とても喜んでいる自分がいます。勝ち負けではないんですけど、やっぱり…………子どもみたいですよね」


 それって、嫉妬……してくれてるんだ。


「私もリアムとが初めてで嬉しい……って、あっちで挙げてなくてよかったって思っちゃった。それに、リアムがやきもち焼いてくれるのも、素直に伝えてくれるのも嬉しい……です。……敬語になっちゃった、あはは」


 どちらからともなくそっと手に触れ、ゆっくりと指を絡ませる。


「素敵な結婚式にしたいですね」

「うん」


 つないだ手が持ち上げられ、甲に口づけられる。
 唇は甲を滑って指を食み、擽ったさと恥ずかしさで動けずなすがまま。


「そういえばこの指…………以前は指輪がついてましたよね? 今ついてないのは……なぜ? ……と聞くのは意地が悪いでしょうか」


 左手の薬指を甘噛みしながら見つめてくるリアムの雄の色気に充てられ、素直に白状する。


「あ……う、それは……あの…………あれは、もう、いらないから……。リアムと一緒に生きていくって決めた私には、必要のない物だったから……婚約した日に、外し――」


 やっぱり最後まで言わせてくれない。
 手から離れた唇がゆっくり近づいて来てるのはわかっていた。
 また語尾がリアムの唇に吸い込まれていったのがなんだかおかしくて、ふふっ、と笑った心の声さえも、段々深くなる口づけに全部飲み込まれて消えてしまった。

 翌週。

 爽やかな日が差し込む居間にて、普段は制服の詰襟で隠れている首元を惜しげもなく晒した軽装姿を眺めながらお茶をいただく、リアムの休日に流れる緩やかな朝の時間。


「今日は午後から商人を呼んであるんです」


 一緒に選んでほしいと言われ軽く承諾したが、何を買うのか聞きそびれた。
 私たちにも見てほしいってことは屋敷の置物とか飾りかしら……美術品とか並べられても良し悪しなんてわからないんだけど。

 午後に入ってすぐ来客の報せを受け応接室へと移動すると、そこにいたのはミレーヌ様と何度かお世話になったことがある宝飾店の方だった。


「ご無沙汰しております。本日はご要望に沿った品をできる限り掻き集めてまいりました」


 ソファーへ座ると、早速とばかりにたくさんのジュエリーケースがテーブルへ並べられていく。
 要望ってことは事前に何かリクエストしてたのかと、リアムのほうを見てみたけど微笑むだけでノーコメント。
 前方に視線を戻せば、それではと次々に開けられていくケースの中にはキラキラ輝く美しい宝石たちが収納されていた……が、あれ? この感じ……。


「わあぁぁぁ! きらきら、きれいねぇ。りあむのいろがいっぱい……でも、いつものとちがう?」


 空色、紺色、琥珀色……だけど。
 これまで私に贈られたリアム色の宝石たちとは少し違っていることに、私も、愛ちゃんも気づいた。
 形も、色の濃度も、透明度も様々なのに、全てに共通する特徴がひとつ。
 ――どの宝石も黒(・)とのバイカラーになっているのだ。

 この意味は、もしかして……。
 思い至った答えに、リアムを見やる。


「……気づいていただけたでしょうか? 私とメグミの色だと。そして、その色である意味を」

「うん……っ、うん。ちゃんと伝わったよ…………結婚指輪、だよね?」


 あの夜から少しずつ話し合っていた『素敵な結婚式』について。
 互いの世界での慣習、用意するものの違いや共通点を出し合いながら、自分たちならどんな式にしようか、どんな衣装が、指輪がいいだろうかと夢を膨らませていた。


「まだ、式の予定も何も決めてませんが……これだけは、指輪だけはすぐにでも用意したくて。メグミと私の指を飾る揃いの指輪が……どうしても欲しくなってしまって。ふたりの物ですが、やはり私たちの愛の女神であるマナにも一緒に選んでいただきたくて、ゆっくり見られるようにと屋敷に呼んだんです」

「けっこんゆびわ! めぐちゃん、りあむとけっこんするの? いつするの? あした?」

「あはは、明日はちょっと無理だなぁ……でも、リアムと結婚するよ。絶対にね。まずは指輪を決めなくちゃ。私とリアムのお揃いの指輪、どの宝石にしたらいいかな? 愛ちゃんも一緒に選んでほしいな」

「わぁ、まなもみていいの?」

「ぜひ、お願いします」

「すてきなのみつけるよ、まかせて!」


 いつだって愛ちゃんのことを忘れず、大切に、自然に輪に入れてくれる。
 私にとって愛ちゃんは可愛い娘ってだけじゃなくて、共に辛い時を乗り越えてきた仲間……ううん、自分の一部のような存在だから。切り離さないでくれるのがとても嬉しい。


「うーん……んー、……むぅ。こっちはきらきらきれい、こっちはつるつるきれい」

「美しさだけではどれも優劣をつけられそうにありませんね」

「どれかひとつ、これだっていう決め手が欲しいわね」


 何十種類と集められた宝石たちをひとつひとつ違いを確認しながら吟味していく。
 どれもが美しく、ふたり寄り添う姿を思わせる色合いに中々絞れないでいたが、とある石が目に映り込んだ瞬間、「あ、これだ」という思いがストンと心の中に落ちてきた。


「私、見つけた……かも」

「まなもね、いいのみつけたよ」

「えっと……私も、ひとつ気になった物が」


 おや、皆同じタイミング。


「じゃあ、せーので指差してみる?」

「いいですね」

「まながいってあげる! いくよぉ? せーのっ!」


 元気な掛け声に続き「これっ!」と示した先に集まった三本の人差し指。
 え? というよりも、やっぱり! って気持ちが強くて、皆で顔を見合わせて笑った。

 そこにあったのは、丸い艶やかな宝石。
 空色から黒までゆっくり馴染むように混ざった中心に走る薄黄色のキャッツアイ。


「これ、りあむの『め』みたいなの」

「この色にこのキャッツアイ、これ以上ないくらい私たちらしいと思ったわ」

「私もすごく親近感を覚えて……それに、お互いの髪色がベースになっていますが、中心のラインが青寄りでは黄色に、黒寄りでは茶色に見えるのがまた……私たちの瞳まで表しているようで」


 文句なしの満場一致。
 ニコニコ笑顔で私たちの成り行きを見守っていたお店の人も、「お気に召すものが見つかって良かったです」と言ってくれた。


「では、これをふたつ――」

「いや、三つ用意していただきたい。ただ、ふたつは結婚指輪として。もうひとつはブローチとして。マナに似合いそうな可愛らしいものを」

「……まなの? ……まなも、一緒?」

「三人でお揃いってこと? すごい……なんて素敵なことなの。そんなの思いついちゃうリアムって……リアムってなんでそんなイイ男なの!? やばい、感動し過ぎて涙が……うっ……ぐすっ」


 本当に、いつもサラッと私たちが喜ぶことをやってのけちゃうリアムの頭の中はどうなってるのかしら。
 けしからん。嬉しい。ありがとう。もっとやってくれ。末永くお願いします。


「ふふ、泣き顔も愛しいですが……まだ終わりじゃありませんから。指輪とブローチのデザインも相談しなくては。ほら、マナも一緒に考えましょうね」

「うん、うんっ」

「りあむ、ありがとっ……うっ……うあぁぁぁっ……うぅっ」

「あぁ、マナまで……少し休憩しましょうか」


 結局、私に続いて愛ちゃんも感極まって大号泣し、落ち着くまで小休憩としてお茶を挟むことになった。


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