傷ついて四葉のクローバーになる

八月朔 凛

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6話墨で書かれた虚言は、血で書かれた事実を隠すことはできない

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人々はそれらを魔女と呼んで、自分達が犯した罪を着せて殺した。しばらく経った頃、その事実は各国の前で明らかになった。各国はその事実を痛烈に批判したが、人々は、「国の不幸を全て魔女がおかしたからしょうがない」「過ぎてしまったことは戻せない」「他国のことに口を出すな」と言い、教科書にもそのように正しくを書いた。

事実なんて圧倒的権力の前では直ぐに潰されたり、歪められてしまう。
歴史とは勝者の物語であり、敗者が入る隙は無い。そして私達未来の人間は、それを覆す資料がない限り、その物語を真実だと思い込んで、また未来に伝えていくのだろう。


    レヴァン帝国には主に2つの人種が住んでいる。1つはレヴァンの人口の90%を締めている黄色い瞳に青い毛髪、薄い桃色の色白い肌を持つレヴァン人優秀人種(別名メアー人)。そして赤い色の瞳に黄緑色の毛髪と青白い肌を持ち、様々な国に散らばって生活している少数民族のアマデウス人劣等人種

 2つの人種はそれぞれ昔から仲が悪く、特にレヴァン人からアマデウス人への差別は未だに根強い。 少なくともアマデウス人なら誰しもが石を投げられ、買い物を拒否されたことがあるだろう。  
そして、先程の歴史の話もメアー人とアマデウス人話だ。

    アマデウス人にはレヴァン人が持ってない力がある。それは他人に干渉することがが出来る力『魔法』である。 
能力は死人を除いて他人に干渉出来ない。
水がないところから水は出せても、怪我をした人を治療することは能力では出来ないが、魔法だとそれが可能なのだ。

しかし、アマデウス人の中でも魔法は使えない人がいる。そういった人は、同じアマデウス人達に

 







   
 あれから数ヶ月後。松葉杖を使ってなら歩けるようになったミカエラは、食堂で珍しく1人で食べながら、先日見た本の内容を思い出していた。
真実の歴史の話についてはよく分からないが、その次の話はミカエラにとって馴染み深い話だったなと思いながら、そう口を動かし手を合わせ、感謝の為の食事のお唱えをしてる時だった

『護法の神々が作り出す一滴の水、1粒の麦を我らに与えてくださることを感謝して、いただきます。』


「あれ、魔法が使えない少佐じゃないですかーー!うわぁ……生きていたんですねーー!魔法が使えない人は、生きてても酸素と医療費の無駄ですよ」

同族のアマデウス人の少尉がミカエラを軽蔑したような目で見つめ、ハッキリとした声でそう言う。 普段はオドオドしていて、何か意見を言う時も、どっちつかずのことをボソボソ言う彼だが、ミカエラや他のアマデウス人が不幸で困ってる時に限って、レヴァン人と共にでかい声で何か言ってくる。

「何やっても無表情だし、女の子みたいな顔していて気持ち悪い」

 周りからも軽蔑と嘲笑を含んだ声と視線が降り注ぎミカエラは俯く。
この前も上手く笑えなかったせいで、人の気分を害させてしまった。
そうだよねいつも無表情で気持ち悪いよねと心の中で卑下する。
表情とは自分の気持ちを表し、人とのコミニュケーションを円滑にするものだ。だから、回りがそういうことを言うのは
それと同時にそんな何百回何千回聞いている言葉なのに何故か慣れない自分に嫌気が差し、唇の内側を噛んだ。

「魔女め!声が出ないのに少佐の地位にまだいるなんて、軍に媚でも売ったのか?」

「ここは劣等人種のような穢れた人間がいる場所じゃねえのに……あーあーあの時死んでくれれば良かったのに」

「そうだよ!劣等人種を生かすなんて税金の無駄!早く死ねばいいのに……だいたい、少し戦闘が出来るからって……無表情なのも俺たちを見下してるからだ!」

 ミカエラは少し、俯いてから顔を上げた。そこにはミカエラをニタニタと見下す人が数人いる。この見た目、血に生まれたからには仕方がないこと。表情は後天的でも、こちらは先天的だ。どうしようもないし、仕方がない。

「あーーうるさいな!!せっかくの食事が美味しくなくなるじゃん!」

 後ろから少し高い声が聞こえ、振り返ると、ソフィーが棒立ちで突っ立っていた。ミカエラは驚いて思わず2度見をした。そんなはずは……だって今日ソフィーは……任務に行っているはずだ。どうしてここにいるのだろうか?
 すると周りの空気が一気に変わり、先程嘲笑してきた隣人は「うわ……ゴリラ女……」など数言吐き捨てるように言うと、逃げるように数席離れた場所に移動した。

「……大丈夫かしら?」

 小さな声でソフィーは呟くと、ミカエラの真正面に座った。そして顔の前で手を振る仕草をすると、ソフィーの顔から見知らぬ、カールがかかった凛とした顔の女性になった。

「彼女の顔を借りてごめんなさい。お初にお目にかかりますわレア少佐。ソフィーさんの同僚のマリア=プラートと申します」

「少佐のことはソフィーに聞いていますわ。私は読唇術は出来ないので、ノートでお願いします」

 ミカエラは頷くと、ノートを取り出し数言書くとマリアに見せた。

『彼女がお世話になっています。ご迷惑かけてませんか?』

「いえいえ……大丈夫ですよ」と、マリアは百合のような笑顔でふんわり笑う。

『助けて下さり、ありがとうございます。』

 するとマリアは少し真顔になり、凛とした声でハッキリと言った。

「助けた訳じゃないわ。そういうのが嫌で言っただけ。たまたまいい結果になったので、よかったわ」

 その後ぽつりと「きっと私の見た目じゃ成功しなかったわ」呟いた。 

   石鹸の強い洗浄力の副作用で爛れて乾燥してアカギレだらけの手でレモンティーを飲むマリアの姿はどこかソフィーに似ていた。 

『仕事大変そうですね』 

「ははは、少佐のほうがよっぽど大変じゃないですか……前線なんていつ死ぬか分からないわ」

「私は泥まみれの兵士の下着などの洗濯をするだけ。ただそれだけ」

「私は傍から見れば地獄女よ」

 マリアは自嘲したような笑顔で言うと、レモンティーを一気に飲んだ。
    マリアが所属しているのは、ソフィーと同じレヴァン帝国軍衛生班洗濯部だ。洗濯部隊は3分の1が軍に志願した女性で、女性が唯一入れる部隊だと言われている。全国の基地や最前線の戦地どこにでも駆けつけ、下着や服を洗い続ける後方支援部隊である。

『洗濯も十分大変じゃないですか』

 するとマリアが驚いたような表情を見せてから、ミカエラの目をじっと見た。

『ソフィーと家事分担しているんです。僕は洗濯とか掃除やってるんです。だから大変さが良く分かります』

  こういう話をすると男女関係なく「え、男なのに家事やっているんですか?」という反応をされる。家にいる以上きちんと貢献しなくてはいけないと思うのだが、世間一般では、そのような感覚はアマデウス人以外は無いらしい。
実家では当たり前の光景だったので、むしろそれが当たり前では無いことを初めて知った時は驚いた。

「少し羨ましいわ……少佐も……ソフィーも」

「それはそれを知らない感覚はきっと幸せだわ。弱き、賢く、異性を支えるいう女性という役割を……枷を……担わされた私から見れば……」

 マリアは夏の日差しのような瞳でミカエラを見つめた。少し予想外の反応でミカエラは目を少し見開いたが、マリアはそれに気づいていなそうだった。その後、軽い世間話で数言交わしてから、マリアは仕事があるからと席を立ち「少佐お疲れ様」ですと、言い残し仕事に戻って行った。

 その日夜は、昨日と同じまあまあな星空が窓から見えた。ミカエラが寝ようとベッドに横たわった時、ドアーが少しづつ開いて、真っ暗の部屋に一筋の光が差し込む。どうやらソフィーが任務から帰って来たようだった。

「……ミカエラ寝てる?」

 壁を蹴って知らせようとしたが、流石に壁が可哀想なので、むくりと起き上がった。

「起きていたんだね!」

 そう言ってニコリと笑うソフィーの姿は頭から足まで血だらけだ。ミカエラは驚いて、飛び起きるとあわててソフィーの元へかけよる。傷は一つもない。ただ、赤くじっとりとした血液が、ポタポタと落ち床を汚す。
「返り血だから安心して……ね?」
 逆光でよく見えないが、少し悲しそうに桃色の唇がへの字をえがいていた。

「任務を遂行してきたよ」

 床に落ちた血溜りから数歩動いたソフィーの足元には赤い足跡がついている。

『お疲れ様。大丈夫?寒くない?』

 そう口を動かし、ポンポンと頭を撫でるとソフィーは「平気平気」と明るく言い、水色のドレスの中からナイフと銃を近くの棚にしまった。

「ミカエラ。そういえば今日マリア姉さんと喧嘩したって噂が出てきたんだけど本当?」

『待って、どうしてそうなった!話しただけ』

 するとソフィーは「やっぱり……」と呟いてから呆れたような表情を浮かべた。

「……ミカエラいつも変な噂流されてない?大丈夫?」

『嫌われ者の宿命だよ……しょうがない』

 ミカエラは無理に目を細めると、ソフィーは少し怒ったように「受け入れないでよ」と言った。ミカエラは目を伏せてから、諦めたような目でソフィーを見た。

『……この話はここで終わり。ソフィーはシャワー浴びてきなよ。廊下や床は拭いておくから』

「床は自分でやったんだから自分でやるよ。ミカエラは先に寝ていていいよ」

 ソフィーはニッコリと笑うと、くるりと背を向けて洗面所のドアを閉めた。しばらくミカエラはドアの前で立ちつくしていたが、欠伸をするとベッドに飛び込んだ。

 目をつぶってから、しばらく経った頃だろうか?身体が寝ているのか、目は開かないものの耳は聞こえるらしく、ソフィーの声が近くで聞こえる。掃除し終わったのだろうか?

「ああ、血を見たら嫌なこと思い出した……ムカつく……」

「大佐に『君は女の子なのに女の子らしくないね!身体も考え方も……君は女の子だからをしてればいい』ってさ……なにが女の子らしくだよ……」

 ああ、またあの大佐は人の地雷踏み抜いたんだな……とミカエラはぼんやりと思った。先日アンドリューも踏み抜かれたらしく、その日の夜の夕食時にどす黒いオーラが流れていた。ミカエラも「劣等人種癖に生意気」だとか言われてる。

「『君はか弱い女の子なんだからか、いつもの彼に守られればいいって……』さぁ……!女の子は大切な人も守ちゃいけないの?!」

「ああ、やっぱり女の子は正義の味方《ヒーロー》にはなれないのかなあ……」
 
 身体が目覚めたのか、目を開けられるようになったミカエラは、見つからないように薄らと目を開けた。ソフィーは憂い帯びた輪郭で窓の方を向いて、薄い唇を噛み締め、目を細めていた。いつもは青のリボンで結んである髪が解け、絹のようなまっすぐの空色の髪が月の光に反射して、透き通って見える。 

「はぁーー!!そんなこと言っても仕方がないよねーー!!それが社会《周り》から見ればなんだから……」

「うん……でも、常識……常識…………常識ってなんだろう……?それに常識だとしても常識は時代と共に移り変わるのに……」

「女の子がヒーローになれないなんて、か弱いなんて、守ってもらう為の存在常識なんて誰が決めたの?」


 ソフィーはそう言うと布団の上に放置されていたウサギのぬいぐるみをギュッと抱きしめて、「そんなこと言ってもしょうがない、しょうがない」と呟いて、ベッドに飛び込むとそのまま寝てしまったようだった。
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