この恋は始まらない

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第30.1話・準備組は仲良しです。おまけ

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十二月といえばクリスマス。
よんいち組やハジメ、一条を含め、いつものメンバーでクリスマスを過ごす約束をし、プレゼント交換をすることになった。
期末テストが始まる前に、クリスマスプレゼントを選びたい。
勉強疲れした白石と真島が駄々をこねたので、放課後に少し時間をつくり、プレゼント選びに来ていた。
準備組の四人でショッピングをする。
遠出は出来ないので、駅前のショッピングモールに出向く。
予算は二千円。
おこづかい制の学生なので、プレゼント交換の値段としては普通だろう。
二千円の中でやりくりして、一番いいものをプレゼントする。
予算は同じなので、あとはみんなの腕の見せ所だ。
駅前は綺麗なイルミネーションが輝き、クリスマスソングが流れている。
恋愛ソングに気持ちが高鳴ると同時に、幸せそうなカップルがすれ違うと羨ましく思ってしまうものだ。
「あ~、彼氏ほしい」
真島は毒を吐いていた。
「今からはもう無理でしょ」
親友である西野は、淡々と切り捨てた。
愚痴るのはいつものことなので、気にすらしていない。
隣がうるさいのを放置し、クリスマスプレゼントを選ぶのに集中していた。
「まあ、わたしには月がいるからいいもんね~」
「嫌です」
「親友じゃん?!」
「それはそうと、早く選んで。今日中に決めないと間に合わないわ」
期末テストが始まったら、次の日の勉強をしないといけないし、気付いたらすぐに二十四日になってしまう。
ただでさえ駅前は混むので、クリスマス直前にラッピングは頼みたくない。
そもそも混雑が嫌いな人間からしたら、ショッピングモールに何回も足を運ぶことは避けたい。
「月は何にするの?」
「私はハンカチか、マグカップかな」
「ま? 何の捻りもないな」
「……ウケを狙っているわけでもないし、誰がもらってもいいようにすべきでしょ?」
「え~、違うよ。みんなで交換するんだし、面白いものがいいじゃん」
真島とは付き合いが長いが、貰う側が欲しいと思うものを選ぶタイプではない。
ドンキやヴィレヴァンのヘンテコなグッズをこよなく愛する変人だ。
自分の誕生日プレゼントならまだしも、クリスマスプレゼントでも訳が分からないものを選ぶだろう。
このまま放っておくと、誰かの家に、奇抜なぬいぐるみが並びかねない。
「じゃあ、逆に何にするつもりなのよ」
「もち、サメのぬいぐるみよ。前に見た時に可愛いのあったんだ」
「それをもらって、何に使うのよ?」
「ほら。シャークネードごっこができるよ」
「はあ……」
「正直、チェーンソーのぬいぐるみと迷ったんだけど」
あほくさ。
話を切り上げさせる。
「先にサメのぬいぐるみを買いに行きましょ」
何故に悩む必要があるのか。
そんなものを高校生が欲しがると思っていることに驚愕していた。
考える時間を与えると、何を買い出すか分からないので、無理矢理にでもサメのぬいぐるみを買わせよう。
聖なる夜に、知り合い全員をドン引きさせるわけにはいかない。
優等生対アホの頭脳戦が始まろうとしていた。
しかし、すぐに助け船が現れる。
他の場所を見ていた黒川さんと白石さんが戻ってきた。
「二人は何を買うか決まった?」
「や! これからサメのぬいぐるみ買いに行くんだ!!」
「えっ、サメ?」
「向こうにね、めっちゃ可愛いサメのぬいぐるみがあるんだよ」
クリスマス要素とは。
理解が追い付かず、常識人の黒川さんがドン引きしていた。
「サメンタ……」
「は?」
白石さんは、そう呟いた。
サメ×サンタ
意味が分からん。
「それそれ」
「せやねん」
「めっちゃ可愛いよね」
「サメはロマンだから」
白石と真島は、意気投合していた。
思考回路が特殊過ぎて、同じ人類ではないのかも知れない。
二人は、蚊帳の外であり、親友をやめたくなってきていた。
頭が痛い。

それから四人で集まり、サメのぬいぐるみの売っているお店に行く。
入口から見える場所には、展示用の超ビッグサイズの可愛いくまのぬいぐるみが鎮座していた。
西野さんは、チラリとそれを見てマジレスする。
「ねえ、このぬいぐるみの小さいサイズでいいんじゃないの?」
普通に可愛いぬいぐるみだし、誰が貰っても嬉しいだろう。
サメンタよりはみんな喜ぶはずだ。
「チッチ、月は分かってないな。集まるメンバーがみんな個性的なんだから、少しでも印象を残さないと目立たないじゃん」
「え? そういう集まりではないでしょ」
真島が、学校の華と呼ばれる人達と張り合う気持ちが分からない。
正直、普通によんいち組とは仲良しであり、センス勝負で対抗心を燃やしても意味はないだろう。

せっかくのクリスマスパーティーなのだから、何事もなく過ごしたい。
アホ面した白石と真島を何とかしないと他のみんなに迷惑を掛けてしまう。
特に今回は、他人の家を会場としてお借りする関係上、ヘマは出来ない。
「東山くんの家でパーティーをするんだから、粗相がないようにしてよね……」
「東っちなら、怒らないでしょ」
「はぁ……、楽観的ね。東山くんは寛容な人だから気にしないでしょうが、粗相をしたら他の人に怒られるわよ」
ただでさえクリスマスパーティーで、十二月二十四日を潰しているのだ。
普通の女の子だったら、好きな人と二人っきりで過ごしたい。
そんな気持ちを出さずにみんなでするクリスマスパーティーにノリノリなのは、よんいち組が心の底から良い人ばかりだからだ。
美人は性格もいいのは本当である。
クリスマスとはいえ、女性が十人近く集まるなんて狂気の沙汰だが、みんな信頼出来るのも一つの理由だ。
でなければ、人見知りの西野月子が参加することはなかっただろう。
だからこそ、周りには気を遣っているのだ。
優しくしてくれる人には報いたい。
彼女もまた、普通の女の子である。

「……男子はプレゼント何にするのかな?」
「まだ決めていないみたいよ。今度買いに行くって言っていたから、同じく駅前で買い物をするのかもね」
「そっかぁ。選ぶのも、男子の方が大変かもね。二人とも、女の子へのプレゼントって分からなそうだし」
「え? 一体いつから、自分の趣味嗜好が正常だと錯覚していたの?」
「お? やんのか??」
黒川さんは、一触即発の二人を止めに入る。
「まあまあ、サメのぬいぐるみも可愛いと思うし。プレゼントは楽しい方がいい場合もあるから……」
「しましま、サメンタのぬいぐるみがあったけど、ツインヘッドサメのがよくない?」
白石は、空気を読まずにサメを持ってくる。
サメの頭が二つある意味。
「まじ? そっちにしようかな」
そして何故にそれを選ぼうとするのだ。
絶対に貰っても困るぬいぐるみである。

「さて、黒川さん。私達は普通のプレゼントを選びましょう?」
「ええ、そうですね」
アホ二人は置いていくことにした。
最近はよく二人でいる。
その理由が何となく分かった気がした。
疲れないからだ。


おまけ

放課後。
ハジメと一条は二人で集まり。
「よし、一条。プレゼント買いに行こうぜ」
「オッケー。目星は付けてある?」
「一応、な」
スタスタスタ。
萌花がやってきて。
アホ二人なので、萌花が釘を指す。
「コーヒーとメイドは禁止な。そこのアホは東っちや店員に聞くの禁止な」
「「……」」
「いきなり四肢をもがれたみたいな顔をするな」
実際にもがれていると言ったら怒られるから、無言だった。
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