59 / 64
第2章
その8 エーリクとリトルホークの因縁
しおりを挟む
8
学生食堂でブラッドにパン籠を投げられ決闘を申し込まれたエーリクは、真っ赤になった。
誇り高いやつだ、決闘を受けない理由がない。
しかしとりあえず口に詰め込まれたパンを吐き出そうとはせず、もぐもぐと咀嚼し飲み込んで。
にやっと笑った。「受けて立とう」そういうつもりだったろう。
その前に、おれは靴を脱いだ。
靴下を取ってエーリクの顔に投げつけたのだ。こういうときは手袋を投げつけていたと思うが、手元にないからな。
「エーリク。決闘の相手は、このリトルホークだ!」
歓声が巻き起こる。
固唾を呑んで見守っていた学生たちだった。
「リトルホーク! 決闘は、ぼくが」
言いかけたブラッドを制する。
「ありがとうな、ムーンチャイルドと《呪術師》のために怒ってくれたんだろ。だけど、婚約式こそまだだが、おれは求婚し承諾をもらったんだ。ムーンチャイルドを守るのは、おれだ! 婚約者とその兄の名誉にかけて、おれはエーリクに決闘を申し込む!」
「受けて立つ! 蛮人め、気にくわなかったんだ。後悔させてやるぞ!」
エーリクは立ち上がった。
「それはこっちの言うことだエーリク。勝つのはおれだ。ムーンチャイルドに謝罪させてやるからな!」
「ふん、このエーリク様に勝てるつもりでいるとはな」
なんかキャラ違わないかエーリク。
悪酔いしすぎか?
「日時は、明日の昼。場所はどこか、影響のないところを探して決める」
「それなら訓練場が良いだろう」
さっきまで、精霊の水に酔って寝てしまったシャンティ寮長の世話をしていたミハイルさんが、やってきて、宣言した。
「学園内での私闘は禁じられているが、今回の件は、わたしの判断で許可する。さらに、学長とコマラパ老師にはわたしが報告しておく。……エーリク。注意勧告だ。いたずらに人心を惑わすものではない」
ミハイルさんはエーリクを片隅に引っ張っていって、注意をしていた。
おれの服の裾をブラッドが引いた。
すまなそうに見上げている金髪の美少年。
「ごめん、我慢できなくて。でも、エーリク先輩は強い。学院に編入してきたばかりの君は知らないだろう」
「だからだよ」
「……リトルホーク?」
「ブラッドは得意な魔法で戦うつもりだろう。だけどエーリクは魔法耐性がある一族なんだ。魔法なしの剣戟や殴り合いじゃ、ブラッドには分が悪い」
「なんでそれをリトルホークが知ってるんだ。初めて会ったんだろ?」
ブラッドの親友のモルガンが、いぶかしむ。
始めに初対面のふりなんかするもんじゃないな。
「さっきは黙ってた。すまん、ちょっとした知り合いなんだ。詳しいことは後でな」
「ごめん、ぼくが決闘なんて言い出すから迷惑をかけたね」
我に返ったブラッドが、身を縮めた。
「いや、感謝してるよ。ブラッドは、おれたち紳士同盟の仲間として正しいことをしてくれたんだぜ?」
笑って、怒ってはいないと伝える。
「実はな、故郷の兄が、エーリクとちょっと因縁があって、それで躊躇いがあった。だけどブラッドのおかげで吹っ切れた。婚約者ムーンチャイルドの名誉は、おれが守る!」
エーリクも本当はいいヤツなんだ。
ちょっとひねたのは、おれの兄、リサスのせいなんだろう。
氏族長の娘エンヤに恋していたエーリク。
だけど彼女は、出稼ぎにやってきたリサスに惚れ込んで求婚し、戦ってリサスを倒すことで婿にする権利を得たのだった。
考えてみると気の毒なやつだ。
だが、おれのムーンチャイルドと《呪術師》を中傷していいってことにはならない。
おれは信じている。
《呪術師》本人は、周囲の誰かのために自分を犠牲にするとか、あり得ない話ではないのが心配だが、守護精霊を自称する育ての姉ラト・ナ・ルアと、兄のレフィス・トールが側にいる。
精霊である二人は絶対に《呪術師》に人間が手をだすことを許すわけがない。もしも、不埒者がいただけでも、このエルレーン公国は焦土となりきれいさっぱり焼き滅ぼされていることだろうから。
学生食堂でブラッドにパン籠を投げられ決闘を申し込まれたエーリクは、真っ赤になった。
誇り高いやつだ、決闘を受けない理由がない。
しかしとりあえず口に詰め込まれたパンを吐き出そうとはせず、もぐもぐと咀嚼し飲み込んで。
にやっと笑った。「受けて立とう」そういうつもりだったろう。
その前に、おれは靴を脱いだ。
靴下を取ってエーリクの顔に投げつけたのだ。こういうときは手袋を投げつけていたと思うが、手元にないからな。
「エーリク。決闘の相手は、このリトルホークだ!」
歓声が巻き起こる。
固唾を呑んで見守っていた学生たちだった。
「リトルホーク! 決闘は、ぼくが」
言いかけたブラッドを制する。
「ありがとうな、ムーンチャイルドと《呪術師》のために怒ってくれたんだろ。だけど、婚約式こそまだだが、おれは求婚し承諾をもらったんだ。ムーンチャイルドを守るのは、おれだ! 婚約者とその兄の名誉にかけて、おれはエーリクに決闘を申し込む!」
「受けて立つ! 蛮人め、気にくわなかったんだ。後悔させてやるぞ!」
エーリクは立ち上がった。
「それはこっちの言うことだエーリク。勝つのはおれだ。ムーンチャイルドに謝罪させてやるからな!」
「ふん、このエーリク様に勝てるつもりでいるとはな」
なんかキャラ違わないかエーリク。
悪酔いしすぎか?
「日時は、明日の昼。場所はどこか、影響のないところを探して決める」
「それなら訓練場が良いだろう」
さっきまで、精霊の水に酔って寝てしまったシャンティ寮長の世話をしていたミハイルさんが、やってきて、宣言した。
「学園内での私闘は禁じられているが、今回の件は、わたしの判断で許可する。さらに、学長とコマラパ老師にはわたしが報告しておく。……エーリク。注意勧告だ。いたずらに人心を惑わすものではない」
ミハイルさんはエーリクを片隅に引っ張っていって、注意をしていた。
おれの服の裾をブラッドが引いた。
すまなそうに見上げている金髪の美少年。
「ごめん、我慢できなくて。でも、エーリク先輩は強い。学院に編入してきたばかりの君は知らないだろう」
「だからだよ」
「……リトルホーク?」
「ブラッドは得意な魔法で戦うつもりだろう。だけどエーリクは魔法耐性がある一族なんだ。魔法なしの剣戟や殴り合いじゃ、ブラッドには分が悪い」
「なんでそれをリトルホークが知ってるんだ。初めて会ったんだろ?」
ブラッドの親友のモルガンが、いぶかしむ。
始めに初対面のふりなんかするもんじゃないな。
「さっきは黙ってた。すまん、ちょっとした知り合いなんだ。詳しいことは後でな」
「ごめん、ぼくが決闘なんて言い出すから迷惑をかけたね」
我に返ったブラッドが、身を縮めた。
「いや、感謝してるよ。ブラッドは、おれたち紳士同盟の仲間として正しいことをしてくれたんだぜ?」
笑って、怒ってはいないと伝える。
「実はな、故郷の兄が、エーリクとちょっと因縁があって、それで躊躇いがあった。だけどブラッドのおかげで吹っ切れた。婚約者ムーンチャイルドの名誉は、おれが守る!」
エーリクも本当はいいヤツなんだ。
ちょっとひねたのは、おれの兄、リサスのせいなんだろう。
氏族長の娘エンヤに恋していたエーリク。
だけど彼女は、出稼ぎにやってきたリサスに惚れ込んで求婚し、戦ってリサスを倒すことで婿にする権利を得たのだった。
考えてみると気の毒なやつだ。
だが、おれのムーンチャイルドと《呪術師》を中傷していいってことにはならない。
おれは信じている。
《呪術師》本人は、周囲の誰かのために自分を犠牲にするとか、あり得ない話ではないのが心配だが、守護精霊を自称する育ての姉ラト・ナ・ルアと、兄のレフィス・トールが側にいる。
精霊である二人は絶対に《呪術師》に人間が手をだすことを許すわけがない。もしも、不埒者がいただけでも、このエルレーン公国は焦土となりきれいさっぱり焼き滅ぼされていることだろうから。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる