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第1章
その45 リトルホーク、幼稚園児に負ける
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どうも。リトルホークだ。
おれは今、教室にいる。
魔導師養成学院と噂の高い、エルレーン公国立学院、午後の授業。
学院のカリキュラムでは、午前中は一般教養。
午後は、魔法の素質のある生徒と希望者による、魔法学実践科である。
しかし、クラスメイトたちの中には、ブラッド、モルガン君、ルーナリシア姫も、いない。
おれの学習レベルが低いせいである。
自慢じゃないが、おれは学校に通ったことはない。
前世を思い出したのはガルガンド軍での訓練中に死にかけたときのことなので、十五歳までは『欠けた月の村』で生まれ育った『クイブロ・プーマ』の記憶しかなかった、脳筋バカである。
故郷の村にいたとき、カルナックを伴って訪れたコマラパ師が、ボランティアで村の子どもたちに読み書き計算を教えてくれていた。
ガルガンドに行ってから、これは役に立った。
食事当番が計算ができなかったために人数に対してパンの数が足りず、食いっぱぐれるやつが出てきた。それをおれが数え直し、誰でも計算できるように板に炭でマス目の線を引いて中に石を置けばいいという表を作った。
あのときは養父や仲間達から、えらく感謝されたものである。食べ物の怨みはなんとやら。兵団内の争いにまで発展しかねなかったからな。
前世の記憶が蘇ってからは、いろんな計算も、もっとうまくできるようになったのだが。
話が脱線した。元に戻す。
ここは魔法学実践科の教室である。
午前中に、今日からルームメイトになったブラッド君に教室を案内してもらい、学院には一期生という最上級生から、一番年下である四期生までが在籍しているということを教えてもらったのだ。
そして午後からはいよいよ魔法を学ぶのだと張り切っていたおれだったが、実際のところ、初心者がいきなり経験者クラスに入れるわけではなかった。
何事も、まずは第一歩から。
「彼は、リトルホークくん。学校に通うのは初めてです。これから魔法の使い方を学んでいきます。みんな、仲良くしてあげてね」
タイトな黒いスカートと白いブラウス、少なくともそれに似た衣服に身を包んだ、二十代後半とおぼしき美人が教壇に立っており、生徒達に声をかけた。
いかにも女教師という感じ。
名前はジュリエットさん。
「リトルホークだ。よろしく」
短く挨拶をして、教室を見回した。
興味津々に、おれを見ている生徒達。
ここの生徒数は、約四十人。
第四期生。つまり最も下級生である、新一年生。
幼稚園児くらいの子たちばかりだ。
「ねーねー! りとるほーく!」
最前列の席に座っている赤毛剛毛の男児が手をあげ、立ち上がった。
今日からおれのルームメイトになったモルガン君の弟かと思うくらい似ている。
「おまえムーンチャイルドに、けっこんもうしこんだって?」
元気の良い大声を張り上げた。
とたんに教室は、歓声の渦に包まれた。
キャーキャー言う女子たち。
「ムーンチャイルドも、りとるほーくのことすきなの?」
「おへんじあった?」
「けっこんってなに」
「あいがあれば、いいのっ」
女の子は幼くても恋バナが好きだな~。
おっと、男の子もか。
おれはたちまち、子どもたちに囲まれてしまった。
大人よりも遠慮というものがない。
どんどん攻めてくる。
「どうやってしりあったの」
「もうけっこんするの?」
「こんやくがさきだろ」
女教師は助けてくれないのかな~。
と期待をしてみたのだが。
目配せをしつつ、教師に救援を請う。
「ごめん、おれの席はどこかな~。ねえ先生?」
「せんせえ、りとるほーくは、なんで、おおきいのに、ぼくたちといっしょのがくねんなの」
先生は、おれの質問はスルーしたくせに、園児の問いには笑顔で答える。
「リトルホーク君は、ずっと田舎に住んでいたんだって。学校がなかったから、魔法や歴史は学んでないのよ。これから勉強するの」
「へ~。ばかなの?」
「これからみんなと一緒に教わるのよ」
……こりゃ、だめだ。
女教師むしろ興味津々、身を乗り出している。おれの救援要請なんてどこ吹く風。聞こえてないな。
確信した。
幼稚園児と戦ったら、きっと、負ける。どこからも援軍は望めないだろう。
※
「はいみんな、席について」
そこへ入ってきた人物を見て、騒ぎはおさまるどころか、更に盛り上がる。
教室にやってきたのは学長であるレニウス・レギオン、《影の呪術師》だったのだ。
「わーい、《じゅじゅつし》さま!」
「《じゅじゅつし》さまだー!」
「あそんでー!」
……あ。しかも本物。
精霊グラウケーが演じる替え玉じゃないほう。
表情が違う。
本物のほうが、ずっと優しいんだ。
「みんな、席について。良い子にしていたら遊んであげるから」
しかし《呪術師》も、あっと言う間に元気いっぱいの人懐こい園児達に囲まれてしまった。
「ねえねえ《じゅじゅつし》さま!」
モルガン似の園児が、果敢に飛びつく。
「りとるほーくは、ムーンチャイルドと、どうやってであったの」
すると《呪術師》は。
にやりと、笑った。
「リトルホークと先に出会ったのは、わたしだ。ラゼル商会のご隠居が起こした事件でね。彼はそのとき、わたしに一目惚れしたのだよ。我が妹のムーンチャイルドとは、その後に出会ったのだ」
「えええーーーーーー!」
悲鳴をあげたのは、生徒達よりも、女教師、ジュリエットさんだった。
「ひと…ひとめぼれ……なんて素敵なのぅ!」
そしておれは。
度重なる《呪術師》の暴露発言に、固まっていた。
ああ……
平穏無事な学生生活なんて、夢のまた夢、だな……。
おれは今、教室にいる。
魔導師養成学院と噂の高い、エルレーン公国立学院、午後の授業。
学院のカリキュラムでは、午前中は一般教養。
午後は、魔法の素質のある生徒と希望者による、魔法学実践科である。
しかし、クラスメイトたちの中には、ブラッド、モルガン君、ルーナリシア姫も、いない。
おれの学習レベルが低いせいである。
自慢じゃないが、おれは学校に通ったことはない。
前世を思い出したのはガルガンド軍での訓練中に死にかけたときのことなので、十五歳までは『欠けた月の村』で生まれ育った『クイブロ・プーマ』の記憶しかなかった、脳筋バカである。
故郷の村にいたとき、カルナックを伴って訪れたコマラパ師が、ボランティアで村の子どもたちに読み書き計算を教えてくれていた。
ガルガンドに行ってから、これは役に立った。
食事当番が計算ができなかったために人数に対してパンの数が足りず、食いっぱぐれるやつが出てきた。それをおれが数え直し、誰でも計算できるように板に炭でマス目の線を引いて中に石を置けばいいという表を作った。
あのときは養父や仲間達から、えらく感謝されたものである。食べ物の怨みはなんとやら。兵団内の争いにまで発展しかねなかったからな。
前世の記憶が蘇ってからは、いろんな計算も、もっとうまくできるようになったのだが。
話が脱線した。元に戻す。
ここは魔法学実践科の教室である。
午前中に、今日からルームメイトになったブラッド君に教室を案内してもらい、学院には一期生という最上級生から、一番年下である四期生までが在籍しているということを教えてもらったのだ。
そして午後からはいよいよ魔法を学ぶのだと張り切っていたおれだったが、実際のところ、初心者がいきなり経験者クラスに入れるわけではなかった。
何事も、まずは第一歩から。
「彼は、リトルホークくん。学校に通うのは初めてです。これから魔法の使い方を学んでいきます。みんな、仲良くしてあげてね」
タイトな黒いスカートと白いブラウス、少なくともそれに似た衣服に身を包んだ、二十代後半とおぼしき美人が教壇に立っており、生徒達に声をかけた。
いかにも女教師という感じ。
名前はジュリエットさん。
「リトルホークだ。よろしく」
短く挨拶をして、教室を見回した。
興味津々に、おれを見ている生徒達。
ここの生徒数は、約四十人。
第四期生。つまり最も下級生である、新一年生。
幼稚園児くらいの子たちばかりだ。
「ねーねー! りとるほーく!」
最前列の席に座っている赤毛剛毛の男児が手をあげ、立ち上がった。
今日からおれのルームメイトになったモルガン君の弟かと思うくらい似ている。
「おまえムーンチャイルドに、けっこんもうしこんだって?」
元気の良い大声を張り上げた。
とたんに教室は、歓声の渦に包まれた。
キャーキャー言う女子たち。
「ムーンチャイルドも、りとるほーくのことすきなの?」
「おへんじあった?」
「けっこんってなに」
「あいがあれば、いいのっ」
女の子は幼くても恋バナが好きだな~。
おっと、男の子もか。
おれはたちまち、子どもたちに囲まれてしまった。
大人よりも遠慮というものがない。
どんどん攻めてくる。
「どうやってしりあったの」
「もうけっこんするの?」
「こんやくがさきだろ」
女教師は助けてくれないのかな~。
と期待をしてみたのだが。
目配せをしつつ、教師に救援を請う。
「ごめん、おれの席はどこかな~。ねえ先生?」
「せんせえ、りとるほーくは、なんで、おおきいのに、ぼくたちといっしょのがくねんなの」
先生は、おれの質問はスルーしたくせに、園児の問いには笑顔で答える。
「リトルホーク君は、ずっと田舎に住んでいたんだって。学校がなかったから、魔法や歴史は学んでないのよ。これから勉強するの」
「へ~。ばかなの?」
「これからみんなと一緒に教わるのよ」
……こりゃ、だめだ。
女教師むしろ興味津々、身を乗り出している。おれの救援要請なんてどこ吹く風。聞こえてないな。
確信した。
幼稚園児と戦ったら、きっと、負ける。どこからも援軍は望めないだろう。
※
「はいみんな、席について」
そこへ入ってきた人物を見て、騒ぎはおさまるどころか、更に盛り上がる。
教室にやってきたのは学長であるレニウス・レギオン、《影の呪術師》だったのだ。
「わーい、《じゅじゅつし》さま!」
「《じゅじゅつし》さまだー!」
「あそんでー!」
……あ。しかも本物。
精霊グラウケーが演じる替え玉じゃないほう。
表情が違う。
本物のほうが、ずっと優しいんだ。
「みんな、席について。良い子にしていたら遊んであげるから」
しかし《呪術師》も、あっと言う間に元気いっぱいの人懐こい園児達に囲まれてしまった。
「ねえねえ《じゅじゅつし》さま!」
モルガン似の園児が、果敢に飛びつく。
「りとるほーくは、ムーンチャイルドと、どうやってであったの」
すると《呪術師》は。
にやりと、笑った。
「リトルホークと先に出会ったのは、わたしだ。ラゼル商会のご隠居が起こした事件でね。彼はそのとき、わたしに一目惚れしたのだよ。我が妹のムーンチャイルドとは、その後に出会ったのだ」
「えええーーーーーー!」
悲鳴をあげたのは、生徒達よりも、女教師、ジュリエットさんだった。
「ひと…ひとめぼれ……なんて素敵なのぅ!」
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度重なる《呪術師》の暴露発言に、固まっていた。
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