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背水の陣
四
しおりを挟む「……私どもの神社は、代々成人した男が神おろしの儀を経て当主となり、その時に得た神の力を用いてようやくイワトワケの刀の力を充分に使いこなすことができるのです。我々はその刀と当主の力を借りて、人ならざるものたちを祓ってきました」
牡丹が背筋を戻し、説明をしだした。
「お雪と翡翠の父親である私の夫・夢幻は、あの子たちが生まれる直前に強大な人ならざるものの退治を行っている間に亡くなってしまいました。なので現在は誰もあの刀を使いこなすことができない、当主不在の状態となっております」
雪丸が刀の力を引き出せなかったのは、雪丸の力不足などではなく、当主になる儀式を行っていないせいのようだ。
「正当な当主が居ないこの時に、閏間神社を乗っ取ろうとする不届き者がいるのです。その者にとって、夢幻の血を継いだ我が子たちは目の上のたんこぶ。殺してしまおうと企んでいるようです」
「そいつは誰なんだ?見当がついているのか?」
庄右衛門が尋ねると、牡丹が頷く。
「現在、当主代理として神社を仕切っている夢幻の弟・幽幻です」
つまり、雪丸たちにとっては叔父にあたる人物のようだ。
「……で、お前さんは俺に何をさせたいんだ?まさかそいつを殺せなどと言わんだろうな?」
庄右衛門が唸った。忍びとして暗殺などを請け負ったことはあるが、個人的に頼まれるとは思っていなかった。
「ただ殺せば済む話ならなんとでもなりました……しかし、あれはもう人であることを半分捨てているのです」
牡丹は声を僅かに震わせた。どういうことだ、と庄右衛門が訝しむと、
「幽幻には、人ならざるものが憑いているのです。よりにもよって、夢幻を殺した化け物が……!
もはや人ならざるものと幽幻はほとんど融合しています。あれは、化け物の力を得たいが為に、魂を売り渡した結果なのでしょう。
長い年月をかけて、夫だけでなく我が子たちまで殺そうと虎視眈々と狙っていたのです!」
と牡丹が苦い顔をした。
「私たちだけでは人ならざるものを一時的に追い払うことができても、完全に封印する事はできません。しかも複雑に魂と絡みつき、強くなった化け物など、対応がとても難しい。
お雪と数々の人ならざるものを封印してきた庄右衛門殿の力があれば、それが可能なのではないかと思い至ったのです」
想像していた物事より斜め上の話に庄右衛門が呆気に取られていると、牡丹の表情により必死さが滲み出た。
「庄右衛門殿はお雪がとても信頼しているお方……どうか、二人で力を合わせて、幽幻に取り憑いた人ならざるものを封印し、お雪と翡翠を守っていただきたい」
「……」
この場に完璧に力を使えない人間しかいないなら、庄右衛門が力を貸してやれば解決する。難しい話ではない。だが、あまりに複雑な話で、いくつも質問したいことが出てきてしまう。
庄右衛門の答えは決まっていた。
「雪丸には長いこと世話になった。今回も助けてもらったからな……最後の人助けということで、引き受けよう」
庄右衛門が答えると、牡丹は目を見開き、深く頭を下げた。
「だが、叔父の話など初めて聞いたし、そもそもこの神社やそこに勤めている奴らのことも何も知らん。そう言ったことも教えてはくれるか?叔父に味方がいると厄介だ」
牡丹が重々しく頷いた。庄右衛門はさらに要求する。
「お前さんからしか話を聞けないと、情報に偏りがあるだろう。翡翠、雪丸からも話を聞いて、情報を共有することも必要だ」
「それは……」
牡丹が躊躇した。
「お雪は座敷の中です。部屋に結界を張って、幽幻が入れないようにしていて……出した途端に、お雪が殺されでもしたら……」
「ならば、その座敷に俺、お前さん、翡翠で向かって、中で話せば良いだろう」
「それはそうなのですが、お雪にはこの話は……」
牡丹が口ごもった。庄右衛門が顔をしかめる。
「二人で力を合わせろと言ったのはそっちだろう?今の話を雪丸にしないでどうやれってんだ」
庄右衛門にピシャリと言われ、牡丹は雪丸そっくりな気まずい顔でようやく口を開く。
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