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暴発
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「誰だ!」
男の声が響き渡り、女がこちらを振り向いた。
向こうからこちらは見えないはず。なのに、錯覚でも何でもなく、たしかに一瞬二人と視線がぶつかった。
男が素早い手つきで懐から何か黒光りするものを取り出し、その直後、風船が割れたような乾いた破裂音が轟き、僕の足元で金属音が跳ねる。
少し遅れて、左足に焼けるような痛みが知覚された。
「痛ッ……!」
突然の激痛に、僕は思わず悲鳴を上げ、左足を両手で押さえた。ロザリーにあれほど『声を出すな』と言われたにも関わらず。
痛む左足を見ると、制服のズボンの裂け目の下に、一筋の傷がついていた。男の放った銃弾が、僕の足を掠めていたらしい。
だがその直後、自分が置かれた最悪の状況に、僕は気付いてしまった。ロザリーから手を離してしまった僕は、ロザリーの力による光学迷彩が解けてしまったのだ。
顔を上げ、僕の視界が次に捉えたのは、銃を構えてこちらに駆け寄ってくる女の姿。再び乾いた銃声がして、女が放った銃弾が、今度は正確に僕の左足を撃ち抜いた。
「うがあああああっ!」
左足が千切れてしまいそうな激しい痛み。ロザリーの忠告を完全に忘れて、僕は絶叫した。僕の足を撃った女は、銃口をこちらに向けたまま、じっと僕を見下ろしている。
「どこから忍び込んだんだ、このガキ……!」
「おい! まだ殺すなよ、どこから来たのか、口を割らせてみてからだ」
女の背後から、最初に銃を撃った男がゆっくりとこちらに歩いてきた。
「モーリス、モーリス!」
ひどく狼狽えたロザリーの顔が視界いっぱいに広がる。彼女の顔はすぐ目の前にあって、もう少し首を伸ばせばキスができそうだな、と思った。
今はそんなこと考えるような状況じゃないってのに。痛みのせいでまともな思考ができなくなっているのかもしれない。僕はすぐに意識を奮い立たせ、そして、状況のさらなる悪化を知った。
ロザリーの顔が見えるってことは、彼女もまた、迷彩が解けているということじゃないか!
「う、うおっ、なんだこの女、突然現れたぞ!」
完全なステルス状態から忽然と姿を現したロザリーに、二人はひどく驚いた様子だったが、女の方はすぐに冷静さを取り戻した。
「この白い女、まさか……」
ロザリーは血だらけになった僕の足を見て、それから、床に転がった僕の体を膝の上に抱き上げる。痛みのせいか、あるいは出血のせいか、意識が少しずつ遠のいていく感覚があった。
遠ざかる僕の意識を繋ぎ止めようと、ロザリーは何度も何度も僕の名前を呼び、彼女の大きな瞳から零れた温かい雫がぽたぽたと顔に降ってくる。彼女の背後に立ち銃を構えている二人のテロリストに対して、それは完全に無防備な体勢だった。ロザリーの瞳の色は、これまでに見たことがないぐらい何種類もの色がグルグルとサイケデリックに渦を巻いていて、彼女の混乱ぶりを如実に表していた。
ロザリーはようやく顔を上げ、二人のテロリストを睨みつける。
「間違いない、この瞳の色……ロザリー・アルバローズだ!」
女が叫ぶ。
「なんだって……? 早く、早く殺せ! そいつは……!」
二人のテロリストが引き金に指をかける。
ロザリー、早く逃げて……。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
僕の意識が途絶える寸前、耳をつんざくようなロザリーの絶叫と共に、廃倉庫は一瞬にして炎に包まれた。
男の声が響き渡り、女がこちらを振り向いた。
向こうからこちらは見えないはず。なのに、錯覚でも何でもなく、たしかに一瞬二人と視線がぶつかった。
男が素早い手つきで懐から何か黒光りするものを取り出し、その直後、風船が割れたような乾いた破裂音が轟き、僕の足元で金属音が跳ねる。
少し遅れて、左足に焼けるような痛みが知覚された。
「痛ッ……!」
突然の激痛に、僕は思わず悲鳴を上げ、左足を両手で押さえた。ロザリーにあれほど『声を出すな』と言われたにも関わらず。
痛む左足を見ると、制服のズボンの裂け目の下に、一筋の傷がついていた。男の放った銃弾が、僕の足を掠めていたらしい。
だがその直後、自分が置かれた最悪の状況に、僕は気付いてしまった。ロザリーから手を離してしまった僕は、ロザリーの力による光学迷彩が解けてしまったのだ。
顔を上げ、僕の視界が次に捉えたのは、銃を構えてこちらに駆け寄ってくる女の姿。再び乾いた銃声がして、女が放った銃弾が、今度は正確に僕の左足を撃ち抜いた。
「うがあああああっ!」
左足が千切れてしまいそうな激しい痛み。ロザリーの忠告を完全に忘れて、僕は絶叫した。僕の足を撃った女は、銃口をこちらに向けたまま、じっと僕を見下ろしている。
「どこから忍び込んだんだ、このガキ……!」
「おい! まだ殺すなよ、どこから来たのか、口を割らせてみてからだ」
女の背後から、最初に銃を撃った男がゆっくりとこちらに歩いてきた。
「モーリス、モーリス!」
ひどく狼狽えたロザリーの顔が視界いっぱいに広がる。彼女の顔はすぐ目の前にあって、もう少し首を伸ばせばキスができそうだな、と思った。
今はそんなこと考えるような状況じゃないってのに。痛みのせいでまともな思考ができなくなっているのかもしれない。僕はすぐに意識を奮い立たせ、そして、状況のさらなる悪化を知った。
ロザリーの顔が見えるってことは、彼女もまた、迷彩が解けているということじゃないか!
「う、うおっ、なんだこの女、突然現れたぞ!」
完全なステルス状態から忽然と姿を現したロザリーに、二人はひどく驚いた様子だったが、女の方はすぐに冷静さを取り戻した。
「この白い女、まさか……」
ロザリーは血だらけになった僕の足を見て、それから、床に転がった僕の体を膝の上に抱き上げる。痛みのせいか、あるいは出血のせいか、意識が少しずつ遠のいていく感覚があった。
遠ざかる僕の意識を繋ぎ止めようと、ロザリーは何度も何度も僕の名前を呼び、彼女の大きな瞳から零れた温かい雫がぽたぽたと顔に降ってくる。彼女の背後に立ち銃を構えている二人のテロリストに対して、それは完全に無防備な体勢だった。ロザリーの瞳の色は、これまでに見たことがないぐらい何種類もの色がグルグルとサイケデリックに渦を巻いていて、彼女の混乱ぶりを如実に表していた。
ロザリーはようやく顔を上げ、二人のテロリストを睨みつける。
「間違いない、この瞳の色……ロザリー・アルバローズだ!」
女が叫ぶ。
「なんだって……? 早く、早く殺せ! そいつは……!」
二人のテロリストが引き金に指をかける。
ロザリー、早く逃げて……。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
僕の意識が途絶える寸前、耳をつんざくようなロザリーの絶叫と共に、廃倉庫は一瞬にして炎に包まれた。
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