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お迎え
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私は首を振って断った。
「いや。私はやめとくよ」
「へ? 何でよ、約束してたじゃん!」
「だってほら、思えば私不運体質だから、事故にでもあったら……」
「そんなの偶然じゃん。私は運転上手いしー」
「いや、あやめの運転が上手くても巻き込まれることも」
「大丈夫大丈夫! 行こうよ! 私もう楽しみにしてたんだよ、ほら隣の市にあるカフェ行ってみない? パフェ有名なやつ」
「いや……」
私は戸惑っておろおろとした。陽の気の事を話せたら楽なのにと思う。でもそんな非現実的な馬鹿げた話を出来るわけもない。出来たとしても、きっとあやめは笑って信じない。
どう断ればいいんだろう。
「はい決定ー。次の予定合うところ帰ったらメールしてねー。あ、やば、昼休み終わるじゃん食べないと」
あやめは一人で話を進めて笑いながら言った。彼女の豪快で細かい事を気にしない性格はとても好きだが、今回ばかりは裏目に出ている。
なんとなくはぐらかしていくしかないのかなぁ。私はそう考えながら卵焼きを食べた。
一日が終わり、デスクにあるパソコンの電源を落とす。あやめの言うように調子がいいのか、仕事はスムーズに進み残業はせずに済んだ。私は大きく伸びをする。さて、帰りますかね。
「沙希ー、帰りご飯食べて行かない?」
立ち上がって帰り支度をしているとき、あやめが言った。チラリと時計を見て一瞬ソウスケの顔がよぎった。いやでも、やつはご飯食べなくても大丈夫と言っていたか。あやめとご飯ぐらいいいか。彼女と仕事帰りに食事をするのはよくあることだった。
私は鞄を手に持ち頷く。
「いいね、ちょっと行く?」
「簡単に済むところ行くかー」
「お腹空いたなぁ」
私とあやめはそのまま歩き出した。周りの人たちにお疲れ様ですと頭を下げながら足を進めていく。
長い廊下を突き進んでエレベーターに乗る。丁度帰宅する人たちが多いからか、エレベーターは混んでいた。小声で会話を続ける。
「沙希何食べたい?」
「肉かな」
「いつもそれ言ってない?」
笑いながら二人でエレベーターを降りた。人混みに紛れながらガラス張りの正面玄関から出る。生ぬるい風が頬を掠った。外に出るとああ、今日も一日頑張ったんだなあと実感がわいて来る。解放感に顔の表情が緩んだ。
いい具合に減っているお腹と心の中で相談し、あやめに提案した。
「じゃあー丼でも」
そう言いかけた時だった。
「沙希」
背後から聞き覚えのある低い声が聞こえる。
私とあやめが同時に振り返る。そこには、相変わらず白いシャツと黒いパンツを履いたソウスケがいた。
彼は片手をポケットに入れ、気だるそうにそこに立っていた。風が吹いてその長めの黒髪を靡かせる。
「……え、ソウスケ?」
私は驚いて声に出す。家で待っているはずのソウスケがそこにいる。どうしてここに?
彼は無言で近寄る。唖然としている私の肩を力強く握ったのは、隣にいたあやめだった。その顔を見れば、ワナワナと震えそうなくらい驚愕の顔でソウスケを見ている。彼女はどもりながら私に尋ねた。
「ちょちょ、沙希? だ、誰あれ?」
「え? ……あーと」
「超絶イケメン発見。目の保養、寿命2年くらい延びたわ」
「あやめの寿命どういう仕組みなの?」
私が呆れて言ったところに、ソウスケが来る。彼はふうと息をつきながらいった。
「遅かったな」
「え? 仕事終わりはこんなもんだけど」
「暇で死ぬ。あと陽の気を貰えなく」
「あわわ! ご、ごめん暇だったね!」
あやめの前でも何も気にせず陽の気の事を言おうとしたソウスケを止める。変な発言しないでほしい、フォローするのが大変なんだから。
「いや。私はやめとくよ」
「へ? 何でよ、約束してたじゃん!」
「だってほら、思えば私不運体質だから、事故にでもあったら……」
「そんなの偶然じゃん。私は運転上手いしー」
「いや、あやめの運転が上手くても巻き込まれることも」
「大丈夫大丈夫! 行こうよ! 私もう楽しみにしてたんだよ、ほら隣の市にあるカフェ行ってみない? パフェ有名なやつ」
「いや……」
私は戸惑っておろおろとした。陽の気の事を話せたら楽なのにと思う。でもそんな非現実的な馬鹿げた話を出来るわけもない。出来たとしても、きっとあやめは笑って信じない。
どう断ればいいんだろう。
「はい決定ー。次の予定合うところ帰ったらメールしてねー。あ、やば、昼休み終わるじゃん食べないと」
あやめは一人で話を進めて笑いながら言った。彼女の豪快で細かい事を気にしない性格はとても好きだが、今回ばかりは裏目に出ている。
なんとなくはぐらかしていくしかないのかなぁ。私はそう考えながら卵焼きを食べた。
一日が終わり、デスクにあるパソコンの電源を落とす。あやめの言うように調子がいいのか、仕事はスムーズに進み残業はせずに済んだ。私は大きく伸びをする。さて、帰りますかね。
「沙希ー、帰りご飯食べて行かない?」
立ち上がって帰り支度をしているとき、あやめが言った。チラリと時計を見て一瞬ソウスケの顔がよぎった。いやでも、やつはご飯食べなくても大丈夫と言っていたか。あやめとご飯ぐらいいいか。彼女と仕事帰りに食事をするのはよくあることだった。
私は鞄を手に持ち頷く。
「いいね、ちょっと行く?」
「簡単に済むところ行くかー」
「お腹空いたなぁ」
私とあやめはそのまま歩き出した。周りの人たちにお疲れ様ですと頭を下げながら足を進めていく。
長い廊下を突き進んでエレベーターに乗る。丁度帰宅する人たちが多いからか、エレベーターは混んでいた。小声で会話を続ける。
「沙希何食べたい?」
「肉かな」
「いつもそれ言ってない?」
笑いながら二人でエレベーターを降りた。人混みに紛れながらガラス張りの正面玄関から出る。生ぬるい風が頬を掠った。外に出るとああ、今日も一日頑張ったんだなあと実感がわいて来る。解放感に顔の表情が緩んだ。
いい具合に減っているお腹と心の中で相談し、あやめに提案した。
「じゃあー丼でも」
そう言いかけた時だった。
「沙希」
背後から聞き覚えのある低い声が聞こえる。
私とあやめが同時に振り返る。そこには、相変わらず白いシャツと黒いパンツを履いたソウスケがいた。
彼は片手をポケットに入れ、気だるそうにそこに立っていた。風が吹いてその長めの黒髪を靡かせる。
「……え、ソウスケ?」
私は驚いて声に出す。家で待っているはずのソウスケがそこにいる。どうしてここに?
彼は無言で近寄る。唖然としている私の肩を力強く握ったのは、隣にいたあやめだった。その顔を見れば、ワナワナと震えそうなくらい驚愕の顔でソウスケを見ている。彼女はどもりながら私に尋ねた。
「ちょちょ、沙希? だ、誰あれ?」
「え? ……あーと」
「超絶イケメン発見。目の保養、寿命2年くらい延びたわ」
「あやめの寿命どういう仕組みなの?」
私が呆れて言ったところに、ソウスケが来る。彼はふうと息をつきながらいった。
「遅かったな」
「え? 仕事終わりはこんなもんだけど」
「暇で死ぬ。あと陽の気を貰えなく」
「あわわ! ご、ごめん暇だったね!」
あやめの前でも何も気にせず陽の気の事を言おうとしたソウスケを止める。変な発言しないでほしい、フォローするのが大変なんだから。
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