祓い屋と妖狐の契約夫婦~あやかしの妻はじめました~

橘しづき

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1巻

1-3

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 私が大きな声でそう言うと、二人の視線が少し泳いだことに気が付いた。どこか気まずそうな雰囲気にあれっと思うが、追及するより前におじさんが話を続けた。

「それで璃央ちゃんに、娘の居場所が分かりそうな、そういう力を持った知り合いはいないか聞こうと思って……君のお父さんは知り合いが多かったし」

 すがるような目で見られて、ぐっと言葉に詰まる。そうか、それで私を訪ねてきたのか。
 祓い屋以外にも特殊な仕事がこの世にはたくさんある。未来を見るだとか遠視をするだとか、そういった不思議な力を持つ人がいることは私も聞いていた。でも、うちの家と関わりがある人にはいない。父の知り合いは、みんな祓い屋ばかりだ。
 私は頭を下げる。

「すみません、うちとは職種が違うと言いますか……そういった能力を持っている知り合いには心当たりがなくて……」

 それを聞いて、二人はがっくりと肩を落とした。でもすぐに、おばさんはぎこちなくも笑みを見せる。

「そうよね。だって璃央ちゃんの家は祓い屋だもの、むしろ変なことを訊いてしまってごめんなさい」
「で、でも、友達として、私も志保を探します。幼い頃からずっとそばにいてくれた大事な親友だから……私にも協力させてください!」

 私がそう力強く言うと、二人は顔を見合わせた後、泣きそうな表情で頭を何度も下げた。

「ありがとう、ありがとう璃央ちゃん……」

 私なんかに出来ることは限られているだろう。でも、志保が何か事件に巻き込まれたかもしれないというのに、じっとなんてしていられない。出来る限りのことはやるんだ。
 穏やかで柔らかい笑顔の志保が目に浮かんだ。
 父を亡くしたのに、今度は親友までいなくなってしまうなんて絶対に嫌だ。
 どうか、無事でいてほしい。


 事件の詳細を話した後、おじさんとおばさんは帰って行った。志保の足取りをもう一度追ったり、他の友達にも話を聞きに行ったりするのだそう。
 私は聞いた話を紙に書いてまとめ、それを読み返しながらうなった。

「いなくなったのが二日前の夜……その日、きちんと学校には出勤していた。一旦帰宅して、その後何も言わずに家からいなくなっていた。最後に見た時刻は二十時頃で、それまで変わった様子もなかった、と……」

 ペンをテーブルの上に置いて眉間にしわを寄せる。
 志保を探そうと決意したはいいものの、どこから着手すればいいのだろうか。人探しなんて当然したことはない。

「行方不明の友人か。一体どうやって探すつもりなんだ?」
「それを今考えてる。一度家に帰ってまた出かけたらしいけど、一体どこに行ったんだか」
「しかも手ぶらだろう?」
「そうそう。女性が手ぶらで出かけるなんてあんまり……って、瑶! 一体いつからそこにいたの⁉」

 驚いて顔を上げると、瑶が隣に座って私が書いたメモを覗き込んでいた。綺麗な銀髪がサラリと揺れる。
 彼は私の質問には答えず、頬杖をついて呆れたように言う。

「祓い屋の仕事はしなくていいのか? 人探しは専門外だろう」
「こんな時に仕事なんてしていられるわけないじゃない。親友がいなくなったんだよ? たった一人の親友なんだよ……」
「一人しかいないのか? まあ、璃央は気が強くてがさつだから友達が少ないのは納得するが。数日見ていただけで分かる」
「瑶にだけは言われたくない」

 この狐、口が悪いしデリカシーはないし、絶対友達ゼロだ。間違いない。
 と、こんなくだらない口喧嘩くちげんかをしている場合ではない。私はメモを折り畳んでポケットにしまいながら立ち上がる。

「璃央、どこへ行く?」
「家の中にいたって何も分からないからね。志保の家の周りとか、勤務先の学校に行ってみようと思う。できれば誰かに話を聞いたりしたいし」
「そうか。では行くか」

 そう言って瑶が立ち上がったので、私はきょとんとして彼を見る。

「えっ、待って。行くかって、瑶もついてくるつもりなの?」
「面白そうだからな」
「面白くないんですけど? 深刻な状態なんですけど!」
「まあそう言うな。もしかしたら、私の力が必要になる場面があるかもしれない」
「絶対ないから!」

 私はきっぱり断るが、瑶はそれに構わずさっさと歩き出してしまう。本当についてくる気らしい。
 私は頭を抱えた。瑶が近くにいると、きっといろいろと話しかけられるだろう。あやかしである彼は基本的に人には見えないので、反応してしまうと独り言がヤバイ人間みたいになってしまう。そもそも、敵か味方か判断できないあやかしと行動を共にするなんて、よくない。

「瑶は他の人に見えないし、一緒に行動すると困るんだよ!」

 私が悲痛な声を上げると、彼は振り返って何でもないことのように言う。

「ならばこうしよう」

 瑶が人差し指をくるりと回すと、途端に彼の姿が変貌した。長い銀髪は肩くらいの黒髪になり、耳や尻尾は消え、着ていた着物が白いシャツと黒いパンツへと変わる。
 どう見ても普通の人間にしか見えない。

「狐は化けるのが得意だ」

 瑶は自慢げに笑ったが、私は初めて見る瑶の姿に驚きを隠せなかった。

「え、え……これ、本当に瑶なの? 凄い、人間みたい」
「人間に化けるくらいなら、力を失っていても出来る。他の人間にも見えるならいいだろう?」
「ま、まあそれなら……」

 まだ衝撃を受けた状態のまま、私は頷く。再び上から下まで眺めてみるが、その出来栄えにはうなるしかない。……というか、かっこいいな、くそう。
 どこかの俳優やモデルと言っても誰も疑わないレベルで、つい見惚れてしまった。それがなんだか悔しい。瑶なんて、中身はあんななのに。何を考えているのか分からないやつなのに!
 瑶はにやりと笑って私の顔を覗き込む。

「見惚れたか」
「は、はあ? そんなわけないでしょう!」
「まあ、それも当然だ。私は美しいからな」
「自分で言う? ファッションとかそういうのも違和感ないから、そこを凄いなって思っただけ」

 かっこいいと思ってしまったのを隠すために、私はあえて突き放すように言った。
 それなのに瑶は得意げに腰に手を当てる。

「当然だ。特に私の化ける力は一流だ。なぜなら、違和感なく化けるために定期的に人間の中で過ごすようにしているからな」
「そ、そうなの?」
「昔から人間に混ざって生活するのが面白いんだ。人間の世界は少し目を離した隙にとんでもない変化を遂げるから、興味深い。ほんの少し前は、お前のポケットに入っている小さな機械などなかったしな」

 瑶が私の右ポケットを指さした。そこにはスマホが入っている。彼はこれがない時代から、人間の生活をよく観察していたのだろう。私はスマホを取り出して瑶に見せながら尋ねる。

「使い方も知ってる?」
「さすがにそれは知らん。だが、何やら指で操作することと、多くの情報が入っていることは分かる」
「そっか。あやかしがスマホを触る機会はさすがにないか」
「というわけで、私は化けるのも一流、人間界についての知識も一流というわけだ。これで璃央についていっても問題ないな?」

 どや顔で言われれば、もう私は何も言い返せなかった。そもそも、きっと何を言われようがついてくるつもりなのだ。私は諦め、瑶の同伴を許可した。


 二人で家を出て、まずは志保が勤めていた高校を訪ねることにした。私は厳しい顔をしているが、隣の瑶はあくびをしながら散歩するかのように歩いているので、非常に気に障る。しかし、こんなやつの相手をして無駄な労力を使いたくないので何も言わなかった。
 志保は私の家から歩いて二十分ほどにある、北宮きたみや高校というところで働いている。まだ入ったばかりなので、今は担任を持たず副担任をしていると彼女から聞いたことがあった。近所にある高校なので私も評判ぐらいは耳にしているが、特に問題はない。
 偏差値もそこそこ高く、生徒は真面目な子が多い印象だし、教員がすぐに辞めてしまう、だなんて噂も聞いたことはない。志保も『同僚はいい人ばかりで、恵まれた環境だ』と言っていた。キラキラした顔で仕事について語る志保は楽しそうで、とても素敵だと思っていたのだが……
 車通りが少ない道をしばらく進んでいくと、高校の建物が見えてきた。隣で歩く瑶が話しかけてくる。

「あれが例の学校か。それで、学校に乗り込んで志保の話を聞き回るつもりか?」
「乗り込むって、そんな物騒な言い方しないで。話を聞かせてくれればいいけど、警察でもないし、急に訪問してそう簡単に中に入れるとも思えない。とりあえず、帰宅する生徒や先生らしき人を捕まえて話を聞こうと思ってる」
「ふうん」

 ポケットからスマホを取り出して見てみると、まだ時刻は十三時にもなっていない。この時間じゃ下校する生徒はまだいないだろう。授業が終わって下校するなら、十六時くらいだろうか。気持ちだけがはやって早く来すぎてしまった。

「しょうがないから、辺りの様子を見つつ下校時間まで待つしかないなあ」

 小さな声でそう言ってスマホをしまった時、少し離れたところからがやがやと賑やかな声が聞こえてくるのに気が付いた。顔を上げると、正門からたくさんの生徒が出てきていた。

「あれっ、もう下校⁉」

 私は慌てて正門に近づき、そばを歩いていた女子生徒に話しかける。

「あの、今日はもう学校終わりなんですか⁉」
「え? あ、はい……テスト期間中なので、お昼で終わりです」
「そっか!」

 ラッキーなことに、ちょうど下校時刻らしい。これなら生徒たちに話を聞きやすい。
 私は先ほどの女子生徒に続けて質問した。

「あの! 松井志保って先生知ってますか?」

 意気揚々と尋ねてみたものの、女子生徒は困ったように視線を泳がせた。そして小さな声で『分からないです……』とつぶやくと、そそくさといなくなってしまう。
 ぽかんとしてそれを見送る私に、瑶が馬鹿にしたように言った。

「見知らぬ女に急に話しかけられれば、不審に思うのは当然だろう」
「それもそうか……」
「お前、人間のくせに常識について鈍くないか? 私の方がよっぽど普通の感覚を持っているぞ」
「う、うるさいな。でも確かに、瑶に指摘されるのは人としてどうなんだろう、私……」
「今の人間は昔より、他人に対する警戒心が強い。適当に誰か捕まえて話を聞こうなど甘いぞ」

 狐の瑶に常識について説明されるなんて。でも、瑶の言う通りだったので素直に反省する。

「確かにね。無理やり動いて警察に通報されても困るしなあ……どうしたもんか」

 校門にちらりと目をやると、中からどんどんと生徒が出てくる。せっかく生徒がこんなにいるのに、誰にも話を聞けないのはもったいないんだけど……
 そう頭を悩ませている時、中に見覚えのある顔を見つけた。友人と思しき子と並んで校門から出てきた、ショートカットで日に焼けた肌をした活発そうな少女だ。

「あれっ、奈々子ななこちゃん? 奈々子ちゃんだ!」
「知り合いか?」
「うちの近所に住んでる子なの! そっか、奈々子ちゃんって北宮高校なんだね」

 彼女はうちの家から徒歩五分のところに住んでいるご近所さんで、今年高校一年生になったばかりの女の子だ。うちの家業のことも知っているが、ご両親とも偏見を持たず昔から接してくれる一家で、小さな頃は一緒に遊んでいた。中学生になった頃から疎遠気味になっていたが、それでも道端で会えば笑顔で挨拶あいさつをしてくれる。
 最近はほとんど会うこともなく、こうして顔を見るのも随分久しぶりだ。だから、奈々子ちゃんがどこの高校へ進学していたのかは知らなかった。

「奈々子ちゃーん!」

 私は手を振って名前を呼びながら駆け寄っていく。彼女はすぐに気が付き、驚いた顔でこちらを見た。

「璃央さん!」
「久しぶりだね!」
「どうしたんですか、こんなところで……えっ、あの、そちらの方は……?」

 私を見て顔をほころばせた奈々子ちゃんだったが、隣の瑶に気付いた途端、急にもじもじしだした。奈々子ちゃんの横にいるお友達は、目を輝かせて瑶を見ている。
 あれ、もしや二人ともこの外見に騙されている……?
 見れば、彼女たちだけではなく、周囲にいる生徒たちみんながそんな状態になっていた。ちらちらと熱い視線を瑶に送っている。だが当の本人は、慣れていますと言わんばかりに気にしていない様子だ。
 確かに瑶の顔の綺麗さは人間離れしている。見惚れる気持ちは分からないでもないが、中身は口の悪い性悪男だ。みんな騙されているぞ。

「えっと、この人は仕事関係の知り合いなの。急に声かけてごめんね、ちょっと聞きたいことがあって……松井志保って先生、知ってる?」
「あー知ってますよ。今年から入った先生ですよね? 隣のクラスの副担なんですよ。授業は受けてないけど、若くてのほほんとしてて可愛いから親しみやすくて、女子が結構話しかけてます」

 奈々子ちゃんは笑みを浮かべてそう教えてくれた。
 のほほんとして話しやすい、というのは私も同感で、志保は仕事中もあのままなんだな、となんだか嬉しくなる。生徒にも好感を持たれているらしい。

「そうそう、その先生。実は私の幼馴染で――」
「えー⁉ そうだったんですかー⁉」

 奈々子ちゃんは目を丸くして驚いた。表情豊かな子なのだ。
 すると彼女の隣にいたお友達が、奈々子ちゃんのスカートの裾を控えめに引っ張る。

「ねえ、松井先生って……」
「……あっ」

 奈々子ちゃんも何かを思い出したように、表情を固くした。

「璃央さん、松井先生は今学校を休んでて……もしかして藤枝ふじえだくんを個人的に探してるのかなって噂されてるんです。松井先生は凄く熱心な先生だったから。璃央さんも、藤枝くんのことを調べてるんですか?」

 突然知らない名前が飛び出したのでぽかんとしてしまった。藤枝くんを探している、ってどういうことだろう?
 すると、それまで黙っていた瑶が口を開いた。

「藤枝、とは誰のことだ?」
「え? もしかして知らないんですか? 二日前の夜から、松井先生のクラスの子が一人失踪してるんです」
「……え?」

 初めて知る事実に絶句した。
 副担任とその生徒が、同じ時期に失踪するとは一体どういうことなのだろう。そもそも、志保のご両親はこの話を知っていたんだろうか?
 ふと、そういえば二人は話の最中、どこか様子がおかしい時があったことを思い出す。もしや、知っていて私には言わなかったのだろうか。だとすれば、それはなぜだろう。

「璃央さんもそのことで来たんじゃないんですか?」
「あ、ええと私は……別件で、志保のことを聞きたくて……」
「そうだったんですか。昨日、担任が生徒たちに個別に話を聞いてて……藤枝くんと最後に会ったのはいつだとか、何か話を聞いてないか、だとか」

 つまり、藤枝くんの失踪に関しては多くの生徒が知っていることらしい。だが、どうやら志保までもいなくなったというのは伏せられているようだ。でも志保が学校に来ていないのは生徒たちも気付いているので、藤枝くんを探すために休んでいるのではないか、と噂になっているということか。
 藤枝くんだけではなく志保まで消えてしまったと知れば生徒たちが混乱するので、学校側が内緒にしているのだろう。今はテスト期間中だし、なるべく波風立てないようにと思ったのかもしれない。
 それにしても、二人同時にいなくなってしまったなんて……どういうことだろう。

「藤枝くんって子はどんな子なの?」
「藤枝くんは物静かで、あまり話さない子っていう印象でした。友達もそんなにいないみたいだし……でも、松井先生が話しかけているのをよく見ました。藤枝くんも信頼してたのか、松井先生には笑顔で返事をしたりして」

 奈々子ちゃんのお友達も頷いて口を開く。

「藤枝くんは頭いいから、勉強に関しても先生によく相談してたみたいです。でも、何か思い悩んでいそうっていう感じでした。具体的には知らないですけど……」

 二人は心配そうに顔を見合わせた。普段仲良くしてはいないようだけど、藤枝くんのことを気にかけているのは伝わってくる。いい子たちだな、と思いながら、私は微笑んで頷いた。

「なるほど。それで、志保も学校を休んで探してるんじゃないか、と」
「噂ですけどね。単に体調不良なのかもしれませんし」
「そっか……テスト期間中にごめんね。聞かせてくれてありがとう」
「いえ。じゃあ、私たちはこれで」

 二人は丁寧に頭を下げた後、最後まで瑶をちらちら見ながら去っていった。瑶がにこりと微笑み、軽く手を振ってみせると、二人はきゃあっと声を上げて恥ずかしそうに手を振り返していた。なんだこいつ、芸能人か。
 まあそんなことは放っておいて、私はうーんと考え込む。
 志保が失踪した原因を探りに来たのに、まさか他にも失踪者がいるとは。生徒たちは志保も失踪したとは知らないみたいだし、これ以上ここで話を聞いてもいい情報が得られるとは思えない。

「瑶、同時に二人もいなくなるなんて――」

 そう話しかけてすぐに口をつぐんだ。志保の失踪のことはみんな知らないのに、こんなところで話題に出すのはまずい。誰かが聞いていたら一気に噂が出回ってしまうだろう。

「えーと、瑶、こっち!」

 私は瑶を引っ張って、一旦人気ひとけのない場所へ移動した。生徒たちがいない細い道を進むと、小さなアパートのエントランス横に自動販売機があるのを見つけた。そこまでたどり着き、周りに人がいないことを確認した後、声のボリュームを抑えつつ話す。

「奈々子ちゃんに会えたのはラッキーだったよ。藤枝くんって子のことを知れたからね」
「教え子と同日に失踪という、とんでもない情報が出てきたな。偶然にしては出来すぎだろう」

 その点は私も気になっていたので、腕を組んで考えていたことを口にする。

「二人は一緒にいて、そこで何か事件に巻き込まれたりしたのかな? でも志保はいなくなった日、ちゃんと出勤して家に帰って、それからまた外出した。もし藤枝くんって子と一緒にいたとしたら、どうして学校の外で会う必要があったんだろう?」
「……もしかすると、志保の両親の態度がおかしかった答えがそこにあるかもしれないぞ」
「え? どういうこと?」

 きょとんとして聞き返すも、瑶は呆れた顔をするだけだ。

「……お前は本当に……まあいい。次はどうするんだ? 生徒に声を掛け続けたら変質者扱いされるぞ」
「うん、生徒に声を掛けるのはやめとく。志保が失踪したことを広めたくないし、有益な情報もないと思うし……やっぱりここは、学校の先生に聞くのが一番かと」

 私はぐっと拳に力を入れて意気込む。

「それで、乗り込むのか?」
「お願いしに行くの! 志保の友達だって名乗って、何か少しでも情報をくださいって頭を下げる。断られても粘る! 校門の前に居座る!」
「居座るとは……」
「だって、それくらいしか今は出来ることが思い浮かばないんだもん……志保と、同時にいなくなった藤枝くんを何とか見つけたい。私にできることはどんな小さなことでもやりたいの」

 そう力強く言った私を、瑶がじっと見つめる。あまりにまっすぐ見つめてくるものだからなんだか気まずくなり、私はカバンから財布を取り出して自動販売機の方を向いた。

「喉を潤してから行こうと思う。瑶、何が飲みたい?」
「私に?」

 驚いたように目を丸くした瑶が、人差し指で自分をさしている。

「勘違いしないで。あなたのことを信頼するとか、あの突拍子もない結婚話に前向きになったとかじゃないの。最初、知らない子に話しかけた私を注意してくれたから。確かによくなかったよなって反省したの。あのままだったら騒ぎになってたかもしれないし、そのお礼」
「……律儀だな。何もしていないんだが」
「借りを作るのは嫌なの」

 きっぱりそう言うと、何が面白かったのか瑶が小さく笑った。

「じゃあ油揚げ」
「いや、自動販売機にあるかい! ていうか、狐が油揚げ好きってホントだったんだ……」
「なんでも食べるけどな」

 そんなくだらない会話をしながら、結局二本お茶を購入した私は、また他の情報を得るために再度学校へと戻っていった。


 帰宅する生徒たちの流れに逆らい、正門から恐る恐る中に足を踏み入れてみる。正門すぐ横には守衛室があり、中に七十歳くらいの男性がいた。椅子に座り何やらプリントを読んでいる。
 私は緊張しつつ声を掛けた。

「あの、すみません」
「はい、何か?」
「私、神代璃央と申します。ここに勤めている松井志保先生について、どなたかにお話を伺いたいのですが……」
「はあ? 話?」

 守衛さんが一気に怪訝そうな表情に変化したが、私は構わず話を続ける。

「私、松井先生の友人なんです。その、松井先生について話を聞きたいって職員の方に伝えていただいたら分かると思います。お願いします、ほんの五分だけでいいので、松井先生と親しい先生からお話を伺えませんか? どうか!」

 私は手を合わせて必死に頼み込む。守衛さんは困った顔をして、その場でどこかに電話を掛けた。職員の誰かに確認してくれるのだろうと思い、私はその光景を祈りながら見守る。
 ほんの数十秒電話をした守衛さんは、すぐに電話を切った。その表情からして、いい返事ではないことがすぐに分かった。

「いやあ、事前のアポイントなしだと厳しいですね」
「そ、そこを何とか……」
「私にはどうにも。申し訳ありませんが、お引き取りください」

 その対応は想定内ではあった。いくら志保の友達だからといって、こんな部外者を招き入れて話を聞かせてくれるほど甘くはないだろうと。とはいえ、こちらもそう簡単に引き下がるわけにはいかないのだ。志保が今もどこかで、誰かの助けを待っているかもしれない。

「お願いします! もう一度電話で確認していただけませんか? 話を聞かせてくれるまで帰らないって伝えてください!」
「い、いや、あなたねえ……」
「大事な、唯一の友達なんです!」
「そう言われても無理無理。今はテスト期間中で先生たちも忙しいし、絶対に入れないから諦めて」
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