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月曜の朝
しおりを挟む月曜日が訪れる。
私は普段通りスーツを身にまとって準備をした。やや体がだるいが風邪などではないだろう。
朝、隣で寝る成瀬さんはひどく寝起きが悪かった。彼が設定したアラームのスヌーズ機能が五分ごとに鳴るので、呆れて直接起こしに行った。酷く目ざめが悪い。揺すっても叩いても繰り返される『あと五分』と格闘する。ギリギリになってようやく寝ぼけ眼で起き上がった彼は、面倒臭そうに準備をした。
それがたった十五分もあれば、普段の仕事モードに切り替わるから大したものだ。髪をセットし毛玉のついたスウェットを着替えれば、びしっとイケメンがそこに登場する。華麗な変身マジックか、と突っ込みたくなるぐらいだった。
二人でマンションをようやく出る。なんだかムズムズした。朝、同じ家から出発する、それだけで特別な始まりだと思う。成瀬さんと並んで通勤する日がくるとは思わなかった。
電車に揺られ、会社までたどり着く。私たちがそのまま目指したのは、普段共に働いているオフィスではなかった。そのままある会議室へ向かった。
成瀬さん曰く、ここで全て片付ける、とのことだった。下準備は終えているらしい。
閑散とした会議室は広さもあり、デスクがいくつも並んでいた。無人のそこへ行くと、成瀬さんは鞄から何やら多くの紙の束を取り出す。私はじっとそばで、それを見守っていた。
ドキドキする。
痛む心臓を抑えるように胸に手を当てた。そんな私に気が付いたのか、成瀬さんが振り返る。そして頼もしい声で言った。
「大丈夫、佐伯さんは俺のそばで見ててね」
「……はい」
安心感を覚える。ああ、きっと大丈夫、成瀬さんを信じて入ればすぐに終わるに違いない。
二人でしばらく待っていると、突然会議室の扉が開いた。びくっと体を跳ねさせたが、立っていたのは中年の男性だった。
「おーお待たせして申し訳ない」
「おはようございます、佐川部長」
「もう少ししたら来ると思うよ」
ややお腹の出た男性は佐川部長、私たち……ではなく、大和の上司だ。私は頭を下げて挨拶をする。
「おはようございます」
「ああ、君か。いやいや、今からもう一度詳しく話は聞くつもりだが、本当なら大変だったね」
労わりの言葉をくれる相手にほっとした。優しそうに下がった目じり、気のよさそうな笑い顔。いい人そうだなと直感的に思ったのだ。
佐川部長は近くにあった一つの席に腰かけた。腕を組んで渋い顔をする。
「正直富田さんは明るくて人の中心にいるようなタイプだから、成瀬さんから連絡を貰った時は驚いた」
「休みの日に連絡してしまい申し訳ありませんでした」
「いやいや、構わないよ急ぐことだからね」
「はい、今回の言動はあまりに大きな問題だったので、僕一人の力ではなんとも」
そう成瀬さんが言いかけたとき、ノックの音がした。三人の視線が一気に扉に集まる。そして開かれたそこに立っていたのは、やはりというか大和だった。佐川部長が呼び出してくれたのだ。
大和は私たちを見ると驚きで少し後ずさった。だがすぐに姿勢を正し、中へ入ってくる。私と成瀬さんを見、じっと不快な視線をぶつけてくる。
「おはようございます」
「あー呼び出して悪いね、まあそこ座って」
大和は佐川部長の正面にある席に腰かけた。変わった顔ぶれに、彼はややおどつきながら、ちらちらと私の方を見ている。佐川部長が笑顔で言った。
「一緒に聞いてほしい話がある」
「はい?」
「君がうちの社員の一人である、佐伯さんに迷惑行為をしているという件で」
分かりやすく大和の顔が青くなった。すかさず成瀬さんが近づき、にこやかに笑いかける。
「お話するのは初めてですね? 富田大和さん、成瀬慶一と言います」
余裕綽々な成瀬さんを見上げながら、大和はごくりと唾を飲み込んで返事を返した。
「ああ、どうも。名前は存じ上げています、でもあなたがなぜここに」
「彼女と現在お付き合いをさせてもらってるので、やはりここは僕も同席したいと思いまして」
「はあ!?」
大和がひっくり返った声で言った。そんなに信じられない組み合わせだろうか、と苦笑する。まあ確かに、私だって成就するとは思ってなかったけどさ……。
「いや待ってください、なんであなたが志乃と? そんなわけ」
「あるんですよ。僕はずっと彼女に片思いしてたので」
「……はあ?」
「時間が勿体ないので簡潔に行きます。
あなたが佐伯さんに行っているストーカー行為、即刻やめてください」
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