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第02章 エンドーサ王国編

01 緑の国エンドーサ王国

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 ノイシュタット王国を出てから一週間。蓮太はのんびりと街道を歩き東へと向かっていた。だがこの街道はお世辞にも街道と呼べるほど整ったものではなかった。

「馬車がこれ以上進めないと言い引き返したのが三日前……。ちょっと自然豊か過ぎるんじゃね?」

 先ほどから魔物の反応がヤバい。全方位に少なからず魔物の反応がある。もしかすると、この国は自然豊かなのではなく、手付かずなのかもしれない。

「国王も仲が良いならこの街道くらいなんとかしてやったら良いのに。これじゃあ取引もままならないんじゃないか?」

 そうは思うがここは異世界だ。蓮太のように容量はないがアイテムボックスのスキルを持つ者がいても不思議ではないし、魔法で重さを変えられるのかもしれない。一概に道が悪いからと言ってその国が発展していないとは言いきれないのがこの世界だ。

「さて、こっからどうすっかな。町を目指すか、湖で一人のんびり暮らすか……」

 蓮太は歩きながらどうするか迷っていた。そして迷った結果、ひとまず人里に行き、この国がどんな国か知る事を選んだ。

「街道からは外れるけど、ここから北に生命反応が固まってる場所があるみたいだな。とりあえずそこ目指すか」

 そう考え、蓮太は街道から森へと入った。

「っと、ほいっ」
《ガァァァァァ……》
「もう一丁っ!」
《ギギィィィィッ!?》

 森に入った途端に木の魔物に襲われた。他にも猿の魔物や蜘蛛、ムカデ、蛇と物凄くバラエティーに富んだ森だ。

「おいおい、やってらんねーぞ。こんな危険な森で暮らしてる奴らは化け物か? 普通の冒険者ならとっくに死んでんぞ!?」

 さらに進むと狼から熊、巨大猪とまさに魔物の宝庫と言わんばかりの種類に襲われ続けた。

「……俺はまた間違った選択をしちまったのかもしれねぇなぁ」
「何を言ってるのだこの人間は」
「ぶつぶつ言ってないでさっさと歩け!」
「へいへい……」

 極めつけは魔物ではなく、亜人。鑑定した結果、今蓮太を捕縛している種族は【ハイエルフ】と判明した。ハイエルフと言えば森の守人だ。自然を愛し、森を破壊する者を敵対視する種族である。そんな種族の住む里に蓮太は知らず知らずの内に近付いていたらしい。

「お……おぉぉ……ツリーハウスか! すっげぇ~……」
「おい止まるな人間。キリキリ歩け」
「あの、俺は何で捕まったんですかね?」
「何故だと? 理由はお前が人間だからだ。それ以外に捕まえた理由などない」

 暴論もいい所だ。蓮太はただ人間だという理由だけで捕まってしまったらしい。

 里に入ると頭上からいくつもの視線を感じた。どうやらかなり警戒されているらしい。

「よし、着いたぞ。この中に入れ」
「ここは?」
「見たらわかるだろう。牢屋だ。これから長に話しお前の処遇を決める。長く生きたかったらこの中で大人しくしてるんだな」
「おわっ!? ってぇ~……」

 蓮太は背中を蹴られ牢屋に入れられた。もちろん口では痛いと言ったが全く効いてはいない。ここは一つ様子を見るべきだと判断し、力を隠し、今は大人しく従う事にした。

 蓮太は奥にあった藁の山に寝転び処遇が決まるのを待った。

 それからしばらくし、森は夜を迎えた。

「おい起きろ」
「ん?」

 目を覚まし外を見ると、檻の向こうに蓮太を連行してきたエルフの女が立っていた。

「処遇決まったのか?」
「いや、飯の時間だ。最後の晩餐になるかもしれんからな。よ~く味わうと良い」
「はいはい」

 檻が開き木の食器に入った食事が床に置かれた。

「これ……何の肉?」
「森兎の肉だ」
「このミルクは?」
「ただのミルクだ」
「なんだそりゃ」

 蓮太は器を持ちミルクを一口口に含んだ。

「……懐かしい味……って! これ母乳じゃね!? 何考えてんだ!?」
「はぁ? 森で暮らしてたら栄養が偏るではないか。母乳は栄養の塊だ、飲んで当たり前だろう」
「ったく。誰の母乳だこれ。知らない奴の母乳なんぞ飲めるかよ」
「私のだ。搾りたてだぞ」
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 蓮太は噴いた。

「何をするか! 勿体ないっ!」
「お、おおおお前の母乳だと!? しかも搾りたて!? 何考えてんだ!?」
「はぁ? お前こそ何を言って──ああ、そうか。わかったぞ? 直接飲みたいならそう言え。ほら」
「は、はぁっ!?」

 エルフの女が胸を出しながら牢屋の中に入ってきた。

「ほら、どうした。飲みたいのだろう?」
「誰がそんな事言ったよ!? 大体母乳ってのは赤ん坊が飲むもので、大人が飲むもんじゃね──」

 しばらくお待ち下さい。 

「堪能したか?」
「……御馳走様でした」
「うむ。腹が膨れたら休むんだな。お前の処遇は明日決まる。言っておくが逃げようなどとは思わない方が良いぞ。お前は監視下にあるからな。牢屋から出た瞬間に蜂の巣だ」
「……はい」
「ふっ、ずいぶん大人しくなったな。母乳を飲んで大人しくなるなど赤ん坊同然だな。ははははっ」

 そう笑い、エルフの女は去っていった。

「こんな状態で歩けるかっつーの。……何なんだここは。あれがエルフの常識なのか? ったく……天国か」

 そうしてムラムラしたまま夜を明かし、翌日朝。再びエルフの女がやってきた。

「出ろ人間、お前の処遇が決まった。これから私と長の所に向かう。黙ってついてくるのだ」
「お、おう」

 どうにも照れ臭く、蓮太はエルフの顔をまともに見られなかった。常識は少しアレだがさすがはエルフと言った所だ。見た目は美しく、スタイルも抜群だ。胸以外は。

「なんだ、私の胸を見て……ああ、腹が減っているのか? 仕方ないな。来い」
「ちょ──」

 しばらくお待ち下さい。

「満足したか?」
「……はい」
「そうか。ならば行くぞ。ついて来い」
「い、いや……。ちょっと待って……」
「これ以上長を待たせ──おい人間」
「……はい」
「仕方のない奴だな。すぐに済ませろ」
「へ?」

 もうしばらくお待ち下さい。

「もう良いか? だいぶ長を立たせているからな」
「あ、はい。行きましょう」
「……ふっ。素直になったようだな。さあ行くぞ」

 何があったかは想像に任せる。腹も身体も満たされた蓮太はエルフに腕を引かれツリーハウスの一番上にある家の中に通された。その家の奥に白髪の若く見えるエルフが一人と、小さなエルフ二人が座っていた。

 蓮太はエルフの女にその場で座るように促され、床に腰を下ろした。そして蓮太が座ると、白髪のエルフが口を開いた。

「先ずは問う。人間よ、何の目的でこの里に近付いた」
「えっと……道に迷って」
「嘘はいらん。お主は森に入り真っ直ぐこの里を目指し近付いてきていたと報告があった。もう一度だけ問う。人間よ、何が目的だ」

 蓮太はその問い掛けに正直に答えた。

「ふむ。街道から一番近い人里がここにあると知り、森に入ったと」
「はい。まさかエルフが住んでいるなんて知らなくて」
「しかしな、何も森に入らずとも街道を行けば人間の町に着いたはずだ」 
「え~っとですね……。俺あんまり人間と関わりたくなくて。できたら湖畔とかでのんびり独り暮らしできたらなぁ~って……」
「ほ~う。人間なのに人間と関わりたくないときたか。【リージュ】よ」
「はい」

 白髪のエルフは蓮太を連行してきたエルフに話し掛けた。どうやら名前はリージュと言うらしい。

「そ奴はお主の母乳を飲んだのだな?」
「はい、嬉々として」
「おほぉぉぉぉいっ!? 喜んでねぇよ!?」
「ふむ。人間なら絶対に飲もうとしないエルフの母乳を嬉々として飲んだのか」
「は、はい?」

 白髪のエルフは蓮太に言った。

「人間はエルフを毛嫌いしておる。それこそ魔物と同等の扱いだ。そのエルフの母乳など人間は死んでも飲まぬ。お主はどうやらだいぶ変わった人間のようだな」
「長、それに加え実は──」

 リージュの口から先ほどの失態が飛び出した。  

「はははははっ、誠か? はははははっ」
「いっそ殺して……」

 行為の全てを赤裸々に語られた蓮太は恥ずかしさで死にそうだった。

「なるほどなぁ。本来ならば処刑だが、妾はその人間が気に入ったぞ。リージュよ、その人間はお前にやる。煮るなり焼くなり好きにすると良い」
「畏まりました」
「へ?」

 リージュは深く頭を下げ立ち上がった。そして蓮太に向かい手を伸ばした。

「行くぞ人間。今からお前は私の物だ。精々こき使ってやるから私に尽くせ」
「な、なんだって? 俺に決定権は?」
「あるわけないだろう。ここはエルフの地だ。全ての事柄はエルフが決める。ほら行くぞ人間」
「えぇぇぇ……マジかよ」

 こうしてエルフの森へと迷いこんだ蓮太は処刑をまぬがれたが、一人のエルフの所有物になってしまったのだった。
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