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第02章 エンドーサ王国編

13 改築

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 商業ギルドでの契約を終えた蓮太はまず購入した物件に向かった。場所は普段泊まっていた宿の隣なので特に迷う事なく辿り着けた。

「宿屋の隣に雑貨屋はなぁ……。普通酒場とかじゃん? ま、とにかくまずは中を確認してみないとな。えっと……鍵、鍵……」

 いつから空き店舗になっていたかはわからないが、扉を開き中に入ると以外に綺麗にされてあった。多少埃はあるが、前の主人が大切に扱っていた雰囲気がうかがえる。

「なるほど。なかなか良い物件じゃないか。立地は最高だし、二階は居住エリアになってるみたいだ。これで宿代かからなくなるな」

 ガランとした一階を一通り確認した後二階に上がった。二階には部屋が二つあり、一つは寝室、もう一つは倉庫になっていたようだ。

「ふむふむ、悪くない悪くない。ってかめちゃくちゃ良い買い物したな! もう冒険とか王とか放り出してここでのんびり店主でもやろうかな」

 割と本気のトーンだった。

「エルフも獣人も可哀想だとは思うけどなぁ……。あいつら割とガチで俺の事襲いにくるし。おちおち熟睡もできないんだよな。まぁ贅沢な悩みだと思うのはDTだけだよな」
 
 ひとまず窓を開け空気の入れ替えに取り掛かった。

「え?」
「へ? き、きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!! 覗き魔ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おわぁぁぁぁぁっ!? わ、悪いっ! いたっ、こらっ! 物投げんなっ!」

 寝室の窓を開いた先は宿屋の部屋だった。その部屋には当然客がおり、その客は濡れタオルで身体を拭いていたのだ。窓くらい閉めろと言いたい。客は素っ裸のまま手当たり次第物を投げてきた。なので激しく揺れていた。

「悪かったって! でもあんただって悪いだろっ! 窓くらい閉めて拭けよっ」
「覗き魔に説教なんてされたくないわっ! 私の裸がっつり見た癖にっ!」
「そりゃ見たけど……ってか今も丸見えだけど」
「へ、へへへへ変態っ! とっちめてやるっ! 今行くから逃げるんじゃないわよっ!」
「はぁ?」

 しばらくし、服を着た女が部屋に乗り込んできた。

「ふん、逃げずに待ってるなんて良い度胸じゃない」
「だから、見たけど窓を開けっ放しにしてたあんたも悪いだろ」
「昨日まで誰もいなかったもん!」
「ここ買ったの今日だからな。ってかどっちも悪いんだからもう良くない? 忙しいから帰ってくんないかな」
「はぁ? 私の裸見た癖に何その態度。訴えるわよ」
「ウザ……。じゃあどうしろっての? 土下座して謝れば良いの?」
「見た記憶消しなさいよ。そうねぇ、そこの柱にでも思いっきり頭ぶつけて」
「ふざけんなよっ!? 終いにはキレるぞ!?」

 蓮太は案外気が短い。

「ふんっ、何? 今度は暴力? やれるもんならやってみなさいよ。本当に訴えてやるんだから」
「……ブチッ」

 二時間後。

「う……あ……」
「ふんっ、反省したかよ」
「ひど……い……。初めてだったのに……」
「これに懲りたら相手みて喧嘩売るんだな」
「うっうっ……。汚されたぁ……っ、あんたなんかお父様に頼んで処刑してやるんだからぁっ!」
「あん? パパ助けて~だ? ははははっ、やれるもんならやってみろよ。俺ぁ強ぇゾ?」

 数日後、店舗の改装を終えた店の中に騎士達が乗り込んできた。

「いたぞっ! あいつだっ!」
「あ~ん? な、なんだっ!?」
「お前には不敬罪の嫌疑がかかっている。大人しく城まで連行されたし。従わぬ場合はこの場で処す」
「不敬罪だぁ? 待て待て! 俺は王の面すら知らねぇっての!」
「王ではない。貴様が不敬を働いた相手は第二王女様だ。引っ捕らえろ!」
「た、第二王女!? ま、まさかアイツが!? あ、こらっ! 離せこらぁっ!」
「逆らえば斬るぞっ!」

 この程度一瞬で片をつけられるが、逆らった時点で蓮太は真のお尋ね者になってしまう。ここは仕方なく従う事にした。

「キリキリ歩け、王がお待ちだ」
「うっせぇバーロー」

 蓮太は両手首を縄で縛られ城へと連行された。そしてそのまま城内を引きずられ謁見の間に連行された。

「失礼します! 第二王女様に暴行をはたらいた輩を連行して参りました!」
「うむ、そこに座らせよ」
「はっ! 跪けっ」
「いった!?」

 膝の裏を蹴られ無理矢理座らされ頭を押さえつけられた。

「ふんっ、良い様ねぇ~」
「おまっ!? 裸見られたくらいでここまですんのかっ!」
「もっと酷い事散々したわよねっ!? 切り落とすわよっ!?」
「……静まれっ、バカ娘が!」
「お父様っ!?」

 騒ぐ第二王女を静かにさせ、王は蓮太を見た。

「……お主、名は?」
「レンタ・シヴァー。ノイシュタット王国の貴族でーす。ちなにノイシュタット王国を救ったのは俺で、国内で暗躍していたバハロス帝国の奴らを捕まえさせたのも俺でしたー」
「な、なんとっ! お主があのレンタ・シヴァーじゃったのか! す、すまぬっ! おいっ、今すぐ縄を解いて差し上げるのだっ!」
「ちょっ、お父様!?」
「うるさいバカ娘がっ! むしろ喜ばんかっ! あの方はワシの友であるノイシュタット王の恩人じゃっ!」
「えぇぇぇ……」

 騎士達は慌てて蓮太の拘束を解除し謝罪した。そしてそそくさと謁見の間を出て行った。蓮太は立ち上がり縛られた跡が残る手首を擦った。

「いやぁ……酷い事してくれますね」
「すまぬっ! 悪いのは全てこのバカ娘じゃっ! 知らぬとはいえレンタ殿にとんでもない事を……っ!」
「ちょっと、お父様? なんなのあの男。何でそんな謝ってるのよ! 被害者は私なのよ!?」
「バカ者っ! お前は知らぬのかっ!? レンタ殿はノイシュタットを守るために一人でヴェスチナ王国と戦い打ち負かした英雄じゃっ!」
「はぁっ!? あんな男が? 嘘でしょ!?」

 そこで蓮太は手のひらに火を起こしてこう言った。

「なんなら見せてやろうか? 一瞬で城を更地に変えて見せるが」
「ぬぅはぁぁぁぁっ!? や、やめてくれぃっ! バカ娘なら好きにして構わぬからっ!」
「ちょっと! 私を盾にしないでよっ!?」

 蓮太は手を握り火を消した。

「冗談ですよ。ノイシュタット王からもよろしく言われてますし、そんな真似はしませんよ」
「ほっ……。す、すまぬ。して、レンタ殿。話はまだこのバカ娘からしか聞いておらぬので本当の所を知りたいのじゃが……」
「ああ……なるほど。では……」

 蓮太はありのままを王に話した。不幸な事故から始まり、いちゃもんをつけられ、最後にはキレてしまったと正直に語った。

「なるほどのう……。悪いのはお前じゃないかこのバカ娘がっ!」
「なんでっ!?」
「どうせまた町に出て遊んでおったのじゃろうがっ! レンタ殿は掃除をしようとしただけじゃろうが! しかも柱に頭をぶつけろじゃと? お前が床に頭を擦りつけんかっ!」
「私悪くないもんっ! それに……、無理矢理汚されたのよっ!?」
「むしろそれで済んで良かったと思わぬかっ! レンタ殿が本気で怒ったらエンドーサは地図から消えてしまうのじゃぞっ!」

 どうにも親子喧嘩が止まらない。いい加減帰りたくなってきた蓮太は二人に声を掛けた。

「あの~、俺そろそろ帰っても良いかな?」
「はっ! お、お待ち下さい、レンタ殿っ!」
「なに? まだ何かあるの?」
「い、いえっ! 今回の事で御迷惑をおかけしたお詫びに……このバカ娘をレンタ殿の所で罪滅ぼしさせようかと」
「は、はぁっ!? 嘘でしょ、お父様っ!?」
「いや、いらないんだけどそれ」
「それって何よっ!? あ、あんなに激しくした癖にっ!」

 第二王女は思い出したのか顔を真っ赤にして恥じらっていた。

「ま、まぁまぁ。このバカ娘は貰い手もなく、城におってもロクな事をせんので……。そちらで引き取ってはもらえぬでしょうか」
「えぇぇ……、足手まといにしかならなそう……」
「誰が足手まといよっ!?」
「そう言わずにっ! 雑用でも夜の相手にでも何でも使ってくれて構わぬからっ!」
「よ、夜の相手って……! い、嫌……よ?」

 蓮太は思った。

(めちゃくちゃ期待してるような目で見られてるな。なんだあのアホは……)

 王はどうにかして蓮太との繋がりを持っておきたいといった所だろう。それが今の所全く必要ではない第二王女の身一つで叶うものであるから、とにかく必死だった。バハロス帝国も今は大人しくしているが、侵略を諦めたわけではない。

「頼む、レンタ殿……」
「……わかりました。んじゃ雑用として雇わせてもらいますよ」
「お、おぉぉぉ! 雑用結構! ほれ、早く支度してくるのじゃっ! ワシが良いと言うまで帰ってくるでないぞ!」
「そ、そんなぁ~……。わ、わかりましたわ……ちらちら……」

 この先を考え、頭が痛くなる蓮太だった。
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