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そういえば子どもの頃から。

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 アルト様が、まるで負傷なんて感じさせないかのように、音もなく一人の見張りを倒した。

 ……強い。

 そして、一振りの剣を見張りから奪い手に入れた瞬間、爽やかすぎる笑顔で私の方を振り返った。

「セリーヌには、指一本触れさせないから」

 この場にはそぐわない笑顔を見た瞬間、私は理解する。

 アルト・レイウィルは怒っている。

 それも、猛烈に。

 この笑顔を最初に見たのは、いつのことだったろうか。

 そう、あれは幼い頃、私のことを貴族の子息が悪し様に言った時のことだった。

 まさか本人に聞かれているとは思わなかったのだろう。
 だが、彼の不幸は私に聞かれてしまったことではなく、その場にアルト様がいたことだった。

 今と同じような爽やかな笑顔のままに相手を完膚なきまでに叩き伏せてしまった幼馴染は、一週間の自宅謹慎になった。

 ーーーーこの笑顔をまた拝見することになるとは。

 記憶が戻ってからは、初めて見る。

 でも、矛先が私に向けられることはないと信じているから、怖くないけれど。

 というより、幼馴染がこんなふうに怒る時は、たいてい私が絡んでいた。

 そんなことを思っていると、アルト様は、まるで剣を手に馴染ませるかのようにブンブンと強く振りはじめた。

 あれ? 右腕の負傷どうしたんですか? 軽々剣を奮っているように見えますが。

「あのっ、アルト様? 無茶して腕が使えなくなりでもしたら」

「痛くない」

「えぇ……」

「本当に。剣に誓う」

 剣に誓うって、騎士の最上位の誓いですよね。そんな簡単に使ってはダメです!

「セリーヌのためなら、何度でも誓うよ」

 黒い瞳が細められる。そして、アルト様が振り返った直後には、もう一人、見張りが倒れていた。

 数が多い。両公爵家を敵に回すなんて、どれだけの下準備をしているのだろう。しかも、ここは王宮だ。

 ……高位貴族。

 乙女ゲームでは、黒幕について詳しく語られなかった。物語のメインは、あくまで攻略対象者との恋物語なのだから。

 でも、ここは現実だ。

「何に換えても、セリーヌを守ることだけは約束する。お願いだから、無茶せず後ろで守られていてくれるかな?」

 ーーーーアルト様がどう思っているかわかりませんが、私はか弱い貴族令嬢ですよ。?

 たしかに、アルト様が悪し様に言われた時に、相手の男の子と取っ組み合いの大喧嘩をしたという記憶は残っていますが。

 あのあと、悪役令嬢セリーヌも二週間の自宅謹慎になった。

「……無理しませんか?」

「……無理ぐらいさせてほしい」

 十人の令嬢が十人とも頬を染めて見惚れてしまうであろう笑顔。やっぱり、爽やかすぎるその表情は、緊迫感あふれるこの場面にはそぐわない。

 いつも穏やかな幼馴染は時々とても頑固だ。

 そしてこうなった時には、誰にも止めることが出来ない。

 走り出した幼馴染に着いていこうとした瞬間、なぜか幼い頃に後ろにくっついて走っていた幼い頃の思い出が鮮やかに甦って、そして消えていった。
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