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そのあと。ご機嫌聖女

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 ***

「ふふふ~んっ」

 クルクル回るミシェルの後を追いかけてくるような、ストロベリーブロンドの髪。そして、回るたびにふんわりと広がる可愛らしいフリルで彩られた、淡い水色のドレス。

 ボタンが前についていて、リボンも前で結ぶデザインだ。自分一人でできることが、こんなに素晴らしいなんて、いつも一人で全てこなしていたミシェルは、知らなかった。

「見てください! 自分で着脱できるの!」
「……よかったな?」

 そう言いながら、ほんの少し、シグルが残念そうな表情をした気がするが、ここでそのことに気がついているのは、カルラだけだ。
 シグル本人ですら、そんなことを自覚していないだろう。

「さすが、カルラさん。センスいいですね!」
「えっ?! ええ……」

 曖昧な返事、微妙すぎる表情のカルラ。
 いつも戦場で背中を預けていた、尊敬する強面長身騎士団ルシェロの選んだドレスなのだと、言ってもいいものなのだろうか。

「ふ、ふふ」
「え? どうしたんですか、カルラさん」

 強面の騎士団長が、可愛らしい乙女向けの店に入っていく姿を見ていたカルラ。
 真面目な顔で、ミシェルのイメージを伝える姿は、なかなか見応えがあった。

 ……精霊王も、お喜びになっていた。

「うん? このドレス」

 シグルの雰囲気が、急に冷たいものになる。珍しい。シグルが、感情を表に出すなんて。

「……王立騎士団長」
「え? まさか。あの真面目で、真っ直ぐで、融通が効かないルシェロ様が」
「ああ。そうだな」

 そういうことにしておくか。という、小さな呟きは、ルシェロにしか聞こえない。

「……それにしても、動き出したのか」
「シグル様?」

 ピンクブロンドの髪、甘い香り、純粋で、無垢で……それは、どこか残酷だ。

「なんでもない。そうだな、もう迎えがきてもいい頃だ」
「え?」

 ミシェルのことを尊敬し、敬愛し、あるいは心から愛している人間は多いだろう。
 シグルのように、忘れ去られた第一王子とは、そもそも違う。

「精霊王は、聖女と同じくらい、この国を愛しています」
「何が言いたい」

 カルラが言いたいのは、つまり王国を担う王位を継ぐものを、精霊王は愛しているということだ。

 言いたいことを察したのか、シグルの瞳が、闇を深める。

「それならば、なぜ俺は」
「私にも、わかりかねます」

 わかりかねるのだ、精霊王の見ている世界は、人間にとっては広すぎる。

 人間は木を見る、精霊は森を見る。

 嬉しそうに、ドレスの裾を掴んで、優雅に座るミシェル。平民ではない、その所作は王妃の候補者であり、聖女だ。

「……手放すさ。時が来るから」

 カルラは、シグルに一言告げようとした。だが、カルラは精霊で、シグルは人間だ。
 きっと、気休めにすらならないのだろう。

 きっと、精霊と人間は、見ているものが、違うのだから。

 
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