この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

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夜会と瑠璃色の宝石

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 高い天井に、星よりもまばゆく輝くシャンデリア。
 赤い絨毯、人々は広場を囲むように配置されたテーブルを前に歓談している。

 だが、見た目とは裏腹に、ここは社交界という名前の戦場だ。

 その夜会では、ルナシェと話がしたいという貴族達が列をなしていた。
 王都を賑わせている恋愛劇。ルナシェのまとうドレスと、辺境伯領の特産物。
 以前まで、謎に包まれていた深窓の令嬢は、今や時の人だ。

 しかし、ミンティア辺境伯領令息にエスコートを受けるルナシェに声を掛けられる人間は、そうはいない。

(まあ……。誰も話しかけてこないわ? どうしましょう、ガストにドレスをアピールすると約束したのに)

 どちらかといえば、ルナシェの自己評価は低い。深窓の令嬢として過ごした日々。ルナシェの周りに、同世代の友人はいなかった。そして、ルナシェも自分の立ち位置を正確に理解し、目立とうとはしなかった。

 着飾ったルナシェは、どちらかといえば冷たい氷のような美しさなのだが、本人にはあまり自覚がない。

「どうしましょう。お兄様、誰も話しかけてこないのですが……」
「そのドレス姿を知らしめたいのだろう? 好きなだけ見せておけばよい」

 ルナシェの兄、アベルの言うことこそ正しいのかもしれないが、ルナシェは身内びいきが過ぎるという意見だ。

 その時、夜会のざわめきが一瞬にして静まった。

 振り返ったルナシェの視線の先には、まっすぐにこちらへと向かってくる貴婦人。
 金の髪に青い瞳。シェンディア侯爵家夫人。ベリアスの義理の母だ。

 エスコートしてくれていた、アベルから手を離し、ルナシェも近づいていく。

「――――初めまして。すぐにお目にかかれなかったご無礼をお許しください」
「――――ルナシェさん。いいえ、息子が婚約式にも現れなかったのだもの。お怒りになるのも当然だわ」
「…………いいえ。すでにお会いしてきました。とても素敵なお方です。ベリアス様と婚約できたことを光栄に思っております」

 臨戦態勢に入ってしまっていることを、ルナシェは自覚している。
 だって、この人はベリアス様を戦場に送った張本人。
 ミンティア辺境伯領は、国防の要。最前線の地だ。

 ――――侯爵家の嫡男が配属されるような場所ではない。

「――――素敵なドレスね?」

 優雅な所作で近づいてきたシェンディア侯爵夫人。
 ルナシェの心を塗りつぶす、言いようのない怒り。

(ベリアス様と同い年の弟。母を亡くし、父と義母に戦地へと送られて……。どうして、私は婚約式の日に戻ったのだろう)

 もし、許されるなら、せめてベリアスと出会ったの日に戻りたい。
 きっと、走り寄ったなら驚かれるだろうけれど、傷ついたベリアスのそばにいたいとルナシェは渇望した。
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