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第2章
魔王軍の序列。
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「な、ななな」
あわあわと、口を開け閉めする。
言葉にならないまま、私は目の前の光景を受け入れることができずにいた。
折り重なる兵士の山。
黒い軍服のせいで、黒い小山が出来上がっている。
うめき声や、悔しそうな言葉が聞こえてくるし、徐々に立ち上がって、山が小さくなっていくから、死んではいないのだろう。
問題は、その山を築いてしまった元凶だ。
「な、何やってるの、ルシード!」
私の声が聞こえたのか、ルシードがこちらを振り返り、ニパッと八重歯を覗かせて、私に手を振った。
観覧席から、女性たちの黄色い声が聞こえる。
えっ、国際問題? なに、ガルシア国軍を、倒してしまっているの?
混乱する私をよそに、「序列8位までは、確実だと思っていましたが、序列5位か。想像以上に強くなっていますね」と、私を抱き上げたままのディオス様が、つぶやく。
練武場に着いたのだから、もう降ろしてほしいと上目遣いに見ると、やっと降ろしてくれたディオス様。
そのまま、優しく微笑みかけられる。
その瞬間、会場がひどく騒めいた。
女性たちのざわめきだけなら、理解できるけれど、兵士たちの顔色が悪い上にどよめいている。
それだけで、ディオス様が周囲にどんなふうに見られていたのか、察してしまった。
これを機に、少し親しみやすいと思ってもらえるといいな。そう思って、周囲に微笑みを向けると、なぜか再び会場がどよめく。
「っ……ダメです」
手を引かれて、ぎゅうと抱きしめられた。
淑女が笑いかけるのは、はしたないとか、この国は、そういう文化なのだろうか?
「お願いですから、これ被っていてください」
なぜか、マントを再び頭からかぶせられてしまった。解せない。
マントをかぶってモソモソ動きながら、進められた椅子に座る。その時、急に隣に人の気配が現れた。
「久しぶりの出番! 自分の元まで序列を上げてきた挑戦者の求めには、応じるのが習わし。いいですよねっ?」
「ひっ!」
ものすごく、ウキウキしているのが、見てとれるアベル様。いつのまに、隣に来ていたのですが。気配がなさすぎて怖いです。
ルシードが駆け寄ってくる。
そしてなぜか、アベル様を押し退けて、私の隣に座るルシード。相変わらず、過保護だ。
「姉さんっ! 見てた?」
「……今来たところだけれど、この状況は」
「ガルシア国軍は、序列で全てが決まるらしいから、挑戦していた」
「えっ、どうしてっ」
「え? ディオスが、初挑戦で序列2位まで駆け上がったと聞いたら、挑戦しない選択肢なんてないに決まってる」
……たしかに、ルシードなら、挑戦するだろう。ガルシア兄様はもちろん、普段は冷静なシェアザード兄様ですら、そんな場面なら絶対に参戦する。
基本的に、ルンベルグの人間は、負けず嫌いなのだ。
ところで、ディオス様、いったい三年の間、どんな生活していたんですか。そういうの、興味ないと思っていました。
「さて、序列4位の挑戦権を手に入れた。次の相手は誰?」
「俺ですよ」
「うぉ! 気配ないな、お前」
「お褒めいただき光栄です」
単に、ルシードは、アベル様に気が付いていなかったらしい。
「挑戦、受けてくれるのかな?」
「ええ、久しぶりの挑戦者に、心躍ります」
去っていく二人の背中を見送る。
ルシードが振り返って「姉さん! そのマント、しっかりかぶっていてよ!」と言った。
そんなに私は、周囲に見せられないような姉なのだろうか。解せない。
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