魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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王立魔術院図書館 4

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「普段無表情なアルベルトを揶揄うのは楽しいけど」

 フール様が底意地の悪い顔で笑う。
 そんな表情すら、まるで神か悪魔が作り上げた氷の彫像みたいにどこか儚くあまりに美しい。

「本題に入るよ」

 私たちは二人並んでフール様と向き合った。
 椅子に座るように促される。
 アルベルトが椅子を引いてくれたので、先に座らせてもらう。

「……なるほど、アルベルトの辞書には『気をつかう』なんて言葉ないと思っていたけど、すべてシェリア嬢に注がれているんだね」
「もう、アルベルトは侯爵家の生まれです。誰にでもできるに決まっています」
「そうかな? 先日なんて王女殿下に」
「筆頭魔術師殿」
「――またの機会にするか」

 話の続きが気になるけれど、確かに今は会話を楽しんでいる場面でもないだろう。

「ところで、どうして私のことを王立魔術院図書館に……」
「もうわかっているだろう? 実は3年前から、ずっと招待したかったんだ」
「……」
「けれど、誰かさんが家の力も、魔術師手の能力も、政治的手腕もすべて発揮して妨害してきたからね」

 フール様の漆黒の瞳。その視線の先には、アルベルトがいる。

「おや? 不信感のひとつも表情に浮かべないんだね。意外だ」
「アルベルトは、それが私にとって利にならないと判断したのでしょう。……どうして、話してくれなかったのかと言いたい気持ちはありますが、あのときアルベルトが与えようとしてくれたものをほとんど拒んだのは私ですから」
「なるほど。これはアルベルトがベタ惚れになるのもしかたがない」

 そう言いながらも、フール様は軽薄な笑みを消して真剣な表情を浮かべた。

「確かに、あの時点で王立魔術院に来たなら、君は実験台のような扱いを受けただろう。アルベルトの婚約者にでもならないかぎり」

 それは、容易に想像できる。
 魔力のない人間なんて、百年近くいない。
 確かに事故などで魔力を失った事例はあったが、そのほとんどが数日で死を迎えた。

「……でも、今回の招待は違うのですね?」
「ああ、僕が用があるのは、魔力のない君にしか読めない過去から未来、魔術に関するすべてのことが書かれているその本だ」
「すべて?」
「ああ、初代筆頭魔術師が書いたというその本」

 持ってきた鞄から取り出した本。
 それは、私とフィーを再び出会わせてくれた本だ。

(今日はフィーは、お留守番だけれど)

 離れるのを酷く嫌がっていたフィー。
 もしかしたら、何が起こるか察していたのかもしれない。

 チラリとアルベルトを見上げると、なぜか口の端をあげて小さく微笑んでいた。
 金色の瞳が弧を描き、私の頭を大きな手がそっと撫でた。

「君の好きにしたら良い」
「えっ、でもこれはアルベルトの本」
「俺のすべては君のものだ」
「!?!?!?」
「つまり君が決めれば良い。……ん、どうした?」

 顔全体が熱い。絶対に真っ赤になっている。
 アルベルトはそういうつもりで言ったのではないのだろう。だって余裕の表情なのだから、無自覚に違いない。

 こうして初代筆頭魔術師が書いたという謎の本は、私に託されてしまった。
 私たちを交互に眺めては、ニヤニヤと楽しそうなフール様。
 たぶんアルベルトはあとで、今の台詞のことで揶揄われるのだろう。現実逃避したい私は、酷くぼんやりとした頭の中で、そんなことを思ったのだった。
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