魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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筆頭魔術師の席 1

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 レイラ様は自力で帰るつもりなのだろうか。
 フール様が誘拐してきたのだ。十中八九、それは転移魔法を使っての犯行だろう。

「……レイラ様が、戻ってきた」

 頬を膨らませているレイラ様は貴重だ。
 いつも優雅に微笑んで、高嶺の花という言葉がピッタリなのに。

「このままでは、大事件になってしまうわ!屋敷まで転移魔法で……。フール様は魔力なし。アルベルトは魔力切れ。シェリア……あなた色が戻ってるわね!?」

 いつも冷静なレイラ様が、酷く混乱している。

「でも、まだ使いこなせそうにありません」

 闇魔法は特殊で、場所だけでなく時間も操るのだ。すでに過去の世界にいるけれど、未来に行ってしまったら目も当てられない。

「もう! 役立たずね!」

 レイラ様が怒ったときの言葉。懐かしい。
 怒っていても、フール様が犯罪者として捕まらないように明らかに配慮している。
 そうなのだ、レイラ様は純粋で心優しいのだ。

「……レイラ嬢。普通に僕を憲兵に突き出して屋敷に帰れば良いだろう」

(人の好意を無下にするフール様! そんなことでは、レイラ様の心を射止めるなんてできないわよ!?)

 もちろん、フール様がしたことは許されることではないだろう。
 でも、筆頭魔術師どころか人として認められるために必要な魔力をあんな形で捧げる姿を見てしまえば、同情してしまう部分もある。

「あなたは本当に人の心の機微に疎いわね」
「レイラ嬢」
「この記憶がある以上、私があなたをそんな目に合わせられるはずがないでしょう? バカなの?」

 レイラ様は、今までのレイラ様ではなくなってしまったようだ。あの女性の記憶が戻ったことが原因なのだろう。

「そうねぇ。フールあなた、魔石溜め込んでるでしょう? 風の魔石を寄越しなさい」
「レイラ嬢」
「早く」

 レイラ様がニッコリと笑った。この笑顔と言葉には従う以外の答えが選べない圧力がある。

 可及的速やかにフール様が魔石を選び出し、レイラ様に渡した。

「魔力を失った筆頭魔術師。あなたが邪魔な人も多いし、消されないようにしなさいね」
「……うーん。君に会えたらそれで良かったから、その先までは考えてなかったな」
「本当、バカね」

 額を押さえたレイラ様の気持ちがわかる。
 それにフール様は、あの女性を『師匠』と呼んでいた。
 才能あふれるが、ズレている弟子を持った彼女は苦労の連続だっただろう。

(ところで彼女は、本当に初代筆頭魔術師様なのかしら)

「アルベルト……」
「筆頭魔術師の席が空く。もう少し時間があると思っていたのに」

 アルベルトはアルベルトで、眉を寄せて何か考え込んでいるようだ。

(それにしても、私は怒っているのだけれど)

 そう、このあとの事態が王国全土を揺るがすなんて、もちろん私にだって容易にわかる。
 でも、その前に言わずにはいられないのだ。

 怒りと悲しみ。気持ちは伝えなければいつまでも伝わらない。だから私はアルベルトの上衣の裾を強く引っ張ったのだった。


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