魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

文字の大きさ
47 / 68

筆頭魔術師の席 2

しおりを挟む

 驚いた顔をしてこちらに視線を向けたアルベルト。ほんの少しだけその表情に溜飲を下げながら口を開く。

「この、自己満足男!」
「……何だって? ……どうして急にそんなけんか腰なんだ」
「けんか腰も何も、私は魔力を取り戻すためにあなたを犠牲にしたいなんて思わない!」
「……その話か」

 私の意見を聞かずに、自分の正義を守るアルベルトにますます怒りが湧いてくる。
 そう、こうやっていつも私たちは自分たちの意見が、思いが、すれ違う度にけんかをしてきた。
 その源は、お互いのことを思っているからだと気がつかないで。

「――気に病むに決まっているわ」
「シェリア……?」
「私にとって魔力を持っていることは、唯一他の人より優れている部分だったに違いないけど」

 私はオッチョコチョイで、しかも実家での扱いも酷く、何の価値もない人間だ。
 たった一つ、私を輝かせるものがあるとすれば、魔力と魔法を行使する才能だけだっただろう。

 ――それが奪われた私には、魔力がないとひと目でわかる見た目と努力と根性しか残らない。

 魔力を取り戻し、魔力が強いとひと目でわかる見た目を取り戻した今、確かに周囲はようやく私がアルベルトの隣に立つのにふさわしいと認めてくれるだろう。

「そうだな。君は確かに天才だ。嫉妬するほどに」
「……アルベルトにとっては、天才ではない私は愛する対象ではない?」

 自分で発した言葉に、ひどく傷ついた瞬間、強く抱きしめられていた。
 息が苦しいほど抱きしめられた上に、上を浮けばボロボロと頬に雫がこぼれ落ちてきた。

「は? 俺は、どんな君でも好きだ」
「……えっと」
「本当は嫉妬するほど輝く君より、俺だけの君でいてほしかった」
「な、何言って」
「でも、君はやっぱり魔法に関することだけで、心から笑ってくれるから。自信に満ちあふれた表情で、俺の隣に立って」

 面と向かって言われると、それはそれで照れくさいし今すぐここから走り去りたくなる。
 けれど、それは私が何よりも欲しい答えでも合った。

「そう、それならこれからは私を泣かさないように無茶せず反省しなさいよ。そうすれば、許してあげる」
「君は本当に可愛くない……」

 その言葉と裏腹に、口元を緩めたアルベルトの瞳はまっすぐ私を見つめていて、その潤んだ瞳の中には頬を赤らめた私が映り込んでいる。

(もしかして王立学園でも私はこんな顔をしていたのかしら? だとしたら周囲にはこの気持ちなんて見え見えだったわね……)

 少しずつ近づいてきた距離、私はそっと目を閉じる。そのときだった。

「お願いだからそういうのは、人のいないところでしてくれる?」

 ため息と一緒に発せられた言葉に、思いっきりアルベルトの胸元を押して距離を取った。

(そうだった……。フール様とレイラ様も同じ部屋にいたんだった……!)

 急速に熱くなってしまった頬、アルベルトに視線を送るとすでに真面目な表情になっていた。
 すっかり周囲が見えなくなっていた私と、周囲を気にしていなかっただけのアルベルト。

 ――学生時代から全く変わることがない構図だ。

「まったく……。さて、風の魔石も貰ったし、この魔力を使えば屋敷に戻ることもできるわね」

 レイラ様は受け取った大きな魔石を指先で弄びながらつぶやいた。

「ところで、フールは何年分くらい魔力をため込んでいるのかしら? 適当に見えて計画的で完璧に準備を整えるあなたなら、この状況を予測していなくたって対応できるだけの魔力をため込んでいるでしょう?」
「よくご存じで……」

 フール様がニヤリと笑う。
 そこからは、先ほどまでは感じられなかった、筆頭魔術師としての余裕が感じられる。

「あなたのことなら何でも知っているわ。あくまで記憶の中の遠い昔のあなたのことだけだけど」
「そうだな、あと二、三年は筆頭魔術師の職位を全うできる程度にはため込んでいる」

 筆頭魔術師の仕事には、魔獣が大量発生したときの討伐任務、王都を守るための結界の維持、多種多様な魔法の研究など、想像を絶するほどの魔力を必要とするものが多い。

 生まれ持った魔力量、それを活用する天性の才能、そして過酷な任務に堪える胆力すべてを持つものだけが筆頭魔術師になることができるのだ。

「二、三年維持できるって……。普通の魔術師の一生分の魔力ね。あなたって、本当に」

 レイラ様が半眼でフール様を見つめた。
 あまりに麗しいけれど、その姿からは以前と違って大人の雰囲気も感じる。

「――僕は運が良かった。最高の師に出会わなければきっと命がなかった。死んでしまったらそこで終わりだ」
「そうね……。でも、そのためにあなたはこんなに長い時を生きることになった。私の落ち度だわ」
「――感謝しています。今は」
「そう……。では、私を手に入れたいならせいぜい頑張ることね? 今、あなたが筆頭魔術師の職を失ったら、私は確実に隣国の王族か国内の有力貴族と結婚することになるわ」

 にっこりと笑ってフール様がもう一つ手にしていた魔石を床に落とし、足の裏で強く踏んで割った。
 次の瞬間、フール様の白銀だった髪とグレーの瞳は漆黒に変わった。

「それにしても、いったん魔力を失ったせいか、僕の時間が動き出したみたいだ」
「そうね……」
「動き出した時間。いくら時が残っているかわからないけど」

 フール様が微笑めば、この空間の時が止まったように感じる。
 それはこの世界にあってはならない類いの美貌だ。
 この顔で微笑まれたなら、誰もが心臓を鷲づかみにされてしまうに違いない。

 そんなことを思っていると、大きな手が私の瞳を覆い隠した。こんなことする人は一人しかいない。

「……アルベルト、何するのよ」
「他の男に見惚れるなんて浮気性だ」
「見ていただけよ」
「見るだけでも嫌だ」

 アルベルトはこんなにも我が儘だっただろうか……。
 そんなことを思っている間に、少し離れた位置から可愛らしい悲鳴が上がった。

「な、なななな……何するのよ!」
「ずっと好きだった。でも、今の君のことを知りたい。時間内に僕に振り向いて貰うから」
「だ、だからって同意もなく!!」

 塞がれてしまった視界の先では、何か楽しげなことが起こったらしい。
 気になりすぎて強引にアルベルトの手をどけると同時に、乾いた音が室内に響き渡った。
 フール様が頬を押さえている。なぜか嬉しそうに。そして、手のひらを撫でるレイラ様は耳まで赤い。

「では、ごきげんよう! 早々私に会えると思わないことね!」
「はは。もちろん、このあとすぐに求婚状を公爵家に送るね? 筆頭魔術師の力が欲しいばかりに邪魔者を排除しようとした君の父上のことだ。どう出るか楽しみだ」
「……っ、失礼するわ」

 緑色の閃光。風の魔石が残した強い風は、室内をグシャグシャに乱した。
 こうして嵐のようにレイラ様は去って行ったのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

処理中です...