49 / 68
闇魔法の研究 1
しおりを挟む王都中に噂が駆け巡る。
曰く、アルベルト・ローランドは筆頭魔術師フールと契約を結びその力を借りて愛するシェリア嬢の魔力を取り戻した
「いやいや……。借りてないし、そんな恋愛物語みたいな展開じゃないわよ」
曰く、筆頭魔術師フールとアルベルト・ローランドは恋敵だったが、愛するシェリア嬢のために力を合わせて彼女の魔力を取り戻した
「――フール様だけは嫌」
曰く、実はシェリア嬢が魔力を失ったのは、その実力を隠すためのまやかしであった
「本当になくて、本当に不便だったわよ!! しかも、今はもっと不便になったわよ!!」
それらの噂は、あまり周囲との関係性を持たずに生きてきた社交界に縁遠い私の耳にはなかなか入ってこなかった。
だから、情報通のミラベル様が教えてくれるまで知らずにいたのだ。
しかも、闇魔法を手に入れて髪と瞳の色を取り戻したものの、闇の魔力は他の魔力を打ち消し、打ち消されてしまうため、魔石を使って魔法が使えなくなり、普段通りの生活をアルベルトの手助けなしに行うことすら難しくなってしまったのだ。
(こんな噂、一生知らずにいたかった。しかも、魔力を取り戻したせいで今までよりも不便になるなんてことある!?)
「それで、それで、筆頭魔術師フール様と兄様のどちらを選ぶの!?」
ミラベル様が噂話をする度、好奇心に瞳を輝かせて私に質問を投げかけていたジルベルト様がさらに質問を重ねてきた。
その声で我に返る。もちろん、選ぶ以前にフール様のことは恋愛相手として眼中にない。
「あの人嫌い」
「ふーん。つまらないの」
「こら! ジルベルト!」
ミラベル様に怒られているのに、ジルベルト様はあいかわらず楽しそうだ。
あいかわらず双子の二人は仲が良い。
(それに、フール様には長年執拗に愛し続け、追いかけ続けた人がいるしね……)
もうすぐ、私たちの噂は筆頭魔術師フール様があるご令嬢に一目惚れして熱烈に求婚したという噂で塗り替えられるに違いない。
間違いなく、そのときは近づいている。このあと、レイラ様とお茶会をする予定だ。
――そこで真相は明らかになることだろう。
***
「お招きいただきありがとう」
「ええ、お話しできて嬉しいです」
お茶会の席に現れたレイラ様は、あいかわらず完璧に装いを整えていたけれどその目元には隠しきれない疲労が浮かんでいた。
今、デルフィーノ公爵は急にレイラ様に求婚状を送りつけてきた筆頭魔術師、フール様の本心を探るべく疑心暗鬼らしい。
レイラ様もただで受け入れるつもりはなく『では、今日中に深海の大王貝の真珠をもってきて』などなど無理難題を出しているが、フール様はそれらすべてを簡単に解決しているらしい。
「深海の大王貝の真珠については『あ、それ持ってるな……。海辺の街を魔獣から救ったときに無理矢理押しつけられたけど、君に捧げるための出会いだったか……』のひと言だったわ!!」
「わぁ……」
もし持っていなければ、海の水を干上がらせてでも手に入れてきた気がする。
だからフール様にあまり無理難題を言わない方が良いのではないか、そんな気持ちでいっぱいだ。
「それで、受け入れるんですか?」
「……知らない男に嫁ぐよりは良いかもね。ただし、名ばかりの契約結婚なら」
「……」
少しだけフール様に同情してしまった。
けれど、彼ならいつかレイラ様自身の心も手中に収めるのだろう。これは予感ではなく、きっと確定された未来だ。
「――それに時間があまりないから、私も腹を据えないとね」
「……それは」
それだけ言うと、レイラ様は席を立った。
そして、にっこりと微笑んで今の会話はこれで終わりだと態度で示す。
「相談に乗ってくれてありがとう。それから、お詫びするわ。我が家があなたを巻き込んだ非道を」
「……」
さすがに私も気がついていた。あの事件の犯人に……。
筆頭魔術師を代々輩出しているのは、ローランド侯爵家だけではない。
一代前の筆頭魔術師はローランド侯爵家出身、その前はデルフィーノ公爵家だ。
どの家にも属さず、平民から成り上がり長い年月その地位にいるフール様が特別なのだ。
「父がアルベルトを亡き者にしようとして、あなたを傷つけてしまったという事実に気がついたとき、次の筆頭魔術師が決まると同時に我が家は滅びると確信したわ」
「……ま、まさか」
「アルベルト・ローランドは筆頭魔術師になった途端、その権力と能力と残忍性全てを露わにしてあなたを傷つけたデルフィーノ公爵家を破滅に導いたでしょう。私も巻き込まれて良くて辺境へ追放、悪くて頭と胴が別れるわね」
「いくらアルベルトでも、レイラ様をそんな目に……」
「いいえ、あなたをいじめた彼の二の舞になるのは間違いないわ」
「あれは偶然」
「言い切れる?」
「うぅ……」
因果関係がないと言い切れるだろうか。学生時代に私を泣かせた同級生は、次の日から学園に来なくなった。話に聞く限り、親が急に領地に帰ることになったため、領地の学園へ転校したらしいけれど……。
(いやいや、でもまさか、当時私たちはただのバディでそこには友情しか……)
「あなた絡みでは彼を敵に回したくなかったわ……」
「……レイラ様」
そのとき、お茶会をしていた応接間の扉が叩かれた。
「そろそろ時間だ、シェリア」
「ええ……。そうね」
「では、お暇するわ。王都で噂の恋人たちの逢瀬を邪魔したくないから」
「……ちが! 今から私たちは研究を!」
「あなたたちってあいかわらず色気がないわね……。まあ良いわ。恋人の形はそれぞれ自由だから。では失礼します。ああ、アルベルト。あなたたちの恋路は応援してあげるから、私のことは見逃してね?」
アルベルトに視線を向けたレイラ様がにっこり微笑んだ。
アルベルトが眉間にしわ寄せ、ほんの少し考える素振りを見せてから口を開く。
「考慮する」
「ちょ! アルベルトまで!?」
「約束よ?」
レイラ様は大きな緑色の魔石を取り出した。
強い風が吹き、応接間がボロボロになってしまうと慌てたけれど、家具も置物もコトリとも動かずに魔法が発動してレイラ様は消えた。
――筆頭魔術師の執務室がボロボロになったのは、彼女の怒りによるものだったのかもしれない。
「ほら、さっさと闇魔法について検証するぞ」
「ええ……。そうね!」
差し出された大きな手を取る。その手は温かくて力強い。
王立学園以来、アルベルトと一緒に研究するのは本当に久しぶりだ。
心浮き立ちながら、その手にひかれて私は席を立ち、歩き出したのだった。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
勝手にしろと言ったのに、流刑地で愛人と子供たちと幸せスローライフを送ることに、なにか問題が?
赤羽夕夜
恋愛
アエノール・リンダークネッシュは新婚一日目にして、夫のエリオット・リンダークネッシュにより、リンダークネッシュ家の領地であり、滞在人の流刑地である孤島に送られることになる。
その理由が、平民の愛人であるエディットと真実の愛に満ちた生活を送る為。アエノールは二人の体裁を守る為に嫁に迎えられた駒に過ぎなかった。
――それから10年後。アエノールのことも忘れ、愛人との幸せな日々を過ごしていたエリオットの元に、アエノールによる離婚状と慰謝料の請求の紙が送られてくる。
王室と裁判所が正式に受理したことを示す紋章。事態を把握するために、アエノールが暮らしている流刑地に向かうと。
絶海孤島だった流刑地は、ひとつの島として栄えていた。10年以上前は、たしかになにもない島だったはずなのに、いつの間にか一つの町を形成していて領主屋敷と呼ばれる建物も建てられていた。
エリオットが尋ねると、その庭園部分では、十年前、追い出したはずのアエノールと、愛する人と一緒になる為に婚約者を晒し者にして国王の怒りを買って流刑地に送られた悪役王子――エドが幼い子を抱いて幸せに笑い合う姿が――。
※気が向いたら物語の補填となるような短めなお話を追加していこうかなと思うので、気長にお待ちいただければ幸いです。
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる