魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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闇魔法の研究 3

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(先ほどの言葉は、私に前を向かせるためにあえて言ったのよね?)

 ジットリとした私の視線に気が付いたのか、アルベルトが美しい笑みを見せた。
 絶対に彼は自分の美貌を理解している。
 誰もが振り返るような美しさを持っている者だけに与えられた特権だ。

「……冗談よね」
「残念なことに心からそう思っている」
「……」
「……」

 無言のまま私たちは見つめ合った。
 先に視線を逸らしたのは、もちろん私だ。

「えっと、そうね! とりあえず魔道具を使えるかよね!」
「ああ、だがその問題は、この屋敷内に限定するなら間もなく解決する」
「え?」
「闇属性だけに反応するように、君専用の魔道具を各所に取り付けた。風呂の湯も沸かせるし、暖房も冷房も自由に使える」
「アルベルト……!」

 この短期間でそれだけのことをやってのけるなんて、やっぱりアルベルトは天才だ。
 尊敬の視線で見つめているとアルベルトが再び少々曇った瞳で私を見つめて微笑んだ。

(まって! 何も言わないで! あなたを尊敬だけして生きていきたい!!)

 しかし、その願いは叶わず、アルベルトが口を開いてしまった。

「君は外の世界と違い快適で暖かいこの屋敷で過ごす。そう、この屋敷以外では生きられない体になるんだ。素晴らしいな……」
「言い方!!」
「……しまった、本音が漏れ出した」

 学生時代、アルベルトと私がすれ違い、四六時中喧嘩ばかりしていたのは、そういうところだとおもう。

 けれど事実、王都中の魔道具を闇の魔力に反応するように改造するわけにもいかず……。
 私の快適、ローランド侯爵家ひきこもり生活が幕を開ける気配がするのだった。

 ***

 お風呂から出て、図書室に行くとジルベルト様が勉強中だった。
 王立学園の教科書が積み上げられている。取り組んでいるのは、高位魔術式。
 ジルベルト様の優秀さが垣間見える。

「ジルベルト様、ここで勉強しているなんて珍しいですね」
「兄様が落ち込みすぎて空気が重いんだ」
「……それは」

 アルベルトが落ち込むなんてよほどのことがあったに違いない。
 いつでも自信に満ちあふれ、それでいてその態度が許される実力を兼ね備えたアルベルトがわかりやすく落ち込むなんてとても珍しい。

「兄様は、僕にとって完璧な人だった……」
「そうね、アルベルトは素晴らしい人よね」
「うん。でも、シェリア様がこの屋敷に来てからとても人間らしくなった」
「人間らしく……?」

 アルベルトは確かに完璧で、実力を兼ね備えた素晴らしい人だ。
 でも、王立学園で一緒に過ごしたアルベルトは……。

「今思えば、どう足掻いても叶わない兄上に対して妬みを感じていた」
「妬み……?」

 傍目に見ていても、アルベルトと弟のジルベルト様は仲良し兄弟だ。
 それなのに、妬んでいたなんて……。

「兄様とまともに会話することもなくいたんだ。そのせいで、家の中でも兄様は一人でいることが多かった。僕に気を遣っていたんだと思う」
「……え?」
「兄様にも心があるってわからなかった僕の責任だ」
「……」

 アルベルトは案外寂しがり屋で、人と距離をとるのが苦手で、負けず嫌いで、それでいて案外面倒見が良くて……。
 私の知っている彼とジルベルトがいう兄様がかみ合わない。

「ありがとう、姉様」
「え……?」
「僕は姉様を歓迎する。心から……。だから」
「ジルベルト様」
「だから、兄様が姉様を閉じ込めようと画策していても許してあげてほしい!」

(この二人は兄弟だなぁ……)

 美貌の兄弟は、お金も人脈も地位も名誉も持っていて周囲から完璧に見えるだろう。
 そして、感動話をぶち壊しにしてしまう才能は共通だ。
 私は曖昧に笑い「承知したわ」と答えるにとどめ、図書室を去ったのだった。

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